1.他人への思いやり
『人の小過を責めず、人の陰私を発(あば)かず、人の旧悪を念(おも)わず。三者は、もって徳を養うべく、またもって害を遠ざくべし。』(前集一〇五)
(訳)人の小さな過失を責めない、人の隠しごとをあばかない、人の過去の悪事を水に流す。この三つのことを心がければ、自分の人徳を高めるばかりでなく、人から損害を与えられることもなくなる。
リーダーたる者は、下の者に対して寛容な心配りが必要となるでしょう。人の失敗をとがめない、人のプライバシーを尊重する、人の過去の過ちを水に流す。これらのことは、リーダーとしての人格を磨くだけでなく、人から恨みを買うことがなくなり、トラブルから組織と自分を守ることにもつながります。
2.時間を無駄にしない
『天地は万古あるも、この身は再び得られず。人生ただ百年なるのみ、この日最も過ぎ易し。幸いその間に生まれる者は、有生の楽しみを知らざるべからず、また虚生の憂いを懐(いだ)かざるべからず。』(前集一〇七)
(訳)天地は永遠であるが、人生は二度ともどらない。人の寿命はせいぜい百年なのに、月日はあっというまに過ぎ去ってしまう。幸いこの世に生まれたからには、人生の楽しみを知らなければならないし、せっかくの人生を無駄に過ごさないようにしなければならない。
事業においては、限られた時間の中で成果を要求されるため、リーダーには、時間を無駄にすることなく有効に活用することが当然に求められます。それが、事業の生産性に直結するでしょう。
また、リーダーに与えられた時間をいかに充実させるかが、自分のやりがいのみならず、下の者の目標にもなりやりがいを引き出すことにもつながるのでしょう。
3.順調なときこそ
『衰颯(すいさつ)の景象は、すなわち盛満の中にあり。発生の機緘(きかん)は、すなわち零落の内にあり。ゆえに君子は安きに居りては、よろしく一心を操りてもって患いを慮(おもんばか)るべく、変におりては、まさに百忍を堅くしてもって成るを図るべし。』(前集一一七)
(訳)衰退にに向かう兆しは、最盛期に現れ、新しいものの胎動は、衰退の極みに生じる。だから、上に立つものは、順調なときにはいっそう気を引き締めて危機に備え、危機にさらされたときには、ひたすら耐え忍んで成功のために工夫し努力しなければならない。
事業が順調なときには、そこに潜んでいる衰退の兆しが見えにくくなるものです。しかし、どんな事業でも陳腐化しない事業はないことを理解した上で、順調なときにこそ、危機に備えて変化に対応できる態勢作りを心がけるべきでしょう。そして、逆境にみまわれたときは、ひたすら耐え忍んで、事業が好転するよう画策していく必要があるでしょう。
4.もう一人の自分
『怒火慾水のまさに騰沸するところにあたりて、明々に知得し、また明々に犯着す。知るものはこれ誰ぞ、犯すものはまたこれ誰ぞ。このところよく猛然として念を転ずれば、邪魔もすなわち真君とならん。』(前集一一九)
(訳)怒りが爆発し欲情が沸騰するとき、はっきりとそれに気づいている自分がいる一方、気づきながらも過ちを犯そうとする自分がいる。気づいている自分とは誰か。過ちを犯そうとする自分とは誰か。そこで直ちに思い直すことができれば、邪念を振り払い自制心を取りもどすことができる。
他人から理不尽な行為を受けたとき、怒りのために感情が抑えきれなくなることがあるでしょう。そんなときに感情にまかせて過剰反応をすれば、事態はさらに悪化することでしょう。そこで感情的になっている自分を冷静に観察するもう一人の自分がいれば、理性的に対処する方法を選択することが可能となるでしょう。
リーダーたる者は、組織を危うくしないためにも、自分を冷静に見つめるもう一人の自分を意識し自制的に行動することが求められるのでしょう。
|