果てしなく続く旅

TRAVELS:Pat Metheny Group

 

 1983年発表のPat Metheny Group初のライヴ・アルバムで、二枚組、90分に渡る大作である。
 ライヴ・アルバム2作目にはこのあと10年近く待たされることになるのだが、とりあえず"First Circle"以前の第一期PMGのしめくくりとも言える。とはいえ、内容的には新作と言っても過言ではない。既発表曲は4曲だけであり、ありがちな集大成的ライヴ盤とはかなり趣がことなる。既発表曲はライヴでの演奏がかなり難しい曲もあるのだが(技術的、あるいは曲想的に)、どれもオリジナルよりスケールアップした内容になっているのが素晴らしい。

 音源はPMGが82年夏〜秋にかけて行ったライヴ数十本をすべて収録したテープからベスト・テイクを選び抜いたということで、Patの完璧主義者ぶりがうかがえる。当然、演奏内容もピカイチである。実際この人たちの演奏はいつも完璧なんだけど、普通に完璧なときと、規定された枠からはみ出しつつも完璧なときの2種類があるのだ。後者の方がより魅力的であることは言うまでもない。このアルバムに納められた演奏はどれも後者の方であるため、2枚組を聴き終えると本物のライヴを聴いたときのようにどっぷりと疲れるが、実に爽快な気分になること請け合いである。

 僕がこのアルバムで要チェックだと思っているのが"Farmer's Trust"と"Travels"の2曲のバラードである。なんか、演奏が若いというか、あっさりまとめすぎのような感じなのだ(笑)。"Farmer's Trust"は近年のライヴでも演奏されることの多い曲なのだが、やっぱりある程度歳を取ってからの方が深い演奏になっているように思う。
 ということで、ほかにも印象に残る曲について少し書いてみたい。

Are You Going With Me ?
直前のアルバム"OFFRAMP"からの収録はこの曲だけという恐ろしさ。しかし、いきなりすっげーギターシンセのソロにぶっとぶ。この調子で17年間も演奏してるなんて、あなたは信じられるだろうか。17年たってなお、いや以前にもましてアグレッシヴなプレイになっているのには恐れ入る。もう勝手にやってくれ(笑)。そんなこと聞かれなくても僕はどこまでもあんたについていくよ。"Sure, I'm going with you ! "
Phase Dance
イントロのリフだけで悶絶モノ。"Letter from home"に収録された"Have you heard"が出るまで、PMGのライヴの1曲目はずっとこの曲だったということである。
Extradition
ブルースっぽい始まり方にびっくりするが、すぐにいつものイケイケ調になる。イケイケ調と書いたが、この曲のギター・シンセのソロはかなりアウトした部分が多いし、お得意の半音進行も連発で、その後のPatの方向性をよく示しているので、歴史的価値が高いように思う。
Goin' Ahead / As Falls Wichita, So Falls Wichita Falls
"Goin' Ahead"はともかく、"As Falls Wichita, ..."をライヴでやろうとする心意気はすごい。というか、普通の感覚ではない。Nanaの不気味ヴォイスも恐いし。これで会場が盛り上がってるので、いつの時代もディープなファンっているんだなあという感じ。PMGはイケてもアルバム"As Falls Wichita, ..."はいまいちイケないという人はけっこういるので。(元々ロック系の音楽が好きな人には厳しい内容らしい。あんなにいいモノは他にはないのに・・・)
Song for Bilbao
楽しい、楽しい。楽しそうに演奏しているのが容易に想像できる。そう思っていたら、'98年のPMG来日公演のアンコールがなんとこの曲で、やっぱりとっても楽しそうに演奏していたのが印象的。Nanaのパーカッションのためか、とてもラテンぽいフレーバーに溢れている。
San Lorenzo
これは凄い。Lyleのソロがすごいのなんの。オリジナルの倍くらいの長さだし(笑)。ラスト近く、ソロからコーダに入っていくときなんかもう思わず「うおおおお!」とか意味不明の雄叫びをあげてしまった。この曲をライヴで聴けたんだなあ。もし僕がこのライヴの会場にいたら、そしてこの曲を生で聴いていたら、きっと涙で顔がぐしゃぐしゃになっていたことだろう。
こんなにも素晴らしい音楽が世の中には存在する。こんなにも素敵な音楽を作る人たちがいる。そして僕も彼らと同じ時代を生きている。この幸せ、そしてこの奇跡に改めて感謝したい。
Pat Methey Groupの長い旅は、この曲から始まった。その旅はいまも終わることなく続いているのだ。

 

1998年6月21日

 

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