〜渋沢栄一『論語と算盤』より”人格と修養”〜
Y.人格と修養
1.人格の基準とは
人が動物と異なる点は、道徳を身につけ、知恵を磨き、世の中のためになる貢献ができるという点にあります。これによって初めて真の人だと認められるのです。
人の評価をするむずかしさを知るべきです。その人が何を実践しているのかを見、その動機を観察して、その結果が社会や人々の心にどのような影響を与えたのかを考えないと、人の評価などできないと思います。
2.自分磨きと実際
修養、つまり自分磨きは、どこまで続ければよいのかというと、これは際限がないのです。自分磨きは、理屈ではなく、実際に行うべきことです。だから、どこまでも実践と密接な関係を保って進まなくてはならなりません。
自分を磨こうとする者は、決して極端に走らず、中庸を失わず、常に穏やかな志を持って進んでいくことを、心より希望します。言い換えれば、現代において自分磨きは、現実のなかでの努力と勤勉によって、知恵や道徳を完全にしていくことなのです。つまり、精神修養に力を入れつつ、知識を発達さることに努めなければなりません。しかもそれは自分一人のためばかりでなく、一村一町、大は国家の興隆に貢献するものでなくてはなりません。
3.自分磨きと自分らしさ
自分磨きというのは、自身を収めて人徳を養うことです。言葉で言えば「練習」「研究」「克己」「忍耐」といったことを意味し、理想の人物や、立派な人間に近づけるよう努力することです。だから、自分を磨いたからといって「自分らしさ」が損なわれてしまうようなことはありません。人が自分磨きに本当に努力したならば、一日一日とあやまちを正して、よい方向に進んで、理想の人物に近づいていけるのです。
自分磨きは、自分の良識を増して、魂の輝きを解き放つことなのです。自分を磨けば磨くほど、その人は何かを判断するさいに善悪がはっきりわかるようになります。だから、選択肢に迷うことなく、ごく自然に決断できるようになるのです。
4.完全な成功
「目的を達するためには手段を選ばない」といったように成功の意義を誤解する人もいます。さらには、どんな手段を使っても豊かになって地位を得られれば、それが成功だと信じている者すらいるが、わたしはこのような考え方を決して認めることができません。素晴らしい人格をもとに正義を行い、正しい道を歩み、その結果手にした豊かさや地位でなければ、完全な成功とはいえないのです。
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