彼女の魅力を再認識

さとがえるコンサート'98:矢野顕子

 

すっかり年末の恒例になった感のある「さとがえるコンサート」も、今年でもう3年目。今年はいままでのトリオに、おなじみパーカッションのキャロル・スティールさんを加えたカルテットで行われました。

相変わらずの極上アンサンブルを聴かせてくれる人たちですが、今年は今までとはちょっと違います。というのは、今年は矢野顕子の新しいアルバムが出てないんです。そういうわけで、今までライヴでできなかったような曲を、今までとは違った方法でやろう、という意気込みの見えるライヴでありました。そもそも選曲じたいが、かなり通好みでしたね(笑)。あと、同期モノを導入したのもずいぶん久しぶりではないでしょうか(ハモンズを除くとね)。3分の1くらいの曲でテープorシーケンサを使ってました。僕の記憶だと"Elephant Hotel"のライヴは同期なしだったように思うので、"Love Life"のライヴ以来ということになります。などといったように、新アルバムが出なかった分だけアレンジ上の工夫が大いにほどこされたライヴとなりました。

演奏面では120ポンドもの超絶ダイエットに成功したアンソニー・ジャクソン御大(プレイも超絶)には驚きましたが、ハンサム&クールなアーモンド君、すごいっすよ。カナモノ系を含めた音量と音色のコントロールが完璧です。タイトなのに繊細って感じで。打ち込み系とも完璧に同期するし。よく、打ち込み使うといきなりノリが機械的になっちゃうドラマーがいるんですけど、彼は全然違いますね。いやはやすごい。それとー、キャロルおばさんの参加は大きかった。サウンドの幅が全然違うもんね。コーラスにしても、声質がアッコちゃんと良くマッチしてるし。

アッコちゃんのプレイというと、去年の弾きまくり大熱演とはちょっと違っていてかなり興味深かったです。もちろんピアノを弾きまくる場面が多いんですけど、Rhodesのプレイなんかだと、ガンガン弾くのではなくてカウンターラインや合いの手を単音でちょこちょこっと弾いたりするだけとか。それから、「私はここは弾かないで唄うだけにするから、好きにやってね」みたいな感じでリズム隊にサウンドの主導権を渡したり。こういったアンサンブルの隙間を作るようなアレンジってのはなかなか緊張感があっていいなと思いました。こういうのはアルバムだと音数が少なくて物足りなく感じることもあるので、ライヴならではのアレンジと言えますね。

あと去年も感じたんだけど、NHKホールのピアノが良い音してました。実はこのライヴの前日は教授のライヴだったわけですけど、これがもう、とにかくもう典型的なヤマハのピアノで(苦笑)。すごく良いピアノだしPAも最高レベルなんだけど、ナイフを切るような鋭い音色がけっこう辛かったんです。そんなわけで、アッコちゃんの弾くSteinwayの柔らかい音色がことのほか気持ちよかったなあ。

一番最初にオドカシの"The Girl of Integrity"から始まったわけですが、アレンジも演奏も完璧なので、最初からノックアウトされたような状態でございました(笑)。曲目別では今回は特に「沖縄ソング三連発」が気に入ってます。ちょうど真ん中に入る「安土屋ユンタ」でウルウルっとしてしまった。そういえば「ちんさぐの花」以外はアッコちゃんのアルバムには収録されてないんですよね。教授は3曲ともやってますけど(苦笑)。あと"GREENFIELDS"なんかも涙腺刺激系ね。なんかさー、隣に座ってる女の子とか、後ろの子とか、みんなポロポロ泣いてるんで、ついつられて。"GREENFIELDS"といえば、これを唄い終わったあとにアッコちゃんが一言

「GREENFIELDSって理想よねえ。こんなところに住みたいですよね。
でも、誰もがGREENFIELDSに住めるわけじゃないのよね」

と話したの。

これは、至言でありましょう。至福の場所に到達できないからこそ、切ないまでの想いが生まれてこうした音楽ができるわけで、満ち足りてしまったらそれで終わりではないかとも思えます。矢野顕子の音楽の何が魅力って、そういう切なさだったりするので、これが涙腺を刺激してくれるんです。

とゆうわけで、矢野顕子の魅力再認識という感じのライヴでした。実はこの手のサウンドはいま自分の好きな音楽とは微妙に方向性が違うんですが、それはそれ、これはこれの良さというものでございます。

 

1998.11.25 クラブクアトロ
1998.12.13 NHKホール

1998.12.19

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