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〜渋沢栄一『論語と算盤』より”算盤と権利”
Z.算盤と権利
1.思いやりの道
社会問題や労働問題は法律だけで解決するものではありません。双方が「思いやりの道」を基準に行動することこそが優れた解決策となります。資本家と労働者は、事業の損得という共通の前提に立っていることを悟り、互いを思いやる心を持ち続けてこそ、初めて本当の調和を実現できます。
個人が豊かさを求め日夜努力した結果として貧富の差が生まれるのは、自然の成り行きであり、人間社会の逃れられない宿命です。しかし、「自然の成り行きだし、宿命だから」と放置すれば、いずれ取り返しのつかない事態を招いてしまいます。そのため、常に貧しい人と金持ちの関係を円満に保ち、両者の調和を図ることは、もののわかった人間に課せられた義務であります。したがって、災いを未然に防ぐ手段として、私たちは「思いやりの道」を盛り上げていく必要があるのです。
2.善意の競争と悪意の競争
物事に一所懸命取り組み、進歩するためには競争が必要ですが、そこには善意と悪意の二種類があります。創意工夫や努力で他人に打ち克つのは善意の競争ですが、他人の真似をして成果を横取りするような悪意の競争は、道徳に欠け、他者を傷つけ、いずれ自己の損失となり、国家の品位まで落としてしまいます。そもそも道徳とは特別なものではなく、日常のあらゆる場面にあるべきものです。時間を守る、他人に譲る、先んじて安心感を与える、弱い者を助けるといった行動のすべてが道徳です。このように、日々の商売一つをとっても道徳は含まれており、朝から晩まで常に私たちの生活に寄り添っています。だからこそ、私たちは悪意の競争を退け、日常のなかに道徳を意識して生きていく必要があるのです。
3.国家に必要な事業経営
事業経営においては、規模や自分の利益の大小に関わらず、国家に必要で道理にかなった経営を合理的に行えば、心楽しくその任務を遂行できます。一個人の利益よりも、社会全体の利益になる事業を行うべきであり、そのためには事業が着実に発達し繁栄していかなければなりません。なぜなら、一個人が大富豪になっても、そのために社会の多数が貧困に陥るような事業では、その幸福は長続きしないからです。だからこそ、国や社会に暮らす多くの人々が、ともに豊かさを実現できる方法で事業を経営していくことが必要になるのです。
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