天空の町。

たったの751メートル、という低い標高ながら、エリーチェにはこの言葉がぴったり。広場に並べられたテーブルについて、遅い昼食のパニーノを食べていると、突然、目の前が真っ白に。え?何がおこったの?霧か??。いえいえ、これはなんと雲でした。さーっと肌寒い空気を感じたかと思うと、私達は雲の中にいました。以前、カプリ島でもサントリーニ島でも似たようなことを経験しましたが、エリーチェは格別。石畳に石造りの古い町並み、人影もまばらな昼下がり。その中で雲に包まれるなんて・・・。こんな素敵なことってあるでしょうか。

町の中心にある広場に面してバールが数軒。どこに入ろうかと思案しながら、その1軒を覗き込んだところ、突然、ショートパンツにジェラート片手のおじさんが、「ジェラートか?」と。まだこの店に入るか決めてないのだけれど、つい、「ノー。何か食べたいの。パニーノか何か・・・」と言ってしまうと、「パニーノならこれだ」と、私達を手招きし、ガラスケースのパニーノをひとつずつ説明してくれました。そして、「何を飲む?」と。このオジさんは店の人・・・じゃないよなぁ・・・、と苦笑しつつ、彼の勢いに押されて本日の昼食はここに決定。
彼は、アメリカ人の団体相手のツアーガイドだとのこと。そう、この町に到着して、それが最大の謎だったんです。団体観光客をすごくたくさん見かけるんです。この町は『アメリカ人』に有名なのかと尋ねたところ、「英語は分かるか」と、恐らく彼のお客さんに説明しているのであろう、町の紹介を私たちにしてくれました。なんでも、この町出身の有名な科学者がいるんですって。名前も教えてもらいましたが、忘れちゃいました(確か、頭文字がE.Mだったような・・・)。英語で説明されたって、さっぱり頭には入りません(笑)。で、その人にちなんで科学のセミナーが開催されるんですって。私たちが滞在していた間にも、それが開催されていたようです。へーえ。世界には私達が知らないことが本当にいっぱいあるんですねぇ。

昼食を済ますと、他にすることもないので、ホテルへと戻ります。今回、私たちが滞在したのは、『ELIMO HOTEL』というところ。綺麗で大きな部屋(メゾネットタイプでした)にワクワクしながら、本を読んで、そのままお昼寝・・・。目覚めたあとは、お散歩に出かけます。
ホテルの部屋より。 いい眺めだな・・・と思っている間にこんなことに。雲の中はかなり冷たいです。
さて、夕食はどこで食べようかな・・・。看板が目に入った1軒のリストランテへ入ることにしました。中は大賑わい。大家族に囲まれたテーブルがいくつむ、夫婦2人きりの西洋人は旅行者かな?。そして、かなりの数、約半分に近いテーブルに座っている人たちの胸には、名札が。まぎれもない科学者の人達だ・・・。私達が席に着いたあとも、続々と名札を胸に付けた科学者グループが入ってきます。昼間、広場にいたときも、セミナーに出席しているのであろう科学者の人たちは、胸に大きな名札をつけていました。面白い・・・。私、こんなにたくさんの科学者を一度に目にしたのって、生まれて初めてだ。

さて、このレストラン。『RISTORANTE VLISSE』という名前でしたが、激旨!でした。少し離れたテーブルの老夫婦が食べているものが美味しそうだったので尋ねると、クスクスとのこと。おぉ!さすがアフリカが見える町だけあるねぇ!。魚のスープのクスクスと、トラーパーニ風手打ちパスタを注文しました。トラパネーゼ(トラパーニ風)、トマトとバジリコのソースでした。どちらも、今までの人生で食べた中で一番!ってほど美味しかったです。こりゃ満席になるはずだ。エリーチェへ行く機会があれば、ぜひどうぞ・・・。
翌朝、アフリカを見るために山へと登ってみました。エリーチェはシチリア島の最も東の端っこにあるから、アフリカを見るなら、きっとこっちの方角・・・(そんなええ加減でいいのか?)。お天気も悪くなく、山の上から見る眺めはとても良かったけれど、残念ながら霞がかかっており、アフリカは見えず。残念。『ヴィーナスの神殿』というものがあったので、中を見学してきました。ヴィーナスは愛の女神だから・・・と、訳の分からない戯言を口走り、折に触れ私たちに抱きついてくる、愛嬌たっぷりの案内人のおじさん。ま、ヴィーナスに免じて許しましょ。

雲の中の天空の町。美しい町並みに、科学者たち。美味しいものも食べたし、アフリカは見えなかったけど、素敵なところでした。また、ゆっくりといつの日か訪れてみたいな・・・。

ps.帰国後、友人がエリーチェの科学者について調べてくれました。Ettore Majorana(エットーレ・マヨラナ)、量子力学という私にはさっぱり分からない世界の人だそうです。ちなみに、彼は1938年に消息不明になって、以来いまだに行方しらずなんだとか。
2001.07