butoh/itto GooSayTen







「腕の立ち上げ」レッスン - ボディラーニングの一例



解  説 - 「腕の立ち上げ」レッスン


このレッスンについては文字と画像でかなり丁寧に解説をしているのですが、
この内容を読んで眺めただけでは、その体験の実際については分からない…
ということが最近、はっきりしてきました。

身体的な感覚が開いていなかったり、日常的な意識のままで試しても、
このレッスンの意味には気がつかない、ということです。
もちろん、体験した人たちの中には、かなり気に入って自宅でも続けたり、
他の人にも勧めたりしているのですけれども。

ポイント― 「あっ、そうかあ!」「分かった!」という「アハー体験(Aha!)」や
「ユリイカ体験(Eureka!)」がないとき、それは「腕の立ち上げ」ではありません…。
そうした「分かった」感覚がないときには、画像にあるような「かたち」だけのこと
だと思って、ぜひ再挑戦してみてください。  (7/27,2002記)


寝転がれる程度のスペースがあればどこでも試せるのでお勧めのレッスンです。
「感覚の覚醒」「カラダが自らを学んでいく」プロセスを体験するのに適しています。
この数年、ボディラーニングやダンスセラピー・ワークショップの参加者、精神科
ディケアの参加者や、などを中心に、延べ千人以上の方々に指導をしています。
体力のない方でも無理なくできますので、是非試してみて下さい。


主な目的は、
  1. 腕の重さの感覚を取り戻すこと。
  2. 受動的な「動き」を感じること。
  3. 腕と肩の脱力状態を感じること。
です。

手順は以下の通り。

-0.床に仰向けに横たわる。
 (腰痛などがある場合は、膝を立てた膝立て仰臥位でも良い。)
-1.両腕を床に沿って左右に横に拡げる。
-2.手の甲を下にして、両腕を床に置いてしばし休む。
-3.両腕を横に伸ばしきって両手の爪で床に触れる。
-4.全身の力を抜き、その姿勢でしばらく休息する。
-5.両肘は床に置いたまま、肘から先をゆっくりと持ち上げる。
-6.持ち上げる際には、呼吸を止めたり喉を詰めたりせずに穏やかに呼吸をする。
 (口は軽く開き、顎も緩めていること)
-7.肘まで持ち上がったならば、続いてゆっくりと腕全体を天井に向かって伸ばし
 始める。

 腕の重さを実感する大事な時間なので、決して急がないこと。
腕の立ち上げ」レッスン図2 by 竹内実花/スタジオ「ぐう」手順7と手順13の状態です。

-8.腕を伸ばし続け、肩が床から離れきるまで天井に向かって突き出す。
-9.天井に向かって突き出した腕をそのまましばし維持する。
 (呼吸を止めないこと)
-10.腕は伸びたまま、肩甲骨が床につくまで肩の緊張を少しずつ緩め、
 肩が床に着く。
-11.床に触れている肩甲骨の一点を感じとる。そして、その点、「腕の根っ子」
 に腕全体の重さがかかるようにする。
(肩甲骨のポイントを感じてもらうため、レッスン指導者は被験者の肘と手首を
伸びた状態に保ったまま、腕の重さが肩甲骨のポイントにしっかりとかかることを
確認してもらうために、腕全体を床方向、下に軽く押しつける)
-12a.被験者は自分の腕の重さが肩甲骨の一点「腕の根っ子」にかかっている
 ことを感じつつ、より少ない 力でその状態を続ける仕方を探ってみる。
腕の立ち上げ」レッスン図1 by 竹内実花/スタジオ「ぐう」手順12aの状態です。

最初は指は伸ばした状態から始め、腕の傾ぐ方向やその程度などを様々に 試し、より少ない力で「腕が立ち上がっている arm-standing」状態を維持してみる。

-12b. (次に詳述する)
-13.疲労を感じてきたら、肩の力を緩めて、肘が重さで次第に下がっていくようにする
。 -14.肘が床に着いた後、肘の力も緩めて腕全体が左右にゆっくりと床に降りていくようにする。
-15.両腕が左右に伸びて床に置かれた状態になる。心身ともに弛緩し緊張することなく休息する。
 以下、手順1に戻り繰り返す。
 

 さて、腕立ち上げのレッスンにある程度慣れた段階で、 自動運動(automatic movement)ないし観念運動(ideo motor) のレッスンに入る。
すなわち―
-12b. 手順12aの「腕立ち上げ」の状態において次のように心の中で思念する―
「腕が左右に揺れる」/「腕が頭・脚の方向に揺れる」/あるいは「腕がぐるぐる回る」。
この手順12bのレッスンは、両腕や肩・肩胛骨の筋緊張を減少させて、両腕が伸びた状態を維持するのに最低限の筋緊張に至った段階で意味のあるレッスンです。
その段階では、両腕は筋緊張によって固着しているのではなく、呼吸や心拍などに影響されて自然に揺れが生じており、そのような微細な動きも感知できるほどに感受性も開いてきていることが前提となっています。
観念誘導運動を体験することによって、意識的制御による動作ではなく、非意志的に「身体は自ら動く」という自動感を体験することによって、「制御する側vs制御される側」という分断を乗り越えることが目的です。


*なお、観念誘導とは、本人が動かすのではなく動作や動きを「思う」だけでも、その動作が起きてしまう現象です。これは、「思う」だけでも、脳から神経パルスが一定程度発射されている…という神経生理学的事実から了解される現象です。

ポイント
  1. ゆっくり動作すること。
    呼吸を穏やかにして、できるだけゆっくりと手順を進めてみてください。
    なお、呼吸をスムーズにするために口を軽く開けておいてください。

  2. 腕の重さが掛かる「背中の一点 (肩胛骨の一点)」をしっかり感じて下さい。
    腕と肩の力を抜いて、腕の重さが肩胛骨の一点にきちんとかかっていることを
    確認します。気がつかないうちに、床から肩が少し浮いていることがあります。

  3. 腕が下がってくるときに「受動的な動き」を味わって下さい。
    重さで腕が少しずつ下がってくる…といった「受動的な動き」を感じる感覚を育てます。
    これは「力を抜く」ためには重要な感覚なのです。

  4. 外側からどう見えるのか…のレッスンではありません!
    特にダンサーや演劇をしている人が陥りがちですが、このレッスンは
    見せるためのものではありません!
    自分自身の身体感覚を深めることが目的なので、腕の形とか体の線などの
    「視覚的認識」を一度捨ててください。

  5. カラダと内面の変化に気づいてください
    レッスンの間に少しずつ少しずつ、「心身のあり方」が変容してきます。
    ある種の穏やかさ・静かさ、そして不思議な「豊かさ」…が訪れることもあります。
    体験する人によって形容の仕方は違いますが、何かが変わってきます。
    自分のことを大事にして、味わってみて下さい。

  6. ある程度続けたら必ず休んで下さい。
    「一生懸命すること」や「頑張る」ことが目的ではありません。
    適度に休みながら行うことで、感覚を一層深めていきます。

  7. 何か気になることがあったらメールして下さい。
    即答できないこともありますが、少なくとも今後「質問回答集」といった形で
    お答えします。


この「腕の立ち上げ」レッスンを解説したところ、かなり気に入った方がいて、
ずいぶん練習をしたようです。そうしたら、「腕の立ち上げ」の状態(手順12aの写真)
のままで「眠ってしまった…」とのことでした。うむ。

なかなかそういう体験まではいかないのですが、思えば、「馬などは立ったまま眠る」訳で、そうすると、馬は、この「腕立ち上げ」レッスンの姿勢を逆さにひっくり返して、かつ、「四つ足でこのレッスンをしている図」というのが「立ったまま眠っている馬」…ということになりますね。

となると、「腕の立ち上げ」レッスンの前に、四つん這いの姿勢で眠ってみる…というワザを練習する方がいいのかもしれません…(^_^;。

なお、一人一人、骨格や筋肉や脂肪のつき方などが違っているため、このレッスンに簡単に入れる人もいますし、なかなか難しい人もいます。「腕の立ち上げ」状態を維持するのが難しいときは、次のようなバリエーションも試してみて下さい。

バリエーション - いずれも「腕の立ち上げ」の状態において…
  • 腕全体をいろいろな方向に傾けてみて、できるだけ少ない力で支えられる
     角度を探しだす。(快適な角度が左右で違うことはよくあります。)
  • 手首の力を抜き、手首が折れ曲がった状態を試してみる。
  • 肘の力を抜き、肘から先が、肘関節から垂れ下がった状態を試してみる。
  • 肘関節から先を外側に曲げる「サル腕」の状態を試してみる。
  • 仰向けではなく、横向きの姿勢で、「腕立ち上げ」を試してみる。
      (この場合は、肩の内部に腕の重さの重心ができることになる)
さて、この「腕の立ち上げ」は腕についての動きと感覚の基本レッスンです。ある程度このレッスンを体験した後は、腕がもっている本来的な動きの発見…といった次のレッスンに入っていくことになります。

以上。

解説 - 「腕の立ち上げ」レッスン

 *以上の手順は、 
「身体心理学の展開に向けて― 腕の立ち上げレッスン」葛西俊治(2002)
 から引用していますので、解説をぜひお読み下さい。

(C)札幌ダンスムーブメント・セラピー研究所 2002-2022