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〜その十二 素直な心〜
松下幸之助は『実践経営哲学』の中で、企業を経営していく上での根本の心がまえとして素直な心になることの大切さを、次のように述べています。
・経営者が経営を進めていく上での心がまえとして大切なことは色々あるが、いちばん根本になるものとして、私自身が考え、努めているのは素直な心ということである。
・素直な心とは、いいかえれば、とらわれない心である。自分の利害とか感情、知識や先入観などにとらわれずに、物事をありのままに見ようとする心である。人間は心にとらわれがあると、物事をありのままに見ることができない。たとえていえば、色がついたり、ゆがんだレンズを通して、何かを見るようなものである。
・世間、大衆の声に、また部下の言葉に謙虚に耳を傾ける。それができるのが素直な心である。それを自分が正しいのだ、自分の方が偉いのだということにとらわれると、人の言葉が耳に入らない。衆知が集まらない。いきおい自分一人の小さな知恵だけで経営を行うようになってしまう。これまた失敗に結びつきやすい。
・素直な心になれば、物事の実相が見える。それに基づいて、何をなすべきか、何をなさざるべきかということも分かってくる。なすべきを行い、なすべからざるを行わない真の勇気もそこから湧いてくる。さらには、寛容の心、慈悲の心というものも生まれて、だから人も物も一切を生かすような経営ができてくる。また、どんな情勢の変化に対しても、柔軟に、融通無碍に順応同化し、日に新たな経営も生み出しやすい。
・素直な心の涵養(かんよう)、向上ということ自体は、あらゆる経営者、さらには、すべての人が心がけていくべき、きわめて大切なものである。それなくして、経営の真の成功も、人生の真の幸せもあり得ないといってもいい。・・・素直な心こそ、あらゆる意味における経営を成功させる基本的な心のあり方なのである。
経営者は、企業を経営していく中で、絶えず様々な選択や判断を迫られます。そのときに、利害得失や感情、先入観、固定観念にとらわれると、正しい選択や判断ができなくなり、それが企業の明暗を分けることにもなります。
松下幸之助は、経営を成功させるためには、経営者が素直な心をもつことが大切であると説きます。一般的に、素直という言葉は従順という意味で使われることが多いようですが、松下幸之助が言う素直な心は、何事にもとらわれずに物事をありのままに見ようとする心のことです。
この素直な心があれば、傲慢になったり独りよがりになったりすることなく、顧客や社員、その他の関係者の声を聞くことで、多くの衆知を集めることができ、企業を成功に導く知恵が生まれやすくなります。また、原理原則に基づいて、物事の実相をあるがままに見ることができるようになり、経営者としてなすべきこと、なすべきでないことを決定する勇気をもつことができ、広い心で人と接することができ、社会情勢の変化にも自由自在に対応できるようになり、冷静に正しく経営の舵取りができるようになるでしょう。
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