〜渋沢栄一『論語と算盤』より”常識と習慣A”〜
V.常識と習慣
6.習慣
習慣とは人の普段の行いが積み重なって身につくものですから、自分の心にも働きにも影響を及ぼし、悪い習慣を持てば悪人に、よい習慣を持てば善人になるように、その人の人格にも関係してきます。だから誰しも普段から心掛けて、よい習慣を養うことが必要でしょう。また習慣は自分だけでなく、他人にも感染します。ややもすれば人は、他人の習慣を真似したがります。それがよい習慣ならよいのですが、悪い習慣だと大いに気をつけなければなりません。
7.偉き人と完き人
偉い人と完き人とは大いに違うのです。偉い人には性格に欠陥があっても、それを補って余りあるほど他に超絶した才能があるから、完全な人と比べると、これは言わば変態であります。それに対して完き人は智情意が円満に揃っており、言わば常識人です。私は常識人が多くなることを希望します。
8.真才真智
人が世で成功するために最も重要なのは智恵です。自分の成長、国家の公益を図るにも、知識なしでは進みません。しかし、それ以上に人は人格を養う必要があります。では人格とは何か。非常識な英雄豪傑にも、希に人格崇高な人がいます。しかし、人が完全に役に立ち、公にも私にも必要な真才真智というのは、多くは常識の発達にあるといえるでしょう。
9.志と振る舞い
人の行為の善悪を考えるなら、志と振る舞いを併せて考慮する必要があります。志が真面目で情け深くとも、行動がのろまででたらめなら何にもなりません。志が人のためによかれと思っても、振る舞いが害になるなら善行とは言えません。
10.努力
怠惰はどこまで行っても怠惰で、決していい結果は生まれません。だから座っていれば立って働くより楽なようで、実は長く座ると膝が痛みます。ここで寝転べば楽なようで、今度は腰が痛くなります。怠惰に任せればますます怠惰になるだけです。だから人はよい習慣、勤勉努力を身につけなければなりません。
|