「日本のコンピューターのキーボードは、ものすごーーーーく、長いの?」

日本の文字についての説明をするのは、いつも一苦労。21種のアルファベットで、全ての言葉を表現する彼等にとっては、アルファベットが3種類存在して、そのうちの1種は、3000文字以上ある。というのは、想像の範囲を超えてしまっているよう。

みんなの驚く顔を見るのが面白い、というのと、説明のし甲斐がある、というので、私は、『日本語』についての授業をするのが割に好きだった。私のつたないイタリア語で、いったいどれだけのことが正確に伝わったのか、少々、不安ではあるのだけれど・・・。

黒板を使って、例をあげて説明していると、この質問。可愛らしくて、思わず、笑っちゃった。

でも、そうだよねぇ。不思議だよねぇ。気持ちはすごく分かるよ。


「どうして、中国人はつり目なのぉ??」

幼稚園、小学校の低学年のクラスへ行くと、100%といっていいほど、決まってこう言われる。

小学校3年B組の先生アンジェラは旅行が好きで、日本には行ったことがないが、中国を訪れたことがあるそう。建物がすごく綺麗だったわ・・・と、私に、日本もああいう建物なのか?と質問を。「寺院などの伝統的な建物は、中国と同じ、屋根の裾が上がった形よ」と、身振りを交えて答えていると、一番前に座ったクリスティアンが、「中国人!」と、自分の目をつり上げて、ニコニコと笑ってる。

いやいや。別に私達は、目がつり上がっているから、屋根をつり上げてる訳じゃないねん・・・。と、思ったのだけれど、もしかして、何か関係があるのだろうか?と、真剣に頭を巡らせてしまったりして・・・。

肌の色、髪の色、目の色は、その地方の気候によるものでしょう。身を守るため、暑い地域では色素が濃くなり、北、寒くなるにつれて色素が薄くなっていく。鼻が高いのも寒さが原因。となれば、つり目は??。どうしてなんだ?。暑さ寒さ?湿気?食べ物のせい??(これは違うと思う)。寒いとつり目になるのか。アジアは埃が多いのか?(きっと、違う・・・)。誰か、人相学に詳しい方(?)、民俗学に詳しい方(?)教えてください。あぁ、気になる・・・。

そりゃ、日本人にもタレ目はいるけれど、私自身は、ネコムスメと呼ばれるほど、つり目なので、すごく理由が知りたいの!

2回目の授業の時も、クリスティアンは、自分の目をつり上げて、「ねぇ、ハナコ!どうして中国人はつり目なの??」

「中国人は、つり目だね」と言われたら、「そうだよー」、「そうだねー」って答えてあげられるんだけれど、「どうして?」って言われてもねぇ・・・。私にも、こればっかりは理由が分からないし・・・。すると、先生アンジェラが、「クリスティアン!君は、どうしてその髪の色と目の色と肌の色なの?」と。こういうとき、イタリアのやんちゃ坊主は何と答えるのだろう・・・と、興味津々に彼を見つめていると・・・。

「僕は、こういう風に生まれたから」

はい。よく出来ました。にじゅうまる。


1年間の滞在で、私がいちばん、質問に答えるのが辛かった季節が、12月。ナターレ(クリスマス)である。

「日本にもナターレはあるの?」や、少し詳しい人は「日本にはナターレはないわよね。キリスト教じゃないもの」。それに対し、「ある・・・。日本にもナターレはある」と、力無く呟く私。腹の中では、「なんであるねん!」と毒づきながら・・・。

「私達日本人も、ナターレはお祝いする。君達のように、アルベロ・ディ・ナターレ(クリスマス・ツリー)を飾って、プレゼントの交換をする。でも、日本のナターレは、宗教的なお祭りではないの。私達は仏教徒だから・・・。でも、ナターレは、日本でもフェスタ(お祭り)なの・・・」

回を重ねるにつれ(会う人毎に尋ねられるから)、イタリア語もずいぶんと流暢に出てくるようになったのだけれど、自分で話しながら、しかし訳の分からない説明だなぁ・・・って。それでも、彼等は納得してくれていた。本当に理解したのか(してないだろう、きっと。というか理解出来ないだろう)、それ以上聞いても私の語学じゃ答えられないと思ったのかは、よく分からないところではあるけれど(きっと後者)。

こんな時は話題を変えるに限る!。「日本で一番重要なお祭りは、カーポ・ダンノ(お正月)なの!」と、伝えると、みんな、すごく興味を持って私の話を聞いてくれた。

小学校で1年生を教えているクリスティーナは、「どうしてなの?」と。「私達のナターレは、ジェスー(イエス)が生まれた日だから。カーポ・ダンノにはどういう理由があるの?」。はっ?そんな質問は想定していなかった・・・。だって、それまでは、「へー。そうなんだ。日本でも花火は上がるの?」とか、「スプマンテ(シャンパン)を飲む?」ってのばっかりだったから。何をするのか、という問いには、神社に行ってお参りをする、という答えをイタリア語で言えるように用意していた。しかし、どういう理由から、というのは・・・。私の頭の中の薄っぺらい引出しを大慌てで引き出してみても、何も浮かばない。

凍りついてしまっている私にクリスティーナが、「カーポ・ダンノは、1年で最初の日だから?」と、助け舟(?)を出してくれた。どうしようもなくて、知らないというのも癪に障る(障るなよ!)ので、「そう。カーポ・ダンノは、1年で最初の日だから。だから、一番重要なの・・・」と、力無く呟いてしまった、私であった。

そしてクリスティーナは、ふと思い出したように、「日本のカレンダーは?日本も1月から始るの?私達と同じ?1年は12ヶ月なの?」と・・・。これにはすごく驚いた。本当にビックリした。目から鱗、とはまさにこのこと。だって、私は、生まれてから27年間、この世界に1年が12ヶ月ではない地域があるかもしれない、だなんて、ただの1度も考えたことがないんだもの!。私の頭は、『常識』というヤツに固められてしまってるんだ・・・。と、反省してしまった次第。

しかし、本当に反省しなければいけないのは、別のことである。

帰宅して、出国前に、私が派遣されている団体が送ってきてくれた、イタリア語会話想定集を開いてみた。あぁ!載ってるじゃない!お正月とは何なのか、が。

この説明によると、『新年には神様が各家庭を訪れるといわれ・・・』。はぁー・・・。知らなかった、そんなこと・・・。だから、大晦日に大掃除をして、門松やらを飾るんだ。

その後、クリスティーナに会うことが出来なかったのが、とても残念。でも、それ以降の授業では、ちゃんとこの説明をしてきました。だから、許して!


私が日本を出発したのは、春。なので、授業で用いている“ディアポシティーヴェ(スライド)”は、春の写真がいっぱい。写真が趣味でもある私。気合を入れて、このディアポシティーヴェを用意したのだけれど、どれほど直前に用意したかというと、現像に出したフィルムを途中下車して受け取り、その足で関空へ向かい、飛行機に乗ってイタリアへやって来た、ってほど。

お花見に行った王子動物園、お花見会が開催されていた姫路城。しかし、何と言っても、日本の心は『桜』、であることは事実。そういう意味では、良い写真が用意できたんじゃないだろうか。

この写真を見せると、決まってどの子も目を輝かせ、「すごい!サクランボがいっぱい食べられる!」

「この木にはフルーツは生らないの。日本でもサクランボを食べるけど、それは別の種類の木なの」
「ケ・ペッカート!! なんて残念なの!」

そうそう。私も幼い頃は、なんて残念なんだろう・・・と、木を見上げていたものだよ。でも、どのクラスでも必ず誰かが、「ケ・ペッカート!」。やっぱり、君達は食いしん坊だねぇ・・・。


ディアポシティーヴェを見ながら、思わず笑ってしまったこと。

姫路城の写真を見せると、中学2年生のロマーノが、「ハナコ!君の家?」って。思わず、吹き出しちゃって、「違う!。これはお城。高すぎて私には買えない!」(しかし、いいのか?こんな答えで・・・)

すると、ロマーノは、「じゃ、ナカタの家?」

確かに、ナカタなら金持ちだから買えるかも・・・。いや、姫路城は国宝だから、さすがに高すぎて無理か?。でも、これは、ちょっと彼の趣味じゃぁなさそうだよね・・・。