銀幕を飾った数々の名曲

Le Cinema:阿川泰子

 

 タイトルのように、映画の主題歌や挿入歌を選りすぐったアルバム。全曲がアメリカ映画の曲なのだけれども、よくあるハリウッド映画の主題歌集とは選曲センスが全然違っていて、そこがとてもよい。とにかく粋なのである。CDに付いている解説が非常に充実しているので、曲の背景などはそちらに譲ってしまうが(苦笑)、ジャズの魅力・阿川の魅力をたっぷりと味わうことができる作品である。

 サウンド的にはとにかくアコースティックなのだが、それぞれの曲のアレンジが実に多彩で飽きさせない。また弦の入った曲が多く、全体的に甘くロマンティックな雰囲気があり、秋の夜にまったりと聴くには最適な1作とも言えよう。

 ということで、全10曲の中で印象的なものを紹介したい。

 まず"My fovarite things"。これは「サウンド・オブ・ミュージック」の挿入歌という説明不要もなほど有名な曲だが、最近はJR東日本のCMなどでもおなじみ。ここでは、奔放な弦のアレンジが秀逸で、とても気持ちがよい。中間部に入る秋山一将のギターソロは音色・フレーズともかなりPat Methenyで思わずニヤリとさせられるが、これも緊張感があって良い。
 "Up where we belong"は「愛と青春の旅立ち」からだが、コンテンポラリーなバラードとなっている。なごみ系のアレンジと思ってのほほんと聴いていると、サビの素晴らしいコーラスでびっくりする。
 次の"Do you know where you're going to ?"は某コーヒーのCMでも超有名な曲。Rhodes、ギター、ベースのトリオに絡むオーボエとチェロが絶妙である。その上で、ちょっと強気にコケティッシュに「ね、あなたちょっと、どこへ行く気なの?」みたいな感じに唄う阿川も凄い。ちゃんと最後に甘い言い回しもあって、これまたお見事な1曲。

 お約束なディズニー・ナンバーも用意されている。なんとメドレーで、「不思議の国のアリス」「シンデレラ」「白雪姫」から"Alice in wonderland"-"A dream is a wish your heart makes"-"Someday my prince will come"という、超強力乙女チックソングを3連発である。これがこのアルバムのハイライトになっていて、オーケストラアレンジもディズニーのパロディ風で、好きな人にはたまらないだろう。僕は真ん中の"A dream is a wish your heart makes"が大好き。そして最後も「いつか王子様」ですからね。まぁ、すてき。しかし阿川さん、なかなか来ないものですねぇ、王子サマって(爆)。

 "The glory if love"は"Beachs, forever friends"という僕の知らない映画の主題歌。オーケストラやジャズコンボ風の演奏をバックにした曲の多いこのアルバムで、この曲だけはピアノとボーカルだけのバラードになっている。おそらく一発録りだと思うが、阿川とピアノのタイム感の合い方が絶妙である。

 アルバムの最後を飾るのは"Modern Times"からの"Smile"である。言わずと知れたチャプリンの映画の名曲。作曲もチャプリン本人だったりする。僕はこの歌詞が大好きで、まあようするに「笑うかどには福きたる」なんだけど(笑)、この弦アレンジがとことんロマンティックで素敵なのだ。

 まとめると、お馴染みの曲、通好みの曲を、いろいろ取り上げ唄いこなす阿川のセンスと実力に脱帽、というアルバムになる。一連の阿川のアルバムの中でも特に親しみやすい部類だと思うので、オシャレ30/30での彼女しか知らなかった人などにもおすすめである。

1998.07.26

 

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