1.甘すぎず辛すぎず
『清にしてよく容(い)るるあり、仁にしてよく断を善くす。明にして察に傷れず。直にして矯(きょう)に過ぎず。これを蜜餞(みつせん)甜(あま)からず、海味(かいみ)醎(から)からずという。わずかにこれ懿徳(いとく)なり。』(前集八三)
(訳)清廉であってしかも包容力もある。思いやりがあってしかも決断力にも富んでいる。洞察力があってもあら探しはしない。純粋であっても過激に走らない。これを砂糖漬けでも甘すぎず、海産物でも辛すぎないといい、立派な人徳のあり様であろう。
清廉潔白も過ぎれば不寛容に陥り、思いやりも過ぎれば優柔不断に陥ります。明察力も過ぎればあら探しに陥り、純粋さも過ぎれば過激に陥ります。「過ぎざれば及ばざるが如しと」あるように、人徳も偏りすぎれば、大きな欠点となります。
リーダーたる者は、甘すぎず辛すぎずバランス感覚をもって、人徳を磨くことが必要となるでしょう。
2.普段の心がけ
『闥(がんちゅう)に放過(ほうか)せざれば、忙処に受用あり。静中に落空(らくくう)せざれば、動処に受用あり。暗中に欺隠(ぎいん)せざれば、明処に受用あり。』(前集八五)
(訳)暇なときでも、ぼんやり時を過ごさなければ、多忙なときにその効用が現れる。休んでいるときでも、時間を無駄にしなければ、活動するときにその効用が現れる。人目につかないところでも、良心をあざむかなければ、人前に出たときにその効用が現れる。
暇なときにどれだけ準備ができるかで、忙しくなったときの成果が決まります。休息しているときにどれだけ英気を養えるかで、活動するときの充実度が決まります。人に見られていないところでどれだけ襟を正せるかで、人前に出たときに立派な態度が取れるかが決まります。
普段なにもないときにでも、絶えず、いざというときの準備を心がけてこそ、大事なときに力を発揮することができるのでしょう。
3.逆境は良薬、順境は凶器
『逆境の中におらば、周身、皆鍼砭(しんべん)薬石、節を砥(と)ぎ行いをみがきて、しかも覚(さと)らず。順境の内におらば、満前ことごとく兵刃戈予(へいじんかほう)にして、あぶらをとかし骨を靡(び)して、しかも知らず。』(前集九九)
(訳)逆境にあるときは、周囲のものすべてが良薬となり、節度も行動も、知らぬまに磨かれていく。順境にあるときは、目の前のものすべてが凶器となり、骨身が削られているのに、自分では気づかない。
逆境をチャンスとして前向きに捉えて、克服する努力ができれば、人徳も行動力も磨かれるでしょう。一方、順境にあるときは、人は気を緩めて努力を怠るようになり、知らぬ間に破滅の道をたどることがあります。
「勝って兜の緒を締めよ」とあるように、順境のときに慢心することなく襟を正し「危機は好機なり」と、逆境のときこそ前向きに行動する資質が、リーダーに求められるのでしょう。
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