■ セイラムの風〜From Etsuko #020--コットンウッド物語〜初夏の風に舞う白い綿毛(2)
セイラムの風 目次
ちょうど、タイミングよく友人のNさんが、中国に旅行なさり、「初夏の風に舞う白い綿毛」を調べて、6月の始め頃には、何か報告できるだろうとのことでした。なので、パイオニア精神の元祖、アメリカに住んでいることにちなんで、先の分らない2部構成の「コットン物語」に出発しました。 先ず、1部をリリースしてからの収穫から書き始め、Nさんの便りを待ちたいと思います。

コットンウッドの大樹
ウィラメット川に沿って、沢山のコットンウッドの大樹が葉を輝かしている。このように水辺に生えていることが多い。近所のミル・クリークでも河岸に沢山あることが分った。
かつて、西部に向かう開拓者たちがサンタ・フェ(Santa Fe)あるいはオレゴン・トレイル(Oregon Trail)を使って、大平原(Great Plains)を越える時に、長期間にわたって、樹木に出会わないことが、しばしばでした。 樹木のほとんどない大平原は、オハイオ・バレー(Ohio Valley)、アパラチア山系(Appalachian mountains)、ニューイングランド(New England)など、東部から来て西部を目指す人たちにとっては、とても違った、思いもかけない、時には、牙を剥き出すような熾烈な環境に感ぜられました。

なぜなら、東部の地方は通常、樹木の緑に囲まれていて、そこに住んでいる人たちは、それが普通だと思っていたからです。開拓者にとって、樹木がないと言うことは、炊事のための燃料がないことであり、彼らはモンゴルの草原地方の人たちがやっているように、野牛(bison)の乾いた糞を燃料の代用にして、炊事をしました。また、平らな大平原で樹木がないことは、日陰がないことで、夏の暑い日にはとても過酷なことでした。

こんな熾烈な環境にも、うまく適応して育っている樹木も中にはありました。それらは、初夏から秋になると、薄い木の葉が風にくるくると舞い、キラキラと輝いて、遠くからもよく見える木です。開拓者たちは、それを見つけると、何時も大変喜びます。なぜなら、薪と日陰があることが期待できるからです。もっと嬉しいことに、その木は水辺にあることが多く、そこには、水があることも多いのです。その木がコットンウッド(Cottonwood)と呼ばれている木なのです。

朽ちた大樹
朽ちた大樹は中が洞になっていて、小動物・昆虫の住みかになる。
乾燥した平原には野火が発生するので、樹木はそれを生き延びなければなりません。コットンウッドは、それを生き延びてきたのです。その秘密は、川、湖などの岸辺に成長することと、コルクのようなとても厚い樹皮で身を守ることです。フワフワした綿のようなものに包まれた小さな実は、風に乗って遠くまで広がり、多くは水面に落ち、流れに運ばれ砂浜、小島の海岸、川辺にたどり着き、そこから新しい生命が始まり、川沿いに木の列をつくり平原の様相を変えていきます。晩夏の渇水期になり水面が下がって来ると、初夏の頃の水際であったあたりに、新しいコットンウッドの新芽の列を見ることが出来ます。

コットンウッドは100年以上も生き延びるので、今日、大平原にあるコットンウッドの多くは、バイソンの大群があたりを支配していたのを見て成長して来ているのです。後で都会となったところで育った木も、人や政治の栄枯盛衰を見てきた生き証人なのでしょう。

Nさん採取の中国の楊の葉
Nさん採取の中国の楊の葉。セイラムのもと比べるとぎざぎざが大きい。
セイラムのコットンウッドの葉(表と裏)
セイラムのコットンウッドの葉(表と裏)。これらも、中国の葉と少し違うがよく似通っている。
この木、コットンウッドは、北米、ヨーロッパ、そしてアジアに特有のポプラ(Popla)や、アスペン(Aspen)と同じ種類で、フルフルと動き、日に当たってキラキラと輝く葉を持っているのが特徴です。20-45mほどに成長する太い幹を持った大きな落葉樹で、厚い樹皮、両面が緑の三角形あるいはダイアモンド形のハッカ性の香の葉を持っています。また、平らな葉柄を持ち、風にあたると独特のフルフルした動きをするので、これがコットンウッドだと分かりやすいようです。私たちが、先日、ミントブラウン・パークで見たときも、高い梢からフルフルと動きながら、キラキラ、ヒラヒラと声を掛けてくれました。

樹にはメスとオスがあります。春になると葉が茂る前に花が咲き始め、種は遠くまで飛んで行かれるよう綿毛の装いをしています。この綿毛が、綿花に大変よく似ているのでコットンウッドと呼ばれたのですが、織物になる綿はまったく別の木です。この木は洪水、浸食に極めて強く、幹の周りには洪水が堆積物を残していきます。

北アメリカでは、3種のコットンウッド-イースタン・コットンウッド(Eastern Cottonwood)、フレモント・コットンウッド(Fremont Cottonwood)、そしてブラック・ポプラ(Black Poplar)-が生育していて、アメリカ東岸から西海岸、カナダ南部の広い地域に分布しています。成長が10-30年と早いので製材用として、多くは湿地帯で栽培されました。また、一方では防風林(Screen)、あるいは避難地帯(Shelterbelts)としても植えられました。コットンウッドは植えてしばらくは水遣りが必要ですが、根が張りいったん地下水脈に達すると、自分の力で成長し、長く生き続けると言われています。

開拓者が定住して住居を構えるようになると、野火の防止を目的にして、あるいは、防風林、材料用のいろいろな樹木が、大平原(Great Plains)一帯に植えられ、これらの新しい森は、かつてはコットンウッドがポツンポツンとしか立っていなかった川岸まで広がってきました。この新しい樹木帯には、今まではその辺りには住んでいなかった動物がすみ始めたりして、特徴的な生育環境帯をなしてきました。ここ、セイラムは1850年頃から人が住み始めたので、そのころ育ち始めた樹木たちが、今は大きくなって私たちを楽しませてくれているのでしょう。

Nさん採取の綿毛のサンプル(中国)
Nさん採取の綿毛のサンプル(中国)。
左:敦煌、右:北京
私たち採取の綿毛のサンプル(セイラム)
私たち採取の綿毛のサンプル(セイラム)。中国のものと比べてもほとんど同じに見えますね。
待っていた、Nさんからの訪中からの帰国メールが届きました。 とても興味深い内容ですので、引用させてもらいます。(一部編集)

「北京から天津までの2時間も続く高速道路の両脇には楊と柳が植えられていましたが、時たま綿毛が飛ぶのを見るだけで、柳絮の季節は過ぎていました。やはり4月末から5月中の時期が綿毛の舞う盛りでした。でも、北京の人が採集してくれ、柳絮のサンプルを入手できました。北京の街を人力車に乗って観光している時に、柳絮が飛んできたので、どの樹から舞っているのかと運転手に聞いたら、この樹だと教えてくれました。土地の人が言うのですから間違いはないと思います。楊の樹から葉を採集しました。

敦煌でガイドの方に柳絮が舞うかと聞いたら、季節は過ぎたが舞うとの情報でした。白楊樹から綿毛が飛ぶとのことで、幹が白っぽい楊樹です。ホテルの庭を散歩していると、時たま綿毛が飛んできますが、どの樹から飛んでくるのかを確認出来ませんでしたが、綿毛のサンプルを採集できました。敦煌は種々の楊柳が至る所に一面に生えていました。

敦煌、北京の柳絮のサンプル、セーラムの写真を並べてみましたが、素人の私には識別はできません。敦煌の楊の葉を並べてみました。似た形状の葉が種々あります。北京の葉は運転手から教えてもらった楊の葉で、幹は白くて10mの大木で、枝が大きく伸びています。」

広大な中国の大地にも、普通の人の目には違いが分らないほど同じ、あるいは似通った白い綿毛を飛ばしている木々が沢山あることを知ることが出来ました。このことは大変興味深く、広い中国の街を、大地を、あちこちふわふわと飛んでいる綿毛を思い浮かべて、楽しんでいます。セイラムと中国の綿毛と葉の写真を載せますので、見比べて見ましょう。こんな楽しみを下さった、Nさんの丁寧な、好奇心をプッシュする調査に感謝です。

無数の綿毛
細い枝?に無数の綿毛がついている。高い梢にあり、実際には写真とは上下が反対にぶら下がって、綿毛を飛ばしたり、飛ばしきらない内に房全体が落ちてきたり(これがその写真)する。
コットンウッドの樹を知ってから、注意して周りを見ると、私たちの家の近くにも、沢山あることが分りました。際立って高い木の多くがそうなのです。ミル・クリーク沿いに主にあります。6月も末になるとさすがに、綿毛の数は減りましたが、先日、セイラムより何百マイルも北のシアトルにイチロウの応援に行った時、セーフィコ・フィールド球場に綿毛が舞っていました。アムトラックの沿線では、梢に白い綿毛の束を見かけました。これから季節がすすみ、夏から秋になるにつれ、コットンウッドの葉は鮮やかな黄色に染まり、秋の爽やかに晴れわたった青空と絶妙のコントラストを見せでしょう。この時になると、後から植えられて生育環境を共に作ってきた他の樹木とは際立って違って見え、草原の時代からの、真のパイオニア(Pioneer)は私なのだと宣言しているかのように見えることでしょう。秋になったら、ミントブラウン・パークに出かけて、夏とは違った存在感を見せることであろうコットンウッドを、改めて眺めてみたいと思っています。 近所の木々も新しい視点で見てみたいと思っています。

2005/07/02-from etsuko
セイラムの風 目次
MAILHOME
Copyright cafe etsuko All rights reserved.