あたしの人生、暗かった?

181920:安室奈美恵

 

15・16・17と、あたしの人生暗かった・・・

 タイトルを見た瞬間に思い出したのが「圭子の夢は夜ひらく@藤圭子」で、しばらくマイブームになっていたのだ(巻き込まれた同僚多数)。もちろん安室の18/19/20歳の3年間は暗いどころではなく、最も輝いた期間だったのだが。←完了形みたいな書き方をしてるが、今後、安室があの3年間以上に輝くのはまず無理だろうと予測している僕である。

 実は僕は安室が大好きなのだ。ミーハー的にも好きだし、音楽的にもけっこう好きだ。
 近年の小室哲哉の仕事の中では、最も成功したアーティストだとも思っている。

 沖縄のアクターズ・スクール出身の彼女であるが、下積み生活が長かったせいかボイストレーナーに矯正されたのか知らないが、リズム感が抜群であり声質も発声法も素直で良い。ご存じのように、アクターズ出身歌手の特徴は「子供っぽく地声を張り上げる発声法」である。SPEEDはもちろん、MAXやDA-PUMPまで全く同じ発声法であり、これが嫌いな人は非常に多いと思う。しかし、安室に限っては全く別の発声法をもつ歌手となり、そして商業的にも成功したのである。

 安室は東芝EMI時代はコギャルのアイドルとして、かなり時代遅れなユーロビートを唱わせられていたわけだが、まあそこそこヒットしていた。で、すったもんだのあげくavexに移籍して「Body Feels EXIT」から小室と仕事をするようになる。ここで小室の仕事の方法論について、推測を元に書くこととする。(推測とはいえ、いろんな情報筋から精度の高い情報を得ているので80%以上は当たっているはずだ)

小室哲哉のサウンドメイキング法:シングル篇(1990-)
タイアップものなどは別として、基本的にシングル用の曲はアーティストを限定せずに作りはじめる。最初はメロディや歌詞は考えず、サウンドのイメージ(アップテンポなもの、バラード、○○風、などなど)を重視して、リズムとコード進行だけでオケを作っていく。だいたいのサイズが決まり、曲としてまとまってきたら、同じようなサウンドでもう2曲くらいついでに録音しておく。いろんな曲を録音しながら、形のできあがってきたオケにメロディと歌詞を付けていく。このとき、メロや歌詞の雰囲気にあわせて上モノや生楽器を入れる。音色なんかも差し替えて、自分でコーラスやボーカルも入れてほぼ完成形まで作ってしまう。これで同じようなサウンドの曲が3曲くらいできる。
そしてここまできて初めてアーティストへの割り振りを行う。「このイメージだと安室だな」「この曲はケイコに向いてるからgrobeで出そう」「これは華原しかないね」みたいな感じだと思われる。最後に、メインのボーカルを差し替えて(コーラスは自分のものをそのまま残すのがお好きらしい)、ミックスしてできあがり。こうして見事にそっくりな曲が同時期に3曲もリリースされるわけだ。
実は小室はTM Network時代からこのような手法で数々のシングルを制作している。一般リスナーにもはっきりとした形としてわかるのは"Dive into your body "(TM Network)と"Running to horizon"(小室のソロ)の2曲からであろう。量産型といわれる彼も、いろいろ苦労しているのだ。

 ということで、たいへん前置きが長くなってしまったが、安室奈美恵@結婚前のシングル集「181920」である。

 まず曲順が、思いきり売れセン狙いであることに注目する。
 「Body Feels EXIT」からスタートする。レコード屋で試聴する人はほとんどここから聴くだろうが、いきなりこんなイケイケなナンバーがあったらもう買うしかないじゃないか(笑)。次に「TRY ME」が入っているのはEMIへの配慮であろう(爆)。3曲目はウタものとラップの融合という点でgrobeより遥かに巧くいっちゃった「Chase the Chance」。で、中間は適当に飛ばして、最後は小室自身もけっこう気に入ってる3曲が並んでる、という構成。
 ベストアルバムということでマスタリングもやりなおしたようである。しかしレベルを揃えたり、フェード・アウトのタイミングを変える程度であり、基本的なサウンドはシングル発売当時とほとんど変わらない。いかにも急こしらえの感があり、ジャケット写真なども、もう少し工夫できなかったのかなあと思う。

Body Feels EXIT
カラオケのCM曲だったので仕方ないといえば仕方ないが、ここまでカラオケを意識する必要があるか、と思うほどコテコテな曲。最初から最後まで同じ調子ってのがすごい(というか、めずらしい)。コード進行はお得意のものだし、オケの作りもとてもシンプルで、ようするに「お仕事」という感じ。ただし、全編に入るオーバーハイム系のシンセの刻みがなかなか格好良く、最後にそのシンセだけになる部分などは自分的にはめちゃくちゃ好き。その他のポイントとしてダンス系である事を意識したらしく、小室にしてはめずらしくつぶれたベードラの音色を使っている。
TRY ME
省略(評価の必要なし)。←この言われよう。
Chase the Chance
タイトルが意味不明。歌詞もかなり意味不明だが、先に書いたようにウタものとラップの融合という点でgrobeより遥かにうまくいってしまった。この曲をキッカケとして安室も大ブレイクする。「Body Feels EXIT」の続編的な雰囲気を持ちつつも、同時期にgrobeのアルバムを進行していたためにこういうサウンドになったと推測する。この曲もベースがドロドロした音色で、小室にしてはわりと珍しいチョイスである。
歌詞は小室と前田たかひろの共作になっているが、おそらく前半が前田で、ラップの「楽しまなきゃ生きてる意味がない」以降はほとんど小室と思われる。はっきり言って、前田の歌詞は日本語として格好悪すぎるので、早々に切って正解だったと思う。なお、この曲のラップの部分は出色のデキである。
太陽のSEASON
これも特に評価の必要はないが、原曲がけっこうヒットしていた中での日本語カバーということで、安室も注目されるようになった。スマッシュ・ヒットとなる。
You're my sunshine
サウンド的にはカッコ良いと思うが、メロディがうたっていないため、パンチに欠ける1曲となった。ちょっと構成を凝ってみました、というのはわかるが、あまりにも手抜きよこれ。
How to be a girl
前曲の翌年の夏に出したシングルである。やはりサウンド重視なイントロはとても格好良い。しかし日本語の歌詞になるAメロからとてもつまらなく聞こえてしまう。ベースの音色はこの時期の小室が好んで使っていたもので、世紀の超オバカ曲「楽しく楽しく優しくね」と同じである。しかし内容のなさは疑いようもなくなってきたため、この曲でワタシは見放しモードに突入した。
SWEET 19 BLUES
リズムの音色が好きになれない。それ以外はいいんだけど。隠し味のように入っている手弾きのRhodesがとてもよい。
Dreaming I was dreaming/Stop the music
評価の必要なし。
a walk in the park
サウンド的にgrobeの「FACE」と同時期に作られたことがわかる。そして始まり方、メロディへの展開の仕方が非常に上手い。特に、ぐしょぐしょなイントロからさーっと霧が晴れるようにAメロに入っていくスピード感はさすがである。無理矢理作った感のあるBメロと、無意味なサビがこの曲をつまらないものにしているのが惜しい。やはりサビのメロディは大切にしたいものである。
Don't wanna cry
「Chase the Chance」で大ブレイクした安室であったが、実はJanet JacsonなどのR&Bが好きだったということがあり、次のシングルとして、この微妙に跳ねたミディアム・テンポの曲を用意したらしい。小室が安室に提供した曲では最高傑作と思われる。というか、90年代の小室の作品の中でも名作の部類に入るだろう。この曲と似たような曲を他のアーティストには提供していないことからもわかるように、最初から安室を想定して彼女のために作られたのである。
まず抜群のリズム感で心地よいグルーヴを生み出しているボーカルが見事である。惜しいのはやはりリズムの音色で、もっと太くて重い音を使って欲しかった。ある程度セールスを意識して、極端にR&B寄りなサウンドになることを避けたためにこういうサウンドになったのであろう(ちなみにMadonnaが"Bedtime Stories"で同じようなことをかなり徹底的にやって、高い音楽的評価を得たものの一般には受け入れられずセールスを落としたという前例がある)。
さらに、日本では「若造どもはミディアム・テンポの曲では踊ってくれない=売れない」という法則があるため、この曲をリリースすることは相当なチャレンジであったのだ。そのこと自体は理解できるのだが、どうせなら徹底的にやってほしかった。しかし、あの「Chase the Chance」の次に出たシングルがこれでは、10代の子は困惑したことであろう。僕はこの曲でますます安室にハマったのだが。
CAN YOU CELEBRATE ?
歌詞が惜しい。いくら10代のファンが多いからって、歌詞のレヴェルまで落とす必要はないような気がするのだが。
サウンドは往年の小室サウンドで、音程がほとんど動かないAメロとメロディアスなサビの対比が印象的。ただし、このAメロのコードがクセモノで、Efm7→Dm7-13の繰り返しがものすごく強力なのだった。Dm7-13はFsus4/Dとも取れるんだけど、トップが4度−4度になって響きがオープンなため、ここからEfm7に戻ると7thが強調されて切ない感じも強まるのである。なお、小室はたまにマイナー7th-13thを出すのだが、使い方が難しいコードのため特別な曲にしか使わない。当然、どれも大曲・意欲曲なので要注意である。
その他、随所に挿入されるブリッジのGm7-Dm7/F-Em7-Dという進行も強力である。いかにも小室的コード進行ではあるが、この部分を聴いただけで「あ、これって"CAN YOU CELEBRATE ?"だよね」と言う人もいるのではないだろうか。

 なんだかとりとめもなく書いてしまったが、僕が単にミーハー的に安室が好きではないことはおわかりいただけると思うので、それでよしとしよう(笑)。

1998/7/1 

 

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