ついに出た出たやっと出た

Like Minds / Burton, Corea, Metheny, Haynes and Holland

 

待たされたってゆうか

さてさて、本年発売のアルバムであります。もう待たされたってゆうか、やっと出たとゆうか、やっぱり主役は最後に出てくるとゆうか、発売されてイキナリ今年の最高傑作ジャズ・アルバムとの誉れ高い本作であります。なにしろ今年発売になったレコードにはPat Methenyが大きく絡んだものはあまりなくて、ファンとしては寂しい限りだったんですよね。だから、ここへ来てようやく出たって感じです。内容はようするにGary Burton(Vib.)がPatと組んで他のメンバーを集めてクインテットで3日間セッションしてみました、というアルバム。これがとーーっても素晴らしい作品に仕上がったのでありました。嬉しいっ。

 

再・再統合したか?

PatとGary Burtonの関係は、ディープなファンなら誰もが知ってる逸話だと思うんだけど、このページを見てる人はあまり知らなさそうなので、ちょっと紹介しましょう。

1973年4月、GaryのグループがWichitaのジャズ・フェスティバルに出演したとき、Wichita州立大のビッグバンドと共演するという話を聞いたPat(当時19歳、ギターを始めて6年目)がGaryの楽屋に押し入って「僕はあなたのバンドのレパートリーはすべて演奏することができます。だからあなたのグループに入れて下さい」と自らを売り込んだのであります。これがキッカケで74年にPatはGaryのグループのメンバーになってジャズ・シーンに登場してくるわけ。つまりGary Burtonこそ最も早い時期にPatの才能を知っていたミュージシャン、ということになるのです。

なんだけど、Patが77年にGaryのグループを離れて以後、この二人は全く共演してなかったのね(^^;)。再び共演するのはなんと12年も後の89年のアルバム"REUNION"であります。この"REUNION"、再統合なんてタイトルが付いてるわりに、再演はもちろんGaryのオリジナルもないという点で、いわゆるセッション・アルバムとはちょいと違うということがわかります。そして、今回も若干の方向性の違いはあるものの、このときと同じようなアルバムのようであります。ということで前置き終わり(笑)。

 

ミュージシャン人選

ええーと、その、凄いメンバーだよねぇ。曲の中身に入る前に、ミュージシャンについて書こうと思ったんでありますが、Garyの書いたライナーノートにかなり詳しい背景が記述されてるんで、そっちに譲ります。え?英語だから意味がよくわかんないって?それわワシも同じです(苦笑)。

んでもって、このアルバムのコンセプトというか精神的な核となってるのはGaryとPatみたいだけど、演奏的にはGaryとChickが引っ張ってる感じ。あとRoy Hanesのプレイはさすが。Roy師匠ときたらドラムを叩きながら一緒に唄ってまっせ(笑)。4曲目とか、ヘッドフォンで聴くとよくわかります。

 

曲とサウンド

曲はPatが4曲、Chickが3曲、Garyが2曲+スタンダード1曲。それぞれが過去に作った曲の再演になってるのが"REUNION"との大きな違い。レコーディングが3日間で終わってしまってるのが凄いんだけど、Garyのライナーにもあるようにどの曲もテイク1か2でOKだったということなので、まあそんなものかなと。ミックスは非常に単純明快で、どの曲も左にChickのピアノ、右にPatのギター、真ん中にGaryのヴァイブという定位。

1曲目は、Patのスタンダード"Q&A"。僕もこれはいろんなバージョンで聴いてまして、ほとんどギタートリオだったんですけど、このアルバムのバージョンが一番好きですな。でも、これがテイク1でOKって言われても、ちょっと信じられませんぜ。短い小節でソロを取る楽器がクルクル変わったり、かなり戦略的にアレンジされているんで、絶対に楽譜アリだと思います。1曲目のGaryのプレイはテーマを律儀に弾いてて、すごく大人しい感じ。各自のソロを聴かせるのが目的ではなくて、曲の構成を重視したアレンジになってますね。

2曲目もPatのナンバー。これはたっぷりソロのスペースが用意されていて、Garyを含めて各自の演奏がたっぷり堪能できます。

5曲目はタイトルナンバーの"Like Minds"。Garyの曲。なるほどね、この曲を聴くと、なぜこの人選でレコーディングしたのか良くわかります。特にChickとPatは、こういう曲にはよくハマるタイプのプレイヤーだと思うし。

ストレートアヘッドなナンバーが続いていたけれど、6曲目からすこし毛色が変わります。やはりGaryの"Country Roads"、タイトルのようにカントリーっぽいメロディラインが特徴のスローナンバー。

7曲目はPatの問題作"Tears of Rain"。ご存じのように昨年発表された"Beyond the Missouri Sky"からのナンバー。しかしあのアルバムの中でもひときわ異彩を放っていたこの曲をなぜここでとりあげるのか、大いなる謎ではあります。が、Garyのプレイの特徴でもある「静謐感の表現」には適してるとも思う。内容が内容だけにあまりアレンジする余地がなかったらしい。ソロの雰囲気もオリジナルアレンジとほとんど変わっていません。

10曲目は"Straight Up and Down"。このメロディがとてもChickらしい。最後ってことで、みんなのソロが入ってとても楽しそうであります。GaryもChickもPatも、この曲のソロが一番インプロ度が高い感じで、むちゃくちゃイケイケです。あとChickのプレイはすごい。自分の曲だから当然かもしれないけど、バッキングにおいてもかなり毒気の強い、危ういフレーズを平気で連発しております。毒はあっても決して知的なスタンスを崩さないのがChickだと思うんですが、このあたりがGaryやPatとの共通点になるのかな。あとソロでも、スケールアウトの手法として半音階を多用して、モード的な処理でフレーズを構築&解決していくところとか、似てると思うわけであります。

 

オススメ度(笑)

Jazzの好きな人なら文句なく買い。あと、Pat MethenyのやることならなんでもAcceptできる人も当然買いましょうね(笑)。ですが、普段Jazzを聴かない人、興味のない人にはオススメしません。なぜならこのレコードって、いままで「いいおさら」に書いてきた中で最も「ジャズらしいジャズ」なんですよね。まあPat絡みではもっとストレート・アヘッドな作品もあるので、そういうのに比べれば遥かに聴きやすいんですけれど。それでも、今までワシの評を読んできた人が同じようにこのレコードもイケると思ったら大間違いなのよ。Jazzに興味のない人には辛いかもしれないんで、その辺りは覚悟してから購入いたしましょう。最もコンテンポラリーなのは1曲目、Patの"Question & Answer"です。とりあえずこの曲を試聴してみて、イケるようであれば大丈夫でしょう!

 

1998.11.29

 

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