光と闇のコントラスト

Light To Dark / Ronny Jordan

 

以前、Pat Metheny Groupの"We Live Here"評で『R&Bのエッセンスだけを持っていってアルバム作っちゃうなんて、Methenyはズルい』と書きました。あのアルバムは本当にR&Bのおいしいところを上手に抽出して、最終的にはいつものPMGサウンドとして再構築していたわけで、現実問題としてR&Bファンにはかなり物足りないサウンドではないかと思うんです。あれに満足できないアナタに贈りたい、それがRonny Jordanのこのアルバムです。

Ronny Jordanというと、この"Light To Dark"の前にリリースされた"The Quiet Revolution"というアルバムがイギリスのクラブシーンで大ブレイクしていました。というか、Ronny Jordan以前はJazz/Fusion系ギタリストでAcid/R&Bサウンドを作る人はいなかったということもあって非常に新鮮なサウンドだったわけです。さらに、この人もイギリス人なので、コテコテのR&Bにはならなくて、けっこうソフィストケイトされているんですよね。ブルースの泥臭い要素が希薄なんです。ちょっと影のあるR&Bサウンドとジャジーなギタープレイがうまくミックスされたサウンドで、一躍ギターによるAcid Jazzムーブメントの寵児になってしまいました。また、そうゆうのが好きな人の多いイギリスでブレイクするのは当然かもしれません。実はPMGの"We Live Here"を聴いたときも最初は『なんだ、これはRonny Jordanじゃないか』と思ったほどです。というか、Ronny Jordan自身がたっぷりとMethenyの影響を受けているようなので仕方ないことなんですけど(笑)。

しかし、"We Live Here"がアメリカを始め世界的に幅広い支持を得たのとは対照的に、この"Light To Dark"の評判はあまりよろしくありませんでした。それはひとえに、彼がイギリス人だからではないかと思うのです。アルバムタイトルが如実に示していますが、このアルバムには光と影のような曲が集められていて、良く言えば内省的、悪く言えば悲観的・自虐的とも言える影の部分が色濃く見て取れます。【光があってこそ影が引き立つ】のですが(by 月影千草←ガラカメねた) 、このアルバムは光1割・影9割という感じで、全体としては陰影の印象が強いんです。それを象徴するかのようにジャケットも写真も真っ暗だし。したがって、リスナーが影の部分にシンクロできるかどうかがポイントで、うまく受け入れられた人にとっては気持ちの良いサウンドになるのですが、そうでない人には非常に厳しいアルバムになってしまうようです。

サウンド構成はシンプルで、打ち込みなリズム隊+ベース+キーボード+ギターorボーカルという形です。リズムは非常に太いベードラが特徴です。この強力なリズム隊を聴くとPMGが"We Live Here"で展開したリズムは、実はR&Bの雰囲気を取り入れただけということがわかってしまいますね。キーボードも手弾き中心で同期はほとんどありません。また、あまりダビングしていないようで、1曲あたりに登場するシンセも少なく全体にシンプルなのですが、演奏内容自体はかなり充実しています。特にRhodesのバッキングが良いです。静謐な空気感の演出に一役買っていて、このアルバムを単なるR&Bではないサウンドに仕上げるための重要なポイントになっています。あと要所要所でシンセのソロが入るんですけど、あまり自己主張しないように計算しつくされた絶妙なフレーズです。Minimoogのシングルトリガーを活かしたレガート奏法や、微妙なモジュレーションの使い方など、アナログシンセのおいしい部分がエッセンスになったような演奏を聞くことができますので、キーボードに興味のある方はぜひご注目ください。あとけっこうボーカルものが多いというのが特徴的なんですけど、唄がメインというわけではなくてサウンドを構成する楽器の一つ、というような立場が多いです。

おすすめのトラックはやはりタイトル曲"Light To Dark"に尽きます。僕はこれが大好きなんですよね。ちょっと寒くなっていくこれからの時期の夜中に、小さめの音量で聴くのがいいんです(笑)。こういうことを書くとまた『ブンさんは趣味がシブすぎ』とか言われそうだけど、もうエンドレスで聴いていたいくらい気持ちいいのよこれが。ループの上をギターソロが延々続くだけの曲なんですが、フレージングが絶妙なんすよ。平ウタの部分ではブルーノートを極限まで控えているのがポイントです。イントロや中間のソロなど、フリーな部分ではブルーノートの嵐になるのに、それ以外のパートは極端に少ないという対比。つまり、G-フラット音が出ると一気に雰囲気がブルースに偏るのですが、経過音や装飾音からもG-フラットを排斥してブルースに偏らないようにしているんですね。そのため全体としては泥臭くなりそうでならない絶妙なバランスになっていて、【オレがやりたいのはブルースじゃないんだ!R&Bサウンド上に展開するJazzなんだ!】という、強烈な主張を感じることができます。そしてサウンドはどこまでも静謐で、侘び寂すら感じられるんです。そう、熱い想いが秘められているグルーヴィ・サウンドなのに、どこかクールな雰囲気が漂う。これがこのアルバムの最大の魅力だと思います。前作も"Quiet Revolution"なんてタイトルだし、この人も基本的には熱い人なんでしょうけど、表面に感情を出すようなことをせず、想いをサウンドに託して表現しているんですね。うーん、いかにもイギリス人の気質というか、カッコイイですよね(笑)。

1999.10.24

 

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