〜業務日誌より〜 私・華小娘18歳は今、イギリス紳士さんの下でバイトをしてます! 毎日世間を飛び交うニュースの中から社会情勢を射抜く本質的なニュースを選び出し、そして記事にするのが仕事です。 新聞4紙、インターネット上のニュースサイト閲覧、もちろんNHKのニュース番組すべてに目を通し、何が一番現代を象徴するニュースであるのかを考えて記事にするのです。 とても忙しいし、ツライ仕事です。 時給は50円です。 でもがんばります。 では、以下、今日の業務報告です。 ***** 華: 「編集長!ニュースです!!」 編集長(イギリス紳士)は、デスクで真剣な顔で鼻にピーナッツを入れて飛ばしていた。 華: 「・・・。」 編集長: 「おお!いいところに来た!なあ、華ちゃん。私は今とてつもなくすごい新発見をしたのかもしれない。きっとこれはこれまでの科学をひっくり返すかもしれない発見だぞ」 華: 「ハイ?」 編集長: 「いいか、こうやって鼻にピーナッツを入れて飛ばすと、・・・フンッ!」 ピシ。 今ピーナッツがわたしに当たりましたが? 編集長: 「・・・落ちるんだよ。もしかしたらモノにはすべて引き合う力、すなわち引力があるのじゃないか?」 あんたもしかしておバカさんなのか? っていうか、鼻からピーナッツを当てられて殺意が生まれていた。 華: 「・・・残念ながらニュートンという人がすでに発見しています」 編集長: 「チィッ!先を越されたか。それはどこのどいつだ?いつの話だ?」 華: 「・・・。つい最近のことです」 まさか編集長の脳ミソが340年近く退化しているとは言えなかった。 華: 「ところで今日のニュースについてなんですが、よろしいですか?」 編集長: 「おお、毎日毎日素晴らしい!よし!!上の許可が出たら時給アップするようにしよう。」 やっと普通の、せめてマクドナルドくらいの時給にはなるのかしら? 華: 「ありがとうございます!」 編集長: 「日頃の活躍を評価して、そうだな、時給は思い切って100%アップだ!」 それでも時給100円だ。 華: 「はあ、そこはかとなくうれしいですが・・・」 編集長: 「財政のことは気にするな。私がカキフライ定食をカキフライ弁当に替えれば済むことだ。まあ上の許可が下り次第といったところだが」 華: 「はぁ・・・。ところでこの会社って編集長の他に従業員っていましたっけ?」 編集長はおもむろに机の中から指人形を2つ取り出すと、右手と左手にはめた。 編集長: 「どうですか?スーパー部長?昇給はOKですか?」 編集長(右手): 「ウム。イツモ華チャンハヨク仕事シテイル。時給アップダ!(2オクターブ上の声)」 編集長: 「グレート部長はどう思われますか?」 編集長(左手): 「ダ〜メ〜ダ〜!(1オクターブ下の声)」 編集長: 「すまん、グレート部長はダメだと言っている。次の機会まで待っててくれ」 殺していいですか? 華: 「はあ・・・。」 私はなんだか眩暈がしてきた。 華: 「ところで、今日のニュース、トップ記事はコレで行きたいと思います」
華: 「日本は1990年前半のバブル不況以来いまだにその深刻なダメージを引きずっています。特に昨今は中小企業の倒産も過去に類を見ないほどの深刻さで、政府政策の対応が必要な時期にきています。完全失業率も5.4%となっています。よく欧米の失業率との比較でまだまだ低いという楽観的な見方をしている人もいますが、これは違います。雇用の在り方の違いによるもので、実際日本の企業における『企業内失業』『企業内リストラ』というものを計算に入れれば恐らく同じがそれ以上の失業率になっているに違いありません。そんな中窃盗事件も多発しています。これは従来の奢侈目的の金銭的窃盗ではなく、生活苦による最終手段としての窃盗事件が増加しているのです。今日の事件はそんな社会情勢を背景としたニュースで、トップ記事に載せたいと思います」 編集長: 「ふ〜む。現金にメガネフレーム900本、手形3通か・・・」 華: 「メガネフェチの犯行でもないです」 編集長: 「チィッ!・・・じゃあ、この手形3通っていうのは、大関クラスの・・・」 華: 「相撲取りのサインじゃないです。商用手形です」 編集長: 「チィッ!しかしまあ、私は思うのだが・・・」 華: 「ハイ?」 編集長: 「もしもだよ?・・・ん〜、例えばこういうケースだったらどうする?」
編集長: 「これならむしろ感動のストーリーになってしまうじゃないか」 王様って誰? 華: 「その王様がメガネフレームを1000本集める理由がわかりませんが」 編集長: 「どっかからオモチャの缶詰とかもらえるのかも知れん」 もらえません。 華: 「まあとにかく今日のトップはこれ、ということで。それと最後にもう一ついいですか?」 編集長: 「なにかね?」 華: 「この部屋の掃除をお願いします」 部屋には編集長の鼻から飛ばされたピーナッツが散乱していた。 編集長: 「わかった・・・」 編集長は哀しそうに、今まさに飛ばそうとしていたピーナッツを鼻から取り出した。 仕事しろよ、てめぇ。 私は今日一日、少しだけ幸せだった。 編集長がヘコんでいたからだった。 |