Listen to dance.

MOMENT / SPEED

 

楽曲構成

楽曲は歌詞とサビのメロディを重視してます。特に歌詞は戦略的に作られていて、メッセージ色の強い内容をダイレクトに訴えかけることを狙っています。90年代になって友達&仲間意識を重視する子たちが増えていますので、その心理を直接的に衝いているわけです。

・どんな時だって私はいつもそばにいるよ
・泣きそうな自分に負けないで
・みんな他人に見えても仲間たちに会えるよ
・いつもそばにいて励ましてくれたよね
・離れていてもいつだってひとつだよね

高校生くらいになると相当な理解力があるのでこんな単純な歌詞でなくても伝わるように思うのですが、なにしろテレビや街の中で一度聴いただけでレコードを買ってもらうためには極力平易な言葉を使って直接的なメッセージソングにしないといけません。僕くらいの歳になると、キレイごと言ってんぢゃないわよとか、直接的すぎて恥ずかしいなーとか思うわけですが、今の中高生は昔よりずっと素直な面もありますから(笑)、同年代のアイドルの発するメッセージを何の抵抗もなく受け入れられるのではないかと思います。あと、きれい事だからこそ逆にファンタジーとして感情移入できたりするわけです。ところで、アイドル系のシングルにこういったメッセージ性を持ち込んだのは小室哲哉で、渡辺美里の"My Revolution"の成功をきっかけに一気に広がったように思います。

メロディの傾向としては、サビの素晴らしさのわりに導入部が印象に乏しく、展開の強引な曲が目立つように思います。特に初期の曲にそういった傾向が見られるのですが、これはダンス+ウタというSPEEDのコンセプトが影響しているかも知れません。つまり、メロディの主張が強すぎないように平ウタの部分は控えめに作り、サビはメロディアスに作るという方針です(カラオケに対応させるためにはサビのメロディが重要)。最近では相当に成熟していて、今のところの完成形が"ALL MY TRUE LOVE"ですね。イントロ-Aメロ-Bメロをものすごいスピード感で駆け抜けてあっと言う間にサビになってしまいます。通常はAメロを2回くりかえすと思うのですが、この曲は1回しかやらないのよ。

ちなみにベストトラックは最後に収録されてる"White Love (Christmas Version)"に決まりです。メロディが好きなんですが、やっぱりこのアレンジっすよ。情感たっぷりな弦が全編に入っていて、とてもゴージャス&ロマンティックです。サビ前には当然、お約束のティンパニ連打です。ドドドドドーン。僕はこうゆう大袈裟なアレンジが大好き。←単に弦が好きだというウワサもある(笑)。ふだんポップスではあんまり驚かない僕ですが、初めて聴いたときは思わず「おぉ、すげえぇ!」を連発しまったほどでございます。←似非野郎系

 

ダンサブルなリズム+キレイなボーカル

リズム隊は小室サウンドに対するアンチテーゼとも言える音色になっています。初期は小室っぽく強力にコンプで潰したりしてますが、最近の曲だと生ドラムっぽいスネアと太い音色のシンバルが特徴的で、これはかなり僕好みです。打ち込みっぽさを強調してしまうラテン・パーカッションの比率を下げ、ギターカッティングでグルーヴを演出する手法も良いです。でも、打ち込みは完璧ですね。DTMをやってる人は、このリズムをみっちり勉強するといいと教材になるはずです。なにしろ、ジャストな16分音符がほとんど存在しないんだからすごい。あとシンセ系が控えめなのもよろしい。

ボーカルはとにかくキレイに録ってますが、相当にエディット&スイッチングされてます。ProToolsのデモかと勘違いしそうです(笑)。僕のようなエディット素人が聴いて判る範囲でも1曲当たり100〜200箇所はハサミが入っています。テープを切ってるんじゃなくて、コンピュータに取り込んだ音声データ上で切っているわけですが。これでブレスやリップ音をほとんど完全に取り去ってるのがポイントです。強くリミッターをかけて録音してブレスを強調するのが近年のポップスの主流だったのですが、それをやると妙に生々しくなるんですよね。SPEEDはまだお子さまなので、生々しさを極力抑えたいという方針なのでしょうか。確かにキレイではありますが、やや不自然に聴こえるボーカル処理です。

 

強力なボトム

サウンドの特徴は低域にあります。ミックスにおけるボトム処理が抜群で、ベースなんかかなり低域まで出てるんですが、しっかり分離していてぶつかりません。HIP POPやR&B系ではベードラもベースも一緒に処理してゴリゴリの低域集団を作ったりしますが、それとは反対の方向性でサウンドを処理し、なおかつ豊かなボトムを作り上げるには相当なセンスと確かな耳が必要です。特にSPEEDの場合はまずボーカル優先で、オケが主張しすぎてもいけないので、ミックスのバランス感覚にはかなりシビアなものが要求されるのではないでしょうか。そのような中でこれだけ充実した低域を作りあげる腕は大したものです。

シンセベースはMOOG、エレキベースはLow-Bを張った五弦ベースが主体のようですが、エレベとシンベが混ざってる曲もあってけっこうバリエーションが豊富です。いずれも強力にコンプがかかっていて(←質感がFairchildくさい)、ずしんとお腹に響く低音になってます。しかしEQなどで強調しているわけではなくて、楽器から出てくる音をできるだけ生かすという方向性になっています。それと、どの曲もベースの打ち込みが秀逸です。フレーズも良いですが、リズム感覚が凄いです。ハネ方といい、ゲートタイムといい、ものすごくダンサブル。オケを聴いてるだけで身体が動いちゃいます。特に16分音符のハネ方はかなり微妙なタイミングになってますので、吟味を重ねた結果のサウンドでしょう。ドラムと同様に、ジャストな16分音符がほとんど存在しないんだからすごい。DTMをやってる人は、このベースをみっちり勉強するといいと教材になるはずです(笑)。

しかしこれだけの低域をきちんと再生するのはかなり難しいと思います。1曲目のイントロからC0なんて音程が出てきます。これはピアノでいうと最も低い「ド」なので可聴域ぎりぎり、普通のオーディオ機器での再生は困難です。僕がいつもモニター用に使ってるNS-10Mじゃ全然ダメでした。80Hz以下はほとんど再生できないので当然です。ということで、B&Wのスタジオモニターで再生したら、びっくりするくらい低音が出てビビリました。量感は普通というか自然なんですが、限りなくどこまでも下の方に伸びてる感じ。日本のアイドル系でこれほどボトムの伸びたサウンドは、今まで存在しなかったと思います。これはもうご家庭で聴くサウンドじゃなくて、やっぱりクラブで聴いて、身体で感じて踊るしかないっす。

1999.01.23

 

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