甘美で危険な音世界

Ark, Ray / L'Arc-en-Ciel

 

圧巻ですよこれは。ただただ圧巻。

もう、リスナーの首ねっこ捕まえて「どうだ!聴いてみろ!」と言わんばかりのすさまじいパワーがあります。発声法なんて考えてない下手なウタだし、ナルシスティックな歌詞もほめられたものではないんだけど、そういうのが問題にならないほど、狂おしくも魅力的なサウンドなのね。これだけ麻薬的快感を与えくれるんだから売れるのは当然だと思います。もちろん詞曲は完全にオリジナリティのある世界を確立してるし、サウンド的にも特にリズムパターンとベースがむちゃくちゃカッコイイですね。さすが岡野ハジメは元Pink。それにしてもアルバム全体にに狂おしいまでの情念が満ちていて、リスナーを曲の世界に引きずり込む悪魔的な引力がむちゃくちゃ強力。これが他のバンドにない彼らの魅力で、実は音楽にとって一番必要なものはこういうパワーだと思うのです。

そして4人が全員、作曲できるバンドというのも凄いと思いますが、それぞれかなり個性的なのが面白いです。

まず一番問題なのはドラムのyukihiroで、彼はオタク的なんですけど、サウンド感覚は天才ですね。打ち込みはやるわ、ギターを弾くわ、シンセは使うわ、弦アレンジはやるわ、とっても多芸だと思います。フランス語の詞なんかも彼自身が作ったのかな。だとしたら凄いですな。それに、好きなミュージシャンはデペッシュ・モードってアンタいったい何歳なのよ、みたいな(笑)。僕は彼が加入する以前のラルクには全然興味がなかったのですが、加入以降のラルクはドラムのパターンが非常に面白くて注目していたのです。きっとyukihiro自身のアイディアでああいうドラムになってるんでしょうね。普通の8ビートがあまり出てこないんです。

次に問題なのがtetsuで、彼は曲は歌謡曲というか、メロディがシンプルというか、ベーシストらしくないんですね。ベーシストだったらもう少しベースが主張できるような曲を作るものですが、全然主張しないわけ。そもそも彼の作るメロディ・ラインは、あまりの健全さゆえにhydeの歌詞・唄の世界とは乖離してるようにも思うわけです。"DIVE TO BLUE" なんかはそのメロディと歌詞とサウンドの浮遊感がうまく一致して成功しましたが。もっとも、彼のポップ・センスが無いと、このバンドのサウンドは非常に重いものになってしまうのも確かです。あと"Pieces"は例外中の例外で、これはおそらく死ぬ気で作った一世一代の名曲と思われます(笑)。

最も真っ当というかラルクらしい曲を作るのがkenですね。構成重視で耽美的なサウンドはとても魅力的。この人もギタリストっぽくない曲が多くて、キーボードで作曲してるかもしれません。起伏の大きいメロディはさぞやカラオケで唄いにくいでしょうが、hydeの声質と合っていることも確かです。ただちょっとフレーズの動機付けがワンパターンかなと思います(7thをきっかけとして展開するパターンとか)。同じような感じで、hydeもラルクらしい曲を作りますが、彼の方は構成よりもその場の勢いを生かしているような気がします。この二人はお互いに影響を受けているので似てくるのかなと思いますが、メロディ進行に似てる部分が多いです。

 

サウンド概観

ギターでビート感を演出し、ベースでグルーヴを強調している曲が中心になっています。特にベースのフレーズが見事で、めいっぱいコンプレッサーを通して中低域の充実したサウンドになっていて、とてもグルーヴィな演奏を聴くことができます。この辺りは岡野ハジメらしいサウンドです。対照的なのがドラムで、全体を通してかなり自由な立場になっています。というか、このバンドの場合は積極的にドラムがビートを引っ張る必要が無いんですよね。そのため、ヘヴィな曲でも抜けの良いサウンドですし、非常に手数が多くテクニカルなプレイが展開されます。というわけで、以下に印象に残る曲についてコメントします。

−ark−
死の灰
シングルでない曲はtetsuでもこんなにもヘヴィでカッコイイ。というか、この曲はギターのリフがすべてで、あとは勢いでいっちまえ!という感じだと思います。ディストーションギターと一緒にスチール弦のギターも鳴ってるのがミソです。タイトルや歌詞が不穏なんですけど、どうも"ray"の方は核戦争とか、そういうものを意識した曲が多いようでございます。が、あまり深読みするのはやめましょう。ラルクのメンバーというのは曲やアルバムの内容については何も語らない人たちで、いろいろなことを考えて曲を作っていることは間違いないのですが(そうでなければ"ray":閃光、"ark":箱船なんてタイトルを付けるわけがない)、ひとたび自分たちの手の離れたらあとはリスナーの感性に任せる、というスタンスでいるようです。←自作についてやたらと喋りたがるミュージシャンが多い中でこのスタンスは格好良すぎ。
It's the end
kenさんの曲としてはシンプルな部類に入ります。イントロでのギターのリフが非常に印象的で、これが何度もリフレインで出てくるあたりは相当に計算してるとは思いますが。4小節おきに違うサビのドラムパターンが面白いんですが、これはyukihiroさんのアイディアだそうです(p22, 8, 1999. Rhythm & Drums Magazine)。
HONEY
始まり方が象徴的なんですけど、これはhydeがギターをかき鳴らしながら作りました、という曲。なんというか非常に荒っぽい演奏とミックスなのですが、こういう雰囲気を狙ったと思います。あと凄いのはドラムね。前ノリで速いんだけど、もう思いきり叩きましたという素晴らしい演奏。最初にバンドが入る直前にベースとユニゾンになる2発のキメとか、何げに考え抜かれてます。あそこが「ダン!」という1発だけの決めだと、ベタなような気がするし。
Sell my Soul
かなり構成やアレンジを煮詰めたであろう1曲。というか、アレンジの主導権は岡野ハジメ氏(プロデューサ)にあったと思われます。そのためリズム隊が非常に複雑。あとボーカルのエフェクトが他の曲と全然違うので、ドキっとしますね(すぐ側で唄ってるような感じに仕上げている)。サビのメロディがベタな印象で、ちょっと惜しいです。
snow drop
歌謡曲、ってかんじー。僕はこういう、いかにもシングルヒット狙いな曲はあんまり好きじゃないんですけど、なんか歌詞が変じゃないですか。ひょっとしてこれは核の冬をイメージしてるんではないでしょうか。そうすると「あたたかい雪」ってのは、死の灰のメタファになるわけで(放射性物質は熱を出すのだ)、見事に1曲目とつながってしまうんです。それと、この曲で凄いのはやっぱりドラムで、JAPAN風のタム回しが超絶技巧的です。フィルやギターソロのバックになると一切タムが入らなかったりするのですが、そういうのは全部yukihiroのアイディアみたいです。最初は打ち込みかと思ったんですが、わざわざ打ち込み風に叩いてるってのもひねくれてて良いざます。ライヴビデオ見るとわかるんだけど、めちゃくちゃ淡々と叩いてますね(笑)。JAPAN風といえば、サビに入るストリングスなんかも、もろ中期JAPANというかロキシー風の音色です。
花葬
3枚同時リリースのシングルということもあって、相当に構成を重視して作られた感じです。kenとhydeの二人で相当に話し合ってるんじゃないかな。メロディの流れは大きいのですが、リズムは16分音符中心で細かく組み立てられていて、なかなか演奏困難な曲です。
浸食-lose control-
「花葬」以上に構成重視で耽美的。特にサビで変拍子的に8分の6拍子になるところと、そこからテープ速度が落ちてAメロに戻るあたりや終わり方は計算し尽くした美学すら感じられます。サビのリズムは6拍子なんだけど、メロディは4拍子単位で進むわけで、リズムに強くない人は完全に幻惑されてしまうでしょう。あと妙なのがイントロやAメロのバックに入るギターアルペジオの音列ですね。例によってエフェクトの嵐なんですけどフレーズのアプローチが特徴的で、開放弦を使って、単にコードをアルペジオで展開しただけでない音を入れてるのがポイントです。しかしこの曲を同期なしでライヴ演奏できるのは大したものだと思います。
trick
何がトリックかって、この曲自体がトリックなんですね。1フレーズしか弾いていないギターをProToolsで切り貼りしてこれだけの曲のリフとして構築してしまっているわけ。しかしこれ、日本人が作ったとは思えませんね。たっぷりとイギリス系ロック&スラッシュの洗礼を受けたyukihiroならではの曲なんでしょうが、ここまで格好良いと文句の付けようがありません。ボーカルの雰囲気もばっちりです。彼はとっととソロアルバムを作ったほうが良いと思います。すごい才能だよこれは。
いばらの涙
"ray"のハイライトとも言える曲。静かに始まってドカンと来るサビの迫力が凄いです。特にギターとドラムの演奏は白眉で、Aメロは延々続くギターアルペジオ(かなり難度が高い)とハイハット連打で見事なサウンドを作り上げています。そこからサビへいくわけですが、この橋渡しをする2小節のドラムブレイクが秀逸。ツーバスを生かしたフレーズになっていて、yukihiroでなければこのフレーズは出てこないでしょう。サビに入ってからも絶妙にツーバスを組み合わせたドラミングを聴かせてくれます。やっぱり彼が加入してよかったですね(笑)。後半のギターソロ以降は本当に圧巻。この麻薬的魅力が良いんです。
 
−ark−
forbidden lovers
究極の構成重視。ここまで来るともはやプログレの域でしょう。最初から最後まで、全く同じリズムでここまで起伏を作り上げることができる構成力は素晴らしいです。驚くのはやはりドラムで、マーチング・ビートなんだけど、この人はライヴでこれを叩けるのよね。ラヴェルのボレロを思い出してしまいました。ギターソロ以降でオーバーダブのドラムが入ってきますが、これもむちゃくちゃProToolsで編集されていて、ゲートがかかったみたいにブツブツ切れていきます(笑)。しかしこれもライヴで演奏しちゃうんだよね。
HEAVEN'S DRIVE
この曲もギターのリフがすべてで、あとは勢いでいっちまえ!という感じ。しかし実はベースとドラムが凄いんですな。ベースなんかもうブリブリなサウンド&プレイですよ、ブリブリ。tetsuさんて自分の曲だと大人しいのに、他人の曲になると突然自己主張するんだから(笑)。ドラムは非常に手数が多いのですが、16分の裏拍に入る捨て打ちの難易度が高く、勢いだけでは叩けない非常にテクニカルな演奏だと思います。この通りに演奏しようとしたら本気で難しいですね。フィルインの入り方も相当に計算されてるし、サビもシンプルなようでツーバス入りまくりのリズム食いまくりですね。たぶん楽譜を作ってから叩いてるんじゃないかなあ。
Driver's High
スピード感が命の曲。普通に8ビート叩けばいいのに、16分のベードラが入るので余計にスピード感が強調されます。シングルカットもされたし、ライヴで盛り上がるには良いと思いますが、内容はそれほど濃くないですね。というか、たまにはこういうポップな曲がないと、非常に重いアルバムになってしまうと思うわけで、バランス感覚というのは重要なんです。
Cradle
yukihiroさんの変な曲。ターンテーブルまで自分で使ってます。全体にエフェクトが凝っていて、オルガンなんかもディストーション通した上にレスリーで鳴らしてますね。
DIVE TO BLUE
tetsuさんの歌謡曲っぽい曲ですが、またドラムが16分で食いまくってます。Aメロでほとんどギターが入らないとか、サビでも4小節単位でドラムのフレーズが変わるとか、どういう神経でこういうアレンジになるのか大いなる謎(笑)。←おそらくサビでの対比を強調するためだと思うのですが。
Larva
やはりyukihiroさんの変な曲。今度はテクノです。サンプリングのパーカッションとか、音色に対するセンスが抜群。どうも次の曲が最初にあって、そのループにベードラ4つ打ちを乗せたのを基本にしたらしいですな。
Butterfly's Sleep
歌詞に登場する言葉が古いと思ったら、かなり前から作られていたようです。ちょっとスラブ系のメロディでとても情熱的。サビのアレンジが面白くて、いきなりタム主体のドラミングになったり、厚い弦が入ったりするわけですが、これは全部kenさんのアイディアで、最初から方向性が決まっていたそうです。しかしワシはこういう大仰なの大好きなんですよ(笑)。
真実と幻想と
ううーん、お耽美。ベードラをディストーションに通してますが、これはやはりkenさんのアイディアだそうで。そんなことまで最初から決めてるなんて、愛嬌ある可愛い外見に似合わず相当な完璧主義人間と見た(笑)。
What is love
8ビートと思いきや、ドラムだけ微妙にハネてるんですよね。Bメロになるとドラムだけ倍テンポ系になったりとか、大らかなメロディラインとの対比が面白いです。
Pieces
この曲はアルバムの中では浮いてる存在だと思うんですが、そうなるともうこの場所に納めるしかないです。歌謡曲路線にはかわりないのですが、ワシはこういう大仰なバラードに弱いんですよ。豪華な弦が全編に入ってるのもポイント高い。←どこまでも弦が好き(笑)。聴きどころは間奏で、弦が思いきりロマンティックにAメロのバリエーションを繰り広げた後に、強力なディストーションギターが吠えるわけですが、バンドの演奏と生弦が渾然一体となったミックスが大変素晴らしいです。圧巻はラストのサビに入るのを告げる弦の駆け上がり&下がりね。あれは本当に凄い。思わずスピーカーの前でひっくり返った(笑)。

1999.07.11/1999.08.16 update

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