■ セイラムの風〜From Etsuko #019--コットンウッド物語〜初夏の風に舞う白い綿毛(1)
セイラムの風 目次
一昨年の2003年、初めて来た セイラム(Salem)の6月に、初夏の風に舞う白い綿毛を見ました。 セイラムの50マイル南のコーヴァリス(Corvallis)でも、70マイル北のポートランド(Portland)でも舞っていました。なんだろう?と思い、アメリカ人の友達に聞いてもはっきりは分りませんでした。昨年も5-6月に盛んに舞っていました。今年は桜も早かったように、やや早めに 4月から、舞い始めました。暖かな夕方が最も盛んのように思います。また、改めてアメリカ人の友人に尋ねてみましたが、「何かの花粉だと思うよ。でも、詳しくは知らない。」程度でそれ以上には話が進みませんでした。でも、なんとなく、私たちは、北の地方に生育する背の高いポプラか何かの花粉では?と感じていました。

草に舞落ちた綿毛
草に舞落ちた綿毛。
そんな折、たまたま、夫が自然観察に詳しい日本の友人Nさんに、このことをメールすると、「柳の花粉ではないか、中国では見かけたが、アメリカにもあるだろうかとちょうど話題にしていたところだった。」と応答がありました。そう言えば、俳句の季語に、柳絮(りゅうじょ:春になると柳の熟した実から綿毛を持った種子が飛び散る。広辞苑)がありました。それで、もう一歩踏み込んで調べてみようかと思いたち、先日、家の近くを舞っている綿毛を採取しました。とても軽い綿毛は、掴まえようと手を伸ばすと、そのかすかな空気の揺れに、するりと逃げてしまいます。でもたくさん舞っているので、なんとか採取できました。
大きさがいろいろあるのではなく、大きく見えるのは何個かくっついているもののようです。一つはケシのような小さな実の周りに、直径数ミリから10ミリ程度の白い綿毛がついた可愛いものであるのがわかりました。

コットンウッドの並木道
コットンウッドの並木道。右側後方と中央の高い木。50メートル以上はありそう。
こんないきさつを聞いていた友人が、ウィラメット川の河畔にあるミント・ブラウン・パーク(Mint Brawn Park)の川辺を散歩中に、綿毛が沢山飛び出して来ている木を見つけたと、綿毛がいっぱいついた枝を持って来てくれました。コットンウッド(Cottonwood)と呼ばれる木であると、教えてくれました。そう言えば、パークに隣り合ったコットンウッド・レイク・ゴルフ・コース(Cottonwood Lake Golf Course)でプレイした時、盛んに舞っていたようだったのを思いだしました。コットンウッドと言うキーワードが分れば、インターネット、辞典などで調べることが出来ます。いろいろ分ってきました。これら集めた/集めている情報を参考にして、「コットンウッド物語」を書いてみようと思いますが、これからどんな展開になるか、ある意味で、リアルタイムなので、私自身にも分らない楽しみがありそうです。
この「コットンウッド物語」への挑戦(大げさですね?)のキッカケを下さった夫の友人Nさんは、蛾の観察を中心にした自然観察を長年続けていらっしゃって、子供たちにも自然を学ぶことの面白さを教えていらっしゃいます。私が先日採取した綿毛をご覧になって、前のコメントに続けて、こんなお便りメールを頂きましたので、ご紹介します。

綿毛
木の器に綿毛を入れて玄関に飾っています。
「この花粉は柳のものです。樹木図鑑を見ると、柳は元々中国から移ってきたと書いています。ユーラシア大陸全域に分布していて、このような大きな花粉が出るのは、北方域に生息している種類のようです。日本では柳の花粉が舞うと言う話は余り聞きません。このセーラムの花粉が中国のものと同種かは分りません。偶々、5月19日から1週間程、仕事を兼ねて北京、天津、敦煌を訪問する予定です。ここではきっと柳絮が舞う光景に出会うと思います。ここで花粉を採取して、セーラムのものと比較してみます。その報告を5月末には出来ると思います。」

柳、ポプラ、コットンウッドは親類、あるいは元来同じものなのかしら?舞っているのが1種類なのか、何種類か違ったものが混じっているのでしょうか?日本でも北海道あたりの北の地方では、白い綿毛が舞っているのかしら?・・・それとも??・・・やや混乱してきました。

ここまで書いたところに、私たちの不明を心配なさったのか、実にタイミングよくNさんから追信メールが来ました。

葉
葉は縁が丸みを帯びたギザギザになっている。葉の柄が平らなので風にあたると独特のフルフルとした揺れをする。
「中国では柳類を総称して楊柳と言っています。楊が柳絮と言う花粉を出しているのですが、日本ではこの木をポプラと呼んでいます。どうも中国では楊と柳の言葉が混同して、正確には楊絮と言うべきところを柳絮と言っているのではないかと私は思っています。もしかしたら李白、杜甫などの詩人が用いたので、普及したのではないかとも考えています。今回中国に行って、識者にこの辺の所を聞きたいと考えています。
植物図鑑で調べたことを参考に追記しておきます。ヤナギ科にはヤマナラシ属とヤナギ属があります。中国ではヤマナラシ属を楊と呼び、ヤナギ属を柳として区別しています。ヤマナラシ属(Populus)この属が楊であって花粉を発散する部類です。北半球の北部に100種以上あって、日本には高山、北海道などに3種が自生しています。明治以降、セイヨウハコヤナギなどが導入されて、学名のポプラの名で親しまれています。恐らく北大のポプラ並木などではないでしょうか。中国にはシルクロードのオアシスにも生えていて、50種以上分布しています。北米の生息状況は不明です。一方のヤナギ属(Salix)中国では柳と言って300種以上も分布しています。この中には例のシダレヤナギなども含まれていると考えます。」

このメールで、いろいろと絡んでいた糸が、ほぼ解けて来た感じがします。同じ木、あるいは同種の木を、アメリカでは「 コットンウッド」、日本では「ポプラ」、中国では「楊」と呼び、それは春/初夏になると「白い綿毛」を出し、これが優雅にそよ風に舞うのです。

ミント・ブラウン・パーク
ミント・ブラウン・パーク。木漏れ日に舞い散る綿毛がとても綺麗だった。写真に写っていないのが残念。
早速、暖かで穏やかな午後、夫とともにミント・ブラウン・パークに行ってきました。パークの駐車場で出会ったご夫婦にコットンウッドのことを尋ねたところ、とても喜んで教えてくれました。ここでの散歩をいつも楽しんでいるような感じのご夫婦でした。「水が好きなこの木は川の傍に生えています。この道をしばらく行くと葉がヒラヒラして、とても高い木が沢山あります。それがコットンウッドです。」と。道を歩くにつれ綿毛が沢山舞っていて、草や花にふんわりと舞い降りています。道には綿毛の付いた枝があちこちに落ちており、見上げると他の木々より一段と高い木がありました。コットンウッドです。並木のようになっている所もあります。
実は、私たちはこの道は初めてではなく、前にも散策したことがあったのですが、いままで見ていたのにコットンウッドだとは、気が付かなかったのです。綿毛を拾ったり、木や葉を観察したり、一時間ぐらいの散策を楽しみました。葉には気持ちを落着かせるような、幽かな良い香がありました。これらが一緒になって、ミント・ブラウン・パークを市民の憩いの場にしているのでしょう。
この散策は、森林浴、日光浴に加えて、新しいものへの期待を抱かせてくれる素敵なものでした。このように、私の好奇心を刺激して、知的な遊びの世界へプッシュして下さり、Nさんにとても感謝しています。話が膨らんで、私になかった知識が、楽しみながら増えて来たと言えるのでしょう。これからしばらくは、風に舞う コットンウッドの白い綿毛を、食事のテーブルから、散歩中に、バスの中から、見ながら、Nさんの中国での調査がすすむにつれ、私たちの探訪につれ、この話の続きがどんな方向に発展して行くかとても楽しみです。

2005/05/14-from etsuko
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