耽美派テクノ

パラレリズム / コシミハル

 

コシミハルといえば越美晴という名前のアイドルっぽいデビュー曲「ラヴ・ステップ」しかしらなかった僕。「ラヴ・ステップ」はオールスター家族対抗歌合戦だか何かの番組で1回聴いただけなのだが、あまりにも変な曲&へんな唄いかただったので、しっかり記憶に残っていたのです。そんなミハル嬢ですが、いつのまにかアルファに移籍して細野さんとテクノなアルバム作りをはじめてしまったの。ちなみにこれは細野さんとの共同製作2枚目です(1枚目はかの有名な『TUTU』)。当時、女性でテクノらしいテクノをやっていた人は彼女しかいなかったはず←いまでもそうかもしれないけど。まあゲルニカの戸川純とかいたけど、ちょいと方向性が違うように思うので。

それで、このアルバムを作り上げた人間関係から見ていくと、こんなかんぢ。
・プロデューサー:細野さん
・作詞作曲:ミハルちゃん
・演奏:MIHARUOMI(←って書いてあるのだ!)
・ミックス:寺田さん&細野さん
・録音:Alfa Studio "A"

ようするに、制作に携わった人数も少なめで、ミハルちゃん以外はYMO系のスタッフで固めたわけね。これはその後も続くんだけど、コシミハルのアルバムはいつも限られた数人のスタッフだけで作られていきます。録音は1984年で、DX-7&サンプリングブームの起こる直前。当然、DXサウンドもプリセットのベル音くらいしかないし、もちろんサンプリングはほとんど出てこない。それと、まだScritti PorittiやThe Power Stationが出る前なので、全体として古きよきテクノのサウンド感覚です。時期的にはYMO散開直後で、細野さんにとってみると"SFX"とかノンスタンダード・レーベルを作る直前にあたります。ちなみにこのアルバムはアルファYENレーベルからリリースされていまして、アルファもYMOの音源を掘り返してるヒマがあったら、こういったYEN時代の秀作をCD化すべきだったと思うんですが、90年代半ばを過ぎても放っておかれて、なんと97年にようやくCD化されました。

このアルバムのコンセプトはミハルちゃん本人も言ってるように「耽美派テクノ」の一言に尽きます。最初に『耽美』というのがコンセプトにあって制作されているので、サウンドからジャケットデザインから何から何まで妖しげな雰囲気に統一されているのがポイント。特に歌詞がアブナい。わりとポップなアレンジと可愛いめのボーカルなのに、唄ってる内容はとことん耽美的なエロティシズムに満ちているの。このギャップが意外で、けっこう気持ちいいんです。ある程度は計算して可愛いめに唄ってると思いますが。←憎いわね。それとジャケットなどのデザインは金子國義さん。彼を起用するというアイディアもミハルちゃんだそうです。さすが。ただセールス的にはこの次にリリースされる『ボーイソプラノ』の方が成功していて、サウンド的にもそちらの方が好まれているようです。でもワタシは甘い雰囲気の漂う『パラレリズム』の方が好きです。それで、このアルバムにはどっぷりとハマったんですよね。私だけでなく、友人たちも。かなり影響を受けて、三島由紀夫とか森茉莉とか読みまくってました(笑)。私の16-18歳はYMOやJAPANと共にあったんですけど、その後20歳くらいまでの2年間はコシミハルとともにあったと言っても過言ではありません。今から思うとちょっと不毛ですが、80年代は伝統的な耽美精神が辛うじて残っていたので、あの時代に耽美系にハマれたのはよかったとも思ってます。90年代は妙なはき違え耽美がメジャーになってしまい、古きよき時代を知る者からすると、誠に嘆かわしい世の中になってしまったと思うのです。

 

龍宮城の恋人
まさに古色蒼然たるテクノ。「このアルバムちょっと凄いんだよ。」という僕の強引なススメで聴いた友人が、イントロ15秒後に漏らした感想がこれ。最初から最後まで延々と同じリズムパターンで、ちょっとずつ上モノが入ってアクセントを付けるだけのシンプルなアレンジ。最後はお約束のVery famous Takahashi-Endingになってます。
Capricious Salad
アレンジがいかにも細野さんで、なんとなく可愛らしいんだけど、歌詞が猛毒。80年代ってこういうのが受けていたんですよねー。なんというか、東京グラギニョルというか、丸尾末広の世界なんですよ。僕も大好きでした(笑)。
IMAGE
これも古色蒼然型のテクノなんですが、ミハルちゃんと細野さんが一緒にリフレインする" Non Non Non Image !"というフレーズが大好きで、友人の玉吾郎氏らとよく唄ってました(笑)。中間に入るProphet-5のソロがなかなかイカしてます。
サン・タマンの森で
ミニマル風のプリペアード・ピアノが使われている曲。細野さんはこの雰囲気が好きみたいで、後の『銀河鉄道の夜』のサントラなんかも似たようなサウンドですね。
メフィストフェレスを探せ!
レコードではA面最後の曲ですが、これと「薔薇の夜会」は川島裕二さんという方のアレンジです。ワタシが不勉強なんですが、この川島さんという方が誰なのか知りません。
逃亡者
レコードではここからB面ですが、A面のような【いかにも】なテクノっぽさは影を潜めて、サウンドそのものが耽美的になってきます。そんな中でこの曲は名曲。マイナー調の寂しげな雰囲気がこの後のミハルちゃんと細野さんのコラボレーションの一つのキーワードにもなっていく重要な曲だと思います。歌詞は精神異常がテーマですからとっても怖いんですけど(苦笑)。譜例はイントロのフレーズで、木管の音色(Prophet-5)で演奏されます。ProphetというとJAPANやYMOの印象が強くて、怪しい音を出すシンセサイザーというイメージが強いのですが、実はこの音色のようなどこか悲しげな響きがとても美しいのです。

パラレリズム
サウンド的には細野さんの支配力が強くて、"BGM"と"TECHNODELIC"を足して2で割ったような感じです。YMOの『体操』風のミニマルなプリペアードピアノと重いリズムがアレンジ上の特徴になっています。ちょっとだけサンプリングも出てきますね。しかしシンセベースのフレーズ&リズム感が素晴らしいです。アルバムのタイトルとなったのもうなずける素晴らしい1曲でしょう。
Decadance 120
サウンドは細野さんお得意のインド的無国籍打ち込みタイプ。タイトルからもわかるようにかなり退廃的な歌詞で毒がいっぱい。
薔薇の夜会〜あるいは甘い蜜の戒め
川島さんアレンジです。Mick Karn調のフレットレス・ベースや、音程感のはっきりしない金属的なシンセなど、特にイントロにおいてJAPANの影響が非常に濃厚。唄メロのバックは非常にシンプルで、リズム+ベースにギター風のアルペジオが入るだけになってしまって、イントロとの対比もすごい感じ。

1999.10.03

 

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