〜「イノベーションと企業家精神」より、"ニーズを見つける(第三の機会)"〜
1.ニーズ
イノベーションの母としてのニーズは限定されたニーズである。漠然とした一般的なニーズではない。具体的でなければならない。それは、予期せぬ成功や失敗、ギャップと同じように、企業や産業の内部に存在する。その主なものは、プロセス上のニーズ、労働力上のニーズ、知識上のニーズである。
2.プロセス・ニーズ
イノベーションの機会してのプロセス・ニーズの利用は、ほかのイノベーションとは異なり、状況からスタートすることはない。課題からスタートする。状況中心ではなく課題中心である。それは、知的発見によって、すでに存在するプロセスの弱みや欠陥を補うためのイノベーションである。誰もがそのニーズの存在を知っている。しかし誰も手をつけていない。ひとたびイノベーションを行うや、直ちに受け入れられ、標準として普及していく。
3.労働力ニーズ
労働力ニーズもまた、きわめてしばしばイノベーションの機会となる。
今日のロボット・ブームも主として労働力ニーズによるものである。ロボットに必要な技術は何年も前から開発されていた。しかし、日米をはじめとする先進国の製造業が少子化の結果を身近に感じるようになるまで、半熟練の組み立て工をロボットに代えるニーズは大きくならなかった。
4.知識ニーズ
知識ニーズとは、開発研究の目的としてのニーズである。
そこには、明確に理解し明確に感じることのできる知識が欠落しているため、その知識ニーズを満たすには知的な発見が必要となる。
5.五つの前提と三つの条件
ニーズに基づくイノベーション、特にプロセス・ニーズによるイノベーションが成功するには五つの前提がある。
(1)完結したプロセスについてのものであること、(2)欠落した部分や欠陥が一か所だけあること、(3)目的が明確であること、(4)目的達成に必要なことが明確であること、(5)「もっとよい方法があるはず」との認識が浸透していること、つまり受け入れ態勢が整っていることである。
しかも、ニーズに基づくイノベーションには三つの条件がある。
第一に、何がニーズであるかが明確に理解されていることである。
第二に、イノベーションに必要な知識が手に入ることである。
第三に、問題の解決がそれを使う者の仕事の方法や価値観に一致していることである。
ひとたびニーズを発見したならば、五つの前提に照らしてみることが必要である。しかる後に三つの条件に合致しているかどうか調べることが不可欠である。
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