さようなら、京都支社






その日、私は椅子に深く腰掛けながら悩んでいた。

眉間に深いシワを寄せながら。

室井管理官(柳葉敏郎)もビックリだ。

デスクの上には3通の封筒がおいてあった。

この中身を僕は知っている。

それは葵ちゃんとすいこみ君への転勤辞令と、そしてもう一通は僕の辞職願だった。

イギリス「さて、どうしようか・・・」

数日前のことだった。

僕がカキフライを食べているときに、一本の電話があったのだ。

*****

プルルル、プルルル。

ディスプレイには「呉"エロガッパ"エイジ」と出ていた。

イギリス「はい、もしもし」

「ああ、ワタシだ。先週ベッドの上で一緒にイッたとき以来じゃないか、久しぶり」

イッてません。

ホモか?

イギリス「そのようなことはありませんが・・・(汗)」

「ところで今日は伝えたい用件がいくつかある。大事なことだ」

イギリス「まさか、『負けないこと』『投げ出さないこと』『信じ抜くこと』とかっていう大事マンブラザーズの曲じゃないですよね?」

「・・・・・。」

何、言葉に詰まってるんですか?

イギリス「先読みされるボケは命取りです」

「ああ、今後気をつける。本題に入ろうか。ついさっき、内部調査部から連絡があった。以前からキミたち京都支社を調査させていたんだが・・・」

いつからウチはそんなにデカい企業になったんだろう?

イギリス「はあ・・・」

「キミたち京都支社はルールをおかしているね?」

イギリス釣り竿なんて貸してません!

リールじゃない、ルールだ」

イギリスボートも貸してません!

オールでもない

イギリス「・・・お菓子?」

カールでもねぇんだ。言っておくが、羊毛でもない

イギリスチィッ・・・

呉社長の話の中身を要約すると、このようなものだった。

先日の全国支社合同ハイキングで国際事業部京都支社の全員がおやつ500円以内という規定を犯していたというのだ。

イギリスだってバナナは…

二人しかいないとはいえ、ウチの部下にだって生活はある。

こんな理由で辞められるか!

「言い訳はいい。社長のワシに向かって口答えなんてしてイイワケ?・・・プッ(笑)

辞める決心がつきました。

・・・と、このような事情があったのだ。

今日は、葵ちゃんとすいこみ君の二人に、異動を命じなければならない。

*****

イギリス「・・・というワケなんだ。」

僕は目の前にいる二人に向かって淡々と事情の説明をした。

すいこみ「そんな理由でこの支社から出て行けなんて、そんなの聞けないですよ」

「そうですヨ〜。支社長〜。…ところでなんで昼間なのにカーテン閉まってるんですか?暗いから開けますネ?」

といって窓際に行く葵ちゃん。

イギリス「いけない!カーテンは閉めておけ!狙撃されるから」

すいこみ(あんたゴルゴ13にでも狙われてんの?)

イギリス「スマン、キミたち…」

僕はゆっくりと窓際に近づき、そしてカッコよくカーテンを開けた。

その姿は西部警察のボス、木暮課長(石原裕次郎)が大門軍団を見送る仕草そのものだったハズだ。

「(これがしたかっただけのね…。)」

イギリス「いいか、確かにこの社会は世知辛い。ままならないことだって多い。けどな、この時計仕掛けの街は…、『ときめきロマンス120%』だ」

ワケわかりません。

葵とすいこみは呆然と立ち尽くしている。

イギリス「じゃあこれから新しい配属先を言うぞ。いいか、よ〜く、聞くんだ」

一呼吸おいて、

イギリス「葵ちゃんはアフリカのコンゴだ。今後はコンゴ…プッ(笑)」

「お約束ギャグは社規で禁止です」

イギリススマンモススマンモス・・・プッ(笑)」

「黙れ」

イギリス「まあ、とにかくコンゴ共和国へ行ってもらう。赤道直下の黒人ばかりの国だ。ここでの仕事は、日焼け止めと美白化粧品を売ることだ。」

「ハイ?アフリカ人相手に日焼け止めと美白ですか・・・?」

イギリス「そうだ。それの販売が軌道に乗るまでキミにはずっと向こうに行ってもらう。・・・で、次はすいこみ君。」

すいこみ「ハイ」

イギリス「キミは南極大陸だ。」

すいこみ「はあ、南極ですか。」

イギリス「キミにはそこで我が社の誇るクーラー『涼しみ』を売ってもらうことになった」

すいこみ「南極大陸でクーラーですか・・・。いったい誰が使うんです?」

イギリス「マーケットの開拓、開発こそが国際事業部の仕事だ」

「ところで支社長はこの京都支社がなくなったあとはどうするんですか?」

イギリス「ああ、僕か…。僕は・・・」

僕は悲しい表情を見せないように、軽く笑ったつもりだったが、もしかしたらひきつった微笑みになっていたかもしれない。

最後くらいは部下に悲しい思いはさせたくない。

笑顔で終わらせたいじゃないか。

一通の封筒をデスクの引き出しから取り出して、そしてデスクに置いた。

葵ちゃんとすいこみ君はその封筒を見つめ、そして驚き、最後に悲しい表情をした。

僕だって悲しいんだ。

イギリス「カッコつけるワケじゃないけど、僕だって寂しいんだ

「ハイ・・・、わかる気はしますが」

そして葵ちゃんとすいこみ君は暗く沈鬱な表情で部屋を出て行った。

残されたのは、差し込む夕陽と僕と、デスクの上の封筒だけだ。

ワオッ!!

机の上の封筒を見て僕は氷のように硬直した。

その宛名には「アダルトビデオ『たヌキそば一杯ください』プレゼント係」と書かれていた。

間違えていた。

一瞬にして酸素が薄くなる部屋。

妙に耳障りに聞こえるプリンタの音。

そして妙に口数が少なくなった部下二人。

残り少ない国際事業部京都支社の営業日も、やはりこの調子でのどかに過ぎ去っていくのであった。

さようなら、国際事業部。

いつかまた復活するその日まで。




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