〜「経営者の条件」より、"成果をあげる意思決定とは"〜
1.正しい意思決定の要件
意思決定とは判断である。いくつかの選択肢からの選択である。
正しい決定は、共通の理解と、対立する意見、競合する選択肢をめぐる検討から生まれる。
意思決定は事実からスタートすることはできない。事実の評価基準の決定がなければ事実というものがありえないからである。
意思決定は意見からスタートしなければならない。そして意見を表明した後、事実による検証を求めなければならない。仮説(意見)の有効性を検証するには何を知らなければならないか、意見が有効であるには事実と整合性がとれているか、を問う必要がある。
判断を行うためにはいくつかの選択肢が必要である。一つの案しかなく、それにイエス、ノーをいうだけでは判断とはいえない。いくつかの選択肢があって初めて、何が問題であるかについて正しい洞察を得られる。
したがって決定によって成果をあげるには、評価基準についてもいくつかの選択肢が必要である。それらの中から最も適切な基準を選び出さなければならない。
2.意見の不一致を必要とする
経営者が直面する問題は、満場一致で決められるようなものではない。相反する意見の衝突、異なる視点との対話、異なる判断の間の選択があって初めて、よい決定を行いうる。したがって、決定において最も重要なことは、意見の不一致が存在しないときには決定を行うべきではないということである。
意見の不一致は、三つの理由から必要である。
第一に、組織の囚人になることを防ぐからである。あらゆる者が、決定を行う者から何かを得ようとしている。特別のものを欲し、善意のもとに都合のよい決定をしてもらおうとする。それら特別の要請や意図から脱するための唯一の方法が、十分検討され事実によって裏づけられた反対意見である。
第二に、選択肢を与えるからである。決定には常に間違う危険が伴う。最初から間違っていることもあれば状況の変化によって間違いになることもある。決定のプロセスにおいて他の選択肢を考えてあれば、次に頼るべきものとして、十分に考えたもの、検討済みのもの、理解済みのものをもつことができる。
第三に、想像力を刺激するからである。不確実な問題においては新しい状況をつくり出すための創造的な答えが必要である。想像力、すなわち知覚と理解が必要である。
経営者は直面する問題のあらゆる側面を丁寧に見るための手段として意見の対立を使わなければならない。
3.意思決定は本当に必要かを自問する
最後に意思決定は本当に必要かを自問する必要がある。何も決定しないという代替案が常に存在する。よい外科医が不要な手術を行わないように、不要な決定を行ってはならない。
優れた決定を行う人は多様である。ある人は大胆であり、ある人は保守的である。しかし不要な決定は行わないという点では一致している。何もしないと事態が悪化するのであれば行動しなければならない。急いで何かをしないと機会が消滅するのであれば思い切って行動しなければならない。
4.意思決定とコンピュータ
コンピュータの強みは論理的な機械であるところにある。それはプログラムに組まれたことを迅速かつ正確に行う。
これに対し、人は論理的ではない。知覚的である。ということは遅くていい加減だということである。しかし人は聡明であり洞察力がある。応用力がある。すなわち人は、不十分な情報から、あるいは情報なしでも、全体像がどのようなものでありうるかを推し量ることができる。プログラム化していないことを考えることができる。
コンピュータを正しく使うならば、これまでやむをえず組織内部のことにエネルギーをとられていた経営者が、それらの無駄から解放される。その結果、成果の得られる唯一の世界たる外部に出かけ、自らの目でものを見ることができるようになる。
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