矢野顕子も絶賛

体内回帰II:Ryuichi Sakamoto and David Sylvian

 

坂本龍一のオケに、David Sylvianが好き勝手にメロディと歌詞を乗せると、極上の名曲ができあがる。この法則は理屈ではなく歴史が証明していて、古くはJapan時代の"Islands in Africa"から始まり、あの「戦メリ」のテーマ曲にあわせてSylvianが唄った"Forbidden Colours"でゆるぎないものとなりました。

教授はともかく、Sylvianが教授&YMOから受けた影響は非常に大きいと思われます。事実Japanの"Quiet Life"にはほとんどYMO(の教授の曲である)"Castaria"のカバーとしか思えない曲があります。そのJapanも後期になると表面的な部分でのYMOの影響は、まったく見えなくなってしまうのでありますが。で、教授とSylvianは"Islands in Africa"以降も数々のコラボレーション作品を作ってきました。もっとも代表的なものとしてはまるまるアルバム一枚を一緒に作った"Secrets of the Beehive"があげられます。この"Secrets of the Beehive"以降、ぱったりと共同作業がなかった二人でしたが、どういういきさつか、教授の「体内回帰」をやることになります。

「体内回帰」は、もともとは教授のアルバム"Heartbeat"の中の1曲です。そもそもなぜ体内回帰なんてことを思いついたのか、教授らしくて面白いのですが。当時流行っていたハウス(←今のハウスではなく、初期のハウスのこと)の4つ打ちベードラがなぜ気持ち良いか、という疑問から導き出された一つの答え=母親の胎内で聴いた心臓の鼓動の記憶を呼び起こしているのだ、という考えからインスパイアされたようです。実はこれこそがアルバムタイトル"Heartbeat"にも繋がっているわけで、アルバムコンセプトの核とも言えるものなんですよね。そのわりには「体内回帰」は重いビートと暗い曲調で、あのアルバムの中ではかなり異色でした。そこへSylvianを参加させてシングルカットすることになった・・・という経緯から考えても、この曲は最初から共同作業でできたわけではありません。"Forbidden Colours"の時と同様に、すでにできあがっている教授のオケをもとにSylvianが独自にメロディと歌詞を作り仮ウタを録音→オケの手直し→本チャンボーカル、というような手順で録音されたものと思われます。

"Heartbeat"バージョンからオケの変更は少なくて、2-4拍にスネア調のパーカッションが加わりよりわかりやすいビートになったことと、ギターソロが加わったくらいのものです。ただミックスはかなり趣が異なり、ピアノもオリジナルバージョンとは別物のような音色になっています。ボーカルは完全にSylvianに置き換わっていて、この"II"バージョンだけ聴いてしまうと「体内回帰」というキーワードを教授が出して、あとはSylvianのメロディとウタにあわせて教授がオケを作ったようにも思えてしまう、それほど強力なボーカルです。特にIngrid Chavesによるラップ調のトーキングが加わり、Sylvianとのハモリになっていくあたりに渦巻く情念はすごいです。以降、エンディングまでは呆気にとられてしまうほど完璧な出来です。矢野顕子をして「教授のドロドロしたオケにSylvianのボーカルが乗ると、極上の曲ができあがる」と言うとおりの名曲名演でした。

なお、このCDに同時収録されている"Forbidden Colours"はSylvianが1983年にベルリンで"Brilliant Trees"を録音したときに同時に収録されたバージョンで、Sylvianのシングル"Red Guitar"のB面として初公開されたものです。当時教授はアルバム「音楽図鑑」のレコーディング中だったはずなので、もうずいぶん昔のトラックということになります。生弦を生かしたアコースティックなアレンジが良いです。

1998.01.17

Back to "Cool Disks"