私が1年間の滞在のため、この町にやって来たたのは、まだ少し肌寒い4月下旬。空港までファブリッツィオに迎えに来てもらい、これから1年間お世話になる彼の家に到着。部屋を案内してもらって、昼食までまだ時間があったので、子ども達の帰りを待ちながら、キッチンに座っていた。大きなとても綺麗な家(私が滞在している町は新興住宅地という感じで、新しく大きな家が多い)。これからの1年間の生活に期待と少しの不安が混ざった、それでもすごくワクワクする思いで、綺麗な家だなぁと、キョロキョロしていた私の目がある1点で止まった。

キッチンの入口にあるインターホンに貼られた1枚のシール。子どもがいる家だもんねぇ、と微笑ましく見ていたのだけど、ふと気がついた。あのおとぼけたじいさんの絵柄には、確かに見覚えが・・・。しかもかなりの親しみを持って。でも、まさかね。ここはイタリアだし(日本だったとしても7歳の子の家だと目を疑うだろう)。その下に貼ってあるもうひとつのシールは、シンプソンズに出てくる道化師のキャラクター。これは納得。シンプソンズはイタリアでも有名なんだね。

でも、あのじいさんはどうして? あそこまでそっくりなキャラがイタリアにもいるとは思えないし。ま、何かの付録かなんかで(イタリア版『小学1年生』みたいなの?)手に入れて、何だか分からないままに貼ってあるんだろ、と思うことにした。

それがはっきりしたのは、その日の夕方。すごく幸運なことに、私が到着したまさにその日は、弟のフェデリーコの7回目の誕生日だった。テーブルにケーキやパニーノ、スナック類が並べられて、彼とお兄ちゃんロレンツォの友人、おじさんなどが、プレゼントを片手に続々と集まり始める。そして、そのプレゼントの中のひとつが、ジグソーパズル。その絵柄はというと、ドラゴンボールZの『悟空』。

そう。キッチンに貼ってあった、おとぼけじいさんとは、やっぱり、亀仙人のシール。

ポケモンが流行っているとは聞いていたけれど、現在、私のみる限りでは、ドラゴンボールの方が人気があるよう。ドラゴンボールは、実は、私もすごく好きだったので、懐かしさもあり嬉しくなったのだけど、ポケモンはともかく、ドラゴンボールがねぇ・・・。まさか、こんなところで再会するとはね、と異国で音信不通だった旧友にばったりと出くわした気分。オーバーかも知れないけれど嬉しいものだよ。自分が子どもの頃に好きだったアニメを外国で発見して、しかも現地の子ども達がそれをとても気に入ってくれているというのは。

ある日、ロレンツォが紙とペンを持ってきて、すごく上手に『亀』という文字を書いてくれたので、驚いたのだけど、ここまで流行っているとそれも納得。

番組が始ると、思わず私も子ども達と一緒に見入ってしまう。夏休みに入って再放送が始り、ものすごく懐かしいシーンを見ることが出来て、ちょっと本気で嬉しかったりして。悟空がまだ小さくて尻尾も生えていて、ヤムチャがまだ悪役で。。このころ、私、中学生だったんじゃないかしら。

幼稚園、小学校へ授業をしに行くと、必ずといっていいほど、2・3人の子どもが、ピカチュウか悟空のTシャツを着ている。そして授業終了後は、「ゴクウって日本語で書いて!」「ゴハン、ゴテンって書いて!」「ブルマも!次はトランクス!」と囲まれることになる。この漢字であってたっけ・・・と、日本文化を伝えなければいけない立場上(オーバーな)、少々、緊張したりして。

ポケモンはというと、やはりイタリアでもカードゲームが流行っている様子。日本を発つ前に、お土産を持っていきたいけど、何がいいですか?という手紙を出したところ、ファブリッツィオからの返事は、「ロレンツォはポケモンが好き(英語の“ライク”ではなく、“ラブ”の表現で)」とのことだった。兄弟の子ども部屋にも、ちゃんとポケモンのポスターが貼られている。

ポケモンカードは、やっぱり世界的に流行っているのね・・・と感じていたのだけど、それと同じくらい、いやそれ以上かも、子ども達がたくさん持っているのが、ドラゴンボールのカード。私が授業をしに教室へ行くと、「ほら、日本のよ!」と、ポケットから大量のカードを出して見せに来てくれるもの。低学年のクラスだと、油断していると、『カメハメハー』をかけられてしまうので気が抜けない。他にも、リュックサック、筆箱、ノート。彼らの机の上はドラゴンボールグッズでいっぱい。

日本の食事や生活について、簡単な説明をした後、「質問のある人?」と聞くと、「日本では、ドラゴンボールのシリーズは何があるの」と質問されたこともあった。え?そんなの知らない・・・。『ドラゴンボール』でしょ、『ドラゴンボールZ』。この2つは私も覚えがあるけれど、『ドラゴンボールGT』は、覚えてないもの。私はどちらかというと、アニメより漫画本の方を好んで読んでいたから。「この3つだと思うけど、よく知らないわ。イタリアでは何があるの?」と逆に聞いてみると、「ドラゴンボール、ドラゴンボール・ゼータ、ドラゴンボール・ジーティー、ドラゴンボール・ガイデン!」という答えが返ってきた。へぇ、『ドラゴンボール外伝』ねぇ。

日本、イタリアを問わず全ての子どもがそうであるように、ロレンツォとフェデリーコも、アニメが大好き。学校から帰宅してから、そして夕食時、「ニュースに変えてくれ」というお父さんを無視して、齧り付きでテレビに見入っている。ポケモンと、これだけの人気からドラゴンボールはもちろんとして、すごいよ。本当に。心底、びっくりしたもの。

人気があるかどうか(フェデリーコが好きかどうか)は別として、私がちらりとでもテレビで見たことがあるアニメをざっとあげてみると。

ポケモン
ドラゴンボール
セーラームーン
セイント聖矢
子どものおもちゃ
シティーハンター

『セイント聖矢』、『子どものおもちゃ』は、今が旬らしく、キャラクターグッズのCMをよく見かける。『セーラームーン』が流行っていたのは、確か日本と同時期くらいだったはずなので、『夏休み子ども劇場』(笑)みたいなので、ちらりと見かけた程度。

私がフェデリーコくらいの歳の時に、見てたよなぁ・・・というような名前すら思い出せないアニメが他にもたくさん。『ミラシロ』という名前の少女が出てくるバレーボールのアニメに人気があり、よく授業中、「ミラシロを知ってる?」や、「この名前を日本語で書いて」と、登場人物の名前を頼まれたけど、このアニメ、私は知らない。雰囲気からして、『アタックNO1』の時代のものだと思うのだけど。

こちらでのタイトルは、『ナナ スーパーガール』という、あぁ何だか覚えがあるぞ、これ!というものや、このアニメって『ミンキーモモ』っていうんじゃなかったっけ?と、古いふるーい記憶を辿っても、思い出せないのがたくさんあって、喉に何かが引っかかった感じで気持ち悪いんだけれど。ま、別にそんなこと思い出さなくてもいいんだけど、何だか気になるでしょう。確実に言えるのは、今、放映されているアニメの半分は、フェデリーコが生まれる前のものだね。

アニメの数もすごいけれど、それ以上の漫画だって売られている。『MANGA』という名前で。最後のページに、『読み方』として、左から右にページをめくる、コマ割の読み読み進め方などが説明されていて面白い。え!こんな漫画もイタリア語で!と、それはそれは本当にたくさんの数。これらを見てると欲しくなってしまうので我慢、我慢。でも、私も昔(あくまでも『昔』ですよ)、夢中になって読んでたもの。イタリア人だって面白いと感じてくれているのなら、喜んでもよいのでは?

『トムとジェリー』や『ポパイ』、名前は知らないけれど警察もののアニメ、『メガ・ベイビー』というものなど、アメリカのものも目にするけど、やはり、日本のものの数がすごい。部屋からキッチンへ下りていくと、テレビを指差して、「さっき、寿司を食べてたよ」とフェデリーコが教えてくれたりするもの。だから、子ども達も日本のことについて詳しくて。先生に、どこで知ったの?と聞かれて、「アニメで見た!」とよく言っている。

子ども達は、ピカチューのTシャツとプレイステーション。おとな達は、ソニーのビデオカメラにアイワのステレオ。これが、現在のイタリアの家庭のよう!?