圧倒する音楽の力

We Live Here Tour in Japan:Pat Metheny Group

 

 何年も待たされたアルバムをひっさげての、何年も待たされた来日公演となった。
 自分にとってナマでMethenyを観るのは初めてだったので、もう胸が張り裂けんばかり。なにしろMethenyが大好きで大好きでしょうがなくて、"Secret Story Tour"のためにアメリカまで行こうと思ったほどの自分である(諸事情により実現せず)。
 当然、このライヴにもかなりの期待をして行ったのだが、結果は期待以上というか、それまで自分の知っていたものとは次元が違うすさまじさであった。

 とにかく、圧倒的なのである。
 その音楽、その演奏、そのサウンド、すべてが圧倒的なパワーを放っているのである。
 このパワーを受けとめる聴衆は大変だ。2時間半ものライヴを聴き終わったあとは、クタクタに疲れてしまうのだから。

 Methenyとメンバーが登場して軽く挨拶をすると、いきなり"Have You Heard"!
 あの7拍子のイントロが始まった瞬間から、僕は舞い上がってしまった(笑)。

 "First Circle"の手拍子もちゃんと練習したし、聴衆のみんなも練習してきたらしく、ほとんど完璧に決まってしまった。Patも驚いた様子で「あちこちの国へ行ったけど、この手拍子は日本が一番だよ」とMCで話していた。"Are You Going with Me"は、ビデオでは見たことがあったけれど、実際にPatがギターシンセを弾いてるあの表情だけでこちらもイッちまう。

 ああ、もうちょっと冷静に書かないと(苦笑)。
 アルバム「We Live Here」は同期モノばかりなので、このライヴでもほとんど全編に同期が使われていて、Jazz系にしてはめずらしく、照明までバッチリ同期していた。曲の展開にあわせてダイナミックに変わる照明の効果は抜群で、もともと映像的と言われるPMGの音楽によりいっそうクリアな視覚的イメージを持たせることができたように思う。
 演奏した曲では「We Live Here」以外のものも素晴らしかった。
 亡くなったアントニオ・カルロス・ジョビンの"How Incensitive"ではPatは鬼気迫るソロを披露してくれたし、"Scrap Metal"も初めて聴いたけどスリリングで良い。それからアヴァンギャルドな展開の"Half Life of Absolution"なんか、もう最高に格好よかった。それから大好きな"Secret Story"から"Antonia"をやってくれたのが嬉しかった。

 ラスト・ナンバーの"MINUANO(68)"を聴きながら、怒涛のように感動していたのだけれど、それは音楽も素晴らしいが、彼らの人間性もまた素晴らしいことがわかったから。世界中をまわって、何度も同じ曲を演奏しているのにまったく手を抜かない姿勢、何よりも音楽に対して真摯な態度は尊敬に値する。
 いろんな海外アーティストのライヴを見てきたけれど、みんな1時間30分くらいで「え、もう終わっちゃうの?」という不完全燃焼な気分を味わうことが多かった。中には明らかに手抜きというか、リハーサル不足で来日してくるバンドもある。
 そんな中で、PMGは2時間30分を超えるライヴを、完璧に演奏をこなしつつ全力疾走で駆け抜ける。こんな凄い人たちは今まで見たことがない。

 しかし、あれだけ魅力的な演奏をされると、あっというまに彼らの作り出す世界に取り込まれ、翻弄されてしまう。なんとも麻薬的な魅力をもった人たちである。
 ライヴのことは、今でも鮮烈に記憶しているのであるが、ライヴが終わってフラフラになりながら会場を出たあと、どこへ行って何をしたのか全く覚えていない。記憶が飛んでしまっているのだ。
 音楽からこれほどの衝撃を受けたのはそれまでで1回しかなかったのであるが(高校時代にJapanの"TIN DRUM"を聴いたとき以来)、このライヴをきっかけに僕はますますPatに耽溺してゆくことになるのである。

 

1995年10月7日:ゆうぽうと(with NEWMANさん)
1995年10月8日:ゆうぽうと(with NAKAくん。この日の演奏は特に凄くて、二人とも茫然自失。)
1995年10月12日:ゆうぽうと(with NEWMANさん)

 

初出:1995年10月 UC-Galop 改稿:1996年11月

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