10年経ちました。

TECHNODON:YMO

 

事の始まりは1989年のサディスティック・ミカ・バンドの再結成である。

ミカ・バンド再結成の経緯は割愛するが、結果としてはこれが大成功であった。CDは売れまくりライヴも満員。商業的にはまったく文句の付けようがなかった。一方、1980年代終盤より発生したハウスミュージックと新しいテクノ・ムーヴメントの中でYMOの評価が高まり、雨後の竹の子のごとくリミックスアルバムが発売され再結成への気運が高まりを見せていた。東芝EMIの営業部門がこの流れを見逃すわけはなく、マネージメントベースでは90年初めよりYMO再結成に向けた準備は進んでいたようである。当時はバブル全盛期で、松任谷由美の「天国のドア」が記録的な枚数を売るなどして東芝EMIもイケイケゴーゴーな雰囲気だったのだ。というわけで、EMIから高橋幸宏を経由して細野晴臣へ再結成の打診がなされるのだが、この二人はもともとYMOには未練たらたらだから即OKだったようだ。

残る問題は坂本龍一である。1990年〜94年にかけて、この人は超人的な忙しさだった。ベルトルッチ監督の「シェルタリング・スカイ」のBGMを作ったあとでバルセロナオリンピック開会式の曲を作って&指揮して、次いで再びベルトルッチの「リトル・ブッダ」がスケジューリングされ、その後には久々のソロアルバムも計画されるという合間を縫ってのYMO参加である。坂本さんと細野さんの間の軋轢はよく知らないけれども、よくぞ再結成にこぎつけたというのが正直な感想である。
その後のアルバム発売〜東京ドームライブまでの無茶苦茶なスケジュールや、脇目も振らぬ広報活動を見てもわかるように、サディスティック・ミカ・バンドでやったマーケティングをさらに徹底して、世紀の再結成(笑)を演出した東芝EMIの労力は大変なものだっただろう。

というわけで、TECHNODONである。

アルバムの前半は当時の流行を反映して軽めのリズムでYMOらしいポップなエッセンスを利かせたナンバーが出てくるが、「I TRE MERLI」以降の深刻なサウンドは尋常ではない。元来真面目な人たちだと思うので、本気を出すとこういうことになってしまうのかも知れない。何しろ坂本さんがその前に出したアルバムは「Heartbeat」である。そこに収録された「体内回帰」は名曲だと思うが、あのアルバムで展開された軽薄リズムは何とも居心地が悪かった。一般的に受ける・売れるという意味でのポップな音楽を努力して作り出す坂本龍一ほど痛々しいものはない。坂本さんの基本姿勢は「音楽とは戦いである」なので、戦わずして変化球で逃げたような曲を作られたのではたまらない。このアルバムではきちんと戦ってくれたので(本人は嫌々だったらしいが)、とりあえずテンションの高い曲が揃ってホッとした。

サウンドの技術論などはとりあえず放置して、このアルバムはものの見事にBGM〜TECHNODELIC路線に乗ってしまった。そもそも曲順がTECHNODELICそのものである。ポップ風に始まって、深刻な要素を交えつつ、ラスト前に細野さんの曲が入って、手がかり(KEY)となる曲(CHANCE)が入って、ラストナンバーで終わる。何も変わっていない。散開から再結成まで10年。再結成からも10年。時の流れは早い。・・・と、感慨に浸りつつ、各曲について簡単にコメントしたい。

 

BE A SUPERMAN
たった数行で無気力男=高橋幸宏のダメっぷりを余すところなく伝える詞が見事。コードを弾くジュピター8のLFOがリズムに同期してるのが気持ちいい。
NANGA DEF ?
こういう曲を無理して作ることもないのに。おそらくレコーディング初期の作で、それなりに楽しかったとは思うけど。サビ(?)の歌が二拍三連のため、拍子が非常にわかりにくい。イジワル。
FLOATING AWAY
ブレードランナー。映像のついたライヴビデオを見れば一目瞭然である。ちなみにこれと同一タイトルの坂本さんの曲があったりする(名曲)。
DOLPHINICITY
よくわからん効果音がいっぱい。パーカッションにまでフェイザーがかかっていて、やってることはBGM時代と同じ。
HI-TECH HIPPIES
最初から鳴ってる金属っぽいリフが凝ってる。ポリフォニックで綺麗にポルタメントがかかってるように錯覚するが、実はモノモードでそれぞれ別の音色を鳴らしている。このアルバムは、そういう細かなテクニックがいっぱい。シンセ使ってる人は勉強しましょう。
I TRE MERLI
ドラムのサンプリングとプログラミングが見事。いかにもYMOらしいサウンド。
NOSTALGIA
タルコフスキー。寒い。
SILENCE OF TIME
こんなに内省的なハウスは珍しいが、スザンヌ・ヴェガの「トムズ・ダイナー」だってあんなに暗いサウンドになっちゃったわけで。ともあれ、この曲からアルバム最後までの流れは見事。
WATERFORD
たったこれだけのネタでここまでの曲に仕立て上げる手腕に脱帽。
O.K.
細野さんは自分の声が好きじゃないようで、ハーモナイザーを通したり(BGMの「ラップ現象」)、イコライザーで低域をバッサリ切ったり(TECHNODELICの「グレーの段階」)、必ず手を加えている。ここではエンジニアの飯尾さんが「その低域が細野さんの声の魅力なんです!!」と力説して、ノーエフェクトになった模様。偉いぞ>飯尾。
CHANCE
キッカケが投げやりなアイディアでも、いざサウンド作りを始めると本気になっちゃうのが坂本さんの良いところ。
POCKETFUL OF RAINBOWS
ミックスの勝利。保戸田さん、ご苦労様でした。このアルバム最大の功労者は間違いなくアナタです。

2004.02.15

 

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