支社長失踪!






3月5日。その日、僕はひとり静かに考えごとをしたくて、出勤するのをやめた。

いつもは僕が出勤するアミーゴ株式会社京都支社社長室。

しかし、支社長である僕が失踪したため、その日その部屋で稼動していたのは保安のためのセキュリティカメラだけであった。

今日は、その日一日誰もいないはずのその支社長室で起こった出来事をドキュメントでお送りしたい。

*****

午前中のこと。

Yamashy Mart のダイスケ君と合コンエンターテイナー(わからなくなってきました。)のすいこみ君がノックのあと、入ってきた。

今後の関西地区におけるナイトビジネスの展開について、3人で軽く相談するつもりだったのだ。

しかし、支社長室のデスクの上には一枚の置手紙だけ。

ダイスケ「そういえば支社長、このあいだもなんかつらいつらいって言ってたもんな〜。」

すいこみ「それで失踪か〜。それでも今日中に決定してハンコもらわないといけない懸案もあるんだしなんとかして探さないと。あれ、なんかデスクの上に手紙あるよ」


妹へ

私はこのままマス家の人間として地球で一生を終えるつもりはない。

父の仇であるザビ家を一掃し、父の意志を継いで人類に新しい可能性を示すため、私はサイド3に向かうつもりだ。

キャスバル


シャア?!

ダイスケ「・・・やっぱ支社長頭おかしーよ?」

すいこみ「とりあえずこの手紙は無視して、もっと行方の分かるようなものを探してみよう。ん? このアウトルックに一日の予定が書いてあるぞ。

朝6時起床か。なかなか早起きだな。さすが支社長、バリバリの仕事人間とみた。そして7時まで・・・ラジオ体操? 健康的といえば健康的か。朝食のあと出勤して新聞に目を通して午前の会議ね。会議のあと・・・『G・二時間』って? まあいいや。で昼食。ランチはカキフライ定食かカキ卵丼か生カキ? カキマニア?」

すいこみ「昼食のあとまた『G・二時間』ってあるけど、なんだろう? そのあと・・・『ヒメにTEL1時間』、『葵ちゃんにTEL1時間』ってなに? フタマタ?

ダイスケ「それだけじゃないぞ、小さいフォントでおまけのように『呉社長とTEL3分』だ。・・・そのあとの予定を見てみろ」

すいこみ「『スーパーカップ1.5』?」

ダイスケ「カップラーメンの待ち時間が3分ってことだよ!」

すいこみ呉社長はヒマつぶし?

ダイスケ「で、そのカップラーメンのあと、また『G・二時間』だ。そのあとはもう出社してナイトビジネスのホストに出かけるらしい。」

すいこみ「『G』ってなんだろう? そこに失踪の鍵があるのかもしれない。葵ちゃんなら知ってるかな。電話して聞いてみようか」

プルルル、プルルル、プルルル・・・

・・・・・・

すいこみ「・・・というわけで、支社長の行方を探すのにこの『G』っていうのが関係あるのかもしれない。たとえばGINKO(銀行)とか、GINZA(銀座)とか、あるいはGAKKAI(学会)とか。葵ちゃん、知ってる?」

「・・・知ってるけど、関係ないと思う」

すいこみ「なんなの?」

「このあいだ、お昼過ぎに用事があって京都支社にいったんだけど、そのとき支社長室に入ったら、イギリスさん、ガンダムのビデオ見てた。

すいこみ「会社きて一日に4時間もガンダム?」

「たまにプラモデルの日とかあるけど。でもなんかトラウマがあるらしくってGPシリーズはダメだとか・・・?」

携帯を切ったすいこみ君とダイスケ君は肩を落とした。

もう手がかりはないのか。

ダイスケ「ん? 机の上のアレ、支社長の携帯じゃないか?」

すいこみ「ほんとだ。携帯にかけても通じないと思ったらやっぱり置き去りか。・・・もしかしたらその中に失踪先のヒントがあるかも。まずはリダイヤル履歴から見てみよう。最後に発信したのは昨日の夜か。

葵、ヒメ、葵、ヒメ、葵、ヒメ、葵、ヒメ、葵、ヒメ、葵、ヒメ、葵、ヒメ、葵、ヒメ、・・・」

ダイスケめっちゃフタマタやん!

すいこみ「・・・ヒメ、葵、ヒメ、・・・アムロ?」

最後の『アムロ』って誰?

ダイスケ「支社長の友好関係が知りたくなってきた」

すいこみ「でもいずれにしても、行方不明は変わらない。・・・呉社長に電話してみるか?」

プルルル、プルルル、プルルル、・・・

「タワシだ」

相変わらず悪の親玉のような図太い声。

ダイスケ「あ、社長。ご無沙汰しております。ナイトビジネスグループのダイスケです」

「ああ、ダイスケ君か。先週一緒にカバヤの工場見学に行ったとき以来じゃないか」

ダイスケ「行っておりませんが・・・(汗)。ところでウチの支社長が行方不明で仕事が進まないんですが、なにかご存知ではないですか?」

「・・・ハッハッハ。イギリス君の行った先か? ヒントは『G』だ。それではさらばだ。・・・ツーツーツー」

ダイスケ「切れた・・・。また『G』か。」

すいこみ「『G』・・・。ん? もしかしてアレか? アレじゃないのか?」

急に何かひらめいた様子のすいこみ君。

ダイスケ君に耳打ちしたあと、二人は駆け足で部屋をあとにする。

ここまでがセキュリティカメラの捕らえた映像だった。

*****

セキュリティカメラから二人が消えた、その2時間くらいあと。

ダイスケ「あ、支社長! 見つけた!!」

多くの人でごったがえすその会場で僕を見つけたのは相当運がよかったか、あるいは相当歩き回ったかのどちらかだ。

すいこみ「もう、まったく、支社長、困りますよ、ほんとに。どれだけの人が迷惑したと思ってるんですか? もうちょっと自覚っていうものを持ってください。」

ダイスケ「いいですか? あなたはアミーゴ株式会社の京都支社長なんですよ?」

詰め寄る二人に僕は何もいいかえすことができず、ただ、下を向くだけであった。

しかし、僕にだって言いたいことは山盛りあるのだ。

これまで僕は走りつづけてきた。だからたまには息抜きが必要なんだよ。戦士だって休息がなければいつまでも戦い続けるわけにはいかないんだ。

アムロだって7年間休息していた。

シャアだってアクシズに身をひそめていた。

ブライトはずっと連邦にいたけどさ。

すいこみ「まったく、どこに消えたのかと思いきや・・・」

ダイスケ君とすいこみ君は僕の荷物に貼られた包装紙をマジマジと見つめた。

『高島屋四条店・春のガンダムフェア』

5つのプラモデルを重いと感じた晩冬のことであった。

春はもうすぐ、なのか?





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