それはある午後の昼下がりのこと。 僕が日々の雑務に追われて自分のデスクで忙殺されていると、ドアをノックする音が聞こえた。 イギリス「はいりたまえ」 ちょっと曇った顔をして入ってきたのは、京都でコンビニを経営するYamashy Martのダイスケ君であった。 イギリス「ん? 浮かない顔してどうした? 年上の彼女に『毛』でも剃られたか? それともam/pmのあたりカードをなくしたのか? いやいやその顔の曇り方からすれば、もしや完成間近のガンダムのプラモデルを落として壊したか?」 ダイスケ「支社長、24歳にもなってガンダムネタは寒いです。違います、今日伺ったのはそんなチンケなことではありません」 イギリス「一週間かけて作ったZガンダムの腰パーツを折ってウェイブライダーに変形できなくなった悲しみが貴様に分かるか!」(怒) ダイスケ「・・・大人になりましょうよ」 僕は少し大人げなかったのかもしれない。 襟をただし、来客用のソファに対面で座る。 イギリス「で、用件は何かね?」 ダイスケ「単刀直入に申し上げます。最近、支社長は我々よりもあとに入ってきた『葵病院恋愛科』の葵ちゃんをやたら肩入れしていませんか? メンバー紹介だって、僕と、同期のすいこみ君はたった数行の紹介で終わっているにもかかわらず、葵ちゃんの紹介はまるまる1ページを割いているではないですか! おかげで僕とすいこみ君のところは日々淡々とお客さんを増やしているというのに、葵ちゃんのところは数日でこれまでの客数を倍増させています。 あきらかに男女差別です!あなたも呉社長と同じなのですか??? そういえば今、支社長には彼女いなかったですよね? もしかして“あわよくば自分の彼女に・・・”とかって狙ってたりしませんか?」 イギリス「・・・そ、そ、そ、それは、い、いや・・・」(動揺) ダイスケ「セリフを噛むな!」 イギリス「・・・はい」 ダイスケ「声が小さい」 イギリス「・・・はい」 ダイスケ「それに、支社長には『ヒメ』というあこがれの女性がいるのではないのですか? ついこのあいだも社長とワラビさんと熾烈な争奪戦を繰り広げていたではないですか? これってプラトニックなフタマタですよね? 『恋愛は格闘技だ!』で“女のコにはやさしく”とか言っておきながらそれですか? この裏外道野郎!!」 イギリス「はうッ・・・」(涙目) しかしキミだってインターネットで彼女を見つけたではないか? という反論は、般若のようなオーラを発しているダイスケ君にはとうてい言えなかった。 ダイスケ君が怒りの形相もあらわにドアを叩きつけて閉めて出ていった後に残ったのは、放心状態の僕だけだった。 僕は10万HITのあと、すこし浮かれて自分自身を見失っていたのかもしれない。 僕にはすこし、自分自身を見直す時間が必要なのかもしれない。 僕はそんなことを呆然と思いながら、窓の外にちらつく雪を眺めていた。 ***** この日の僕の不幸はそれだけではなかった。 その日は土曜日だったのだ。 ダメ出し電話を恐怖とともに待っていなくてはならない週末の夜。 プルルルル、プルルルル・・・ ナンバーディスプレイに現れた電話の相手には、 「呉“チワワ”エイジ社長」 と表示されていた。なんつーミドルネームだ。 イギリス「・・・はい。イギリス紳士です」 呉「ああ、久しぶり。先週一緒にぶどう狩りに行って以来じゃないか」 行ってません。 イギリス「わたくしめは行っておりませんが・・・」 呉「ところでな、森辰之進よ、」 だから、それ誰? イギリス「なんでしょうか?」 呉「あ、ん〜とな、その、なんだ、つまりだな」 イギリス「はい、なんでしょう?」 呉「このあいだウチに遊びにきてくれた辰ちゃんところの葵病院恋愛科。かわいいね〜。 葵ちゃんの携帯の番号とか知ってる?」 同類であった。 アミーゴ株式会社全体を震撼させるような大波乱の幕開けなのかもしれない。 |