1.人目につかないところこそ
『肝、病を受くればすなわち目視(み)ることあたわず、腎、病を受くるればすなわち耳聴くことあたわず。病は人の見ざるところに受けて、必ず人の共に見るところに発す。ゆえに君子は罪を昭々(しょうしょう)に得ることなきを欲せば、先ず罪を冥々(めいめい)に得ることなかれ。』(前集四八)
(訳)肝臓を病むと目が見えなくなり、腎臓を病むと耳が聞こえなくなる。このように病気というものは、まず人に見えない身体の内部に起こり、やがて必ず誰にでも見える身体の外部に症状として現れてくるものである。だから君子たる者、人目につくところで罪を被らないようにしようと思えば、まず人目につかないところで罪を犯さないように心がけるべきである。
病気は見えないところから進行し、やがて目に見える現象に現れてくるものです。
人の行いにも同様のことがいえるのでしょう。陰で善行を積める人は、人徳がにじみ出て、人からも尊敬を集めるでしょう。
一方で、誰にも気づかれないと思って、見えないところで善行を積めない人は、いくら表面を繕(つくろ)おうとしても、人からは見透かされるでしょう。
リーダーたる者は、人目のつかないところでも、規律ある行動を心がけ、人からすぐに評価されないことでも、それが正しいことであれば、率先して行っていかなければなりません。そうすれば、いずれ大きな尊敬を集めることとなるでしょう。
2.恩に着せない
『我、人に功あらば念(おも)うべからず、しかして過ちはすなわち念わざるべからず。人、我に恩あらば忘るべからず、しかして怨(うら)みはすなわち忘れざるべからず。』(前集五一)
(訳)人に恩恵を与えたとしても、そのことを覚えていてはいけない。しかし、人に迷惑をかけたならば、そのことを忘れてはならない。また、人が自分に恩を施してくれたのならば、そのことを忘れてはならない。しかし、人に対する怨みは、忘れるようにしなければならない。
リーダーたる者は、人のために行動するのが当然であり、そのことを心に留める必要もないでしょう。逆に、リーダーたる者が、人に迷惑をかけたなら、真摯に反省し忘れないようにすべきでしょう。
また、人から恩を受けたなら、感謝の念を心に留め、人に対する怨みは水に流してこそ、人情深く寛容なリーダーとして、周囲から尊敬を集めることができるのでしょう。
3.見返りを求めない
『恩を施す者は、内に己を見ず、外に人を見ざれば、すなわち斗粟(とぞく)も万鐘(ばんしょう)の恵みにあたるべし。物を利する者は、己の施を計り、人の報を責むれば、百鎰(ひゃくいつ)といえども一文の功を成しがたし。』(前集五二)
(訳)人に恩恵を施すときには、心の中に施す自分を意識せず、相手の感謝を期待してはならない。そうすれば、たとえ米一斗の施しでも、莫大な恩恵に価するものである。人に利益を与えるときには、自分の与えた利益を計算し、相手にその見返りを求めてはならない。そうでないと、たとえ莫大な恩恵を与えたとしても、一文の値打ちもなくなる。
ビジネスにおいて、取引先に対しても、上司や部下に対しても、自己の損得勘定を優先させ、目先の見返りを求めるようでは、いくら表向き善良なふりをしたところで、相手に信用されず、長く安定した信頼関係を築くことはできないでしょう。
お客様の立場に立って、誠実にお客様のために行動すれば、長い目で見れば、見返りを求めずとも、より多くの利益をお客様が運んでくれるのでしょう。
また、組織の方針に従って、打算なく真摯に業務に取り組めば、上司や部下からの評価も上がり、長い目で見れば、見返りを求めずとも、より多くの成果を上げることができるのでしょう。
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