狂気のアミーゴ株式会社新年会より数ヶ月のちのこと。 僕は会社自室のデスクの前で、山積みになった書類に目を通していた。 どうやら今夜は徹夜になりそうな雰囲気だ。 プルルル、プルルル、プルルル・・・ ん? 電話か? ガチャ。 呉「ワタシだ」 相変わらずドスのきいた声だ。まるでアニメに出てくる悪の親玉といった感じだ。 だから社長の電話をとるときはいつも恐縮して、空いている手は自然とヒザの上に乗ってしまう。 イギリス「社長、ご機嫌うるわしく。」 呉「久しぶりだね。先週末にいっしょに香川に『満濃池』を見に行った以来じゃないか。」 イギリス「わたくしめは行っておりませんが・・・(汗)」 満濃池。 降水量の少ない香川において、かつて高名な坊さんが作ったとされる巨大な人工の貯水池。 なにしに行ったんだろう? 呉「ところでな、森くん」 イギリス「はい?」 だから森って誰やねん? 呉「宇多田ヒカルってちょっと松本明子入ってると思わない」 僕は現在、この会社の仕事のほかに、いろいろと仕事を掛け持っている。ホスト、そしてバーテン。そして将来キャリアアップを図るために、経済と法律の勉強もしている。 たしかに今はちょっとツライ時期かもしれない。 それでもとりあえずはできるところまでがんばってみようと思っている。 なにごとも挑戦するまえから投げ出していたんでは成就しようもないし、やはり一度はそういった過酷に忙しくても対応していこうと努力することは大切だと思うのだ。 事実、最近の睡眠時間は平均で5時間前後だし、体重も少し落ちたような気もする。 それでも、この会社ではやりたいこともたくさんあるし、ぎりぎりの少ない時間を使ってお客さんに喜んでもらおうと思っているのだ。 僕は、そんな忙しいけど充実した生活を送っている。 宇多田ヒカルと松本明子なんてどうでもいいことで電話してきたんか? イギリス「・・・はぁ。」 呉「『金澤あかね』が脱いだって知ってた?」 あの〜、切ってもいいですか? 電話の『切』ボタンを押すまえに、あ、そうだ、報告しなきゃいけないことがあったんだ、と思い出した。 イギリス「あ、社長、ところでですね、あの新年会のときに発案されたナイトビジネスグループ。発足したんですよ。」 呉「宮沢リエが脱いだときほどのインパクトはなかったけどね」 他人の話をちゃんと聞きなさい。 僕はそれから、新規にウチの子会社になったところを紹介した。
イギリス「あ、でもですね、じつは一番手には海外出張中なんですが決定してるのもいるんですよ。それからあと一人、やはりコイツは夜の商売には欠かせないだろう、というのが予定されてます。ハイ。」 呉「海外出張中? どこにいっとるんだ、そいつは?」 イギリス「シエラレオネに行ってるとか行ってないとか」 呉「どこって?」 イギリス「だからシエラレオネ」 呉「それってアメリカ?」 社長のなかでは海外=アメリカという図式になっているのだろうか? 呉「まあいいや。で、今後の予定のなかにカワイイ女のコっていないの? そのときは姫路まで出張させること」 呉さん、あんた、スキものだよ! 僕は右手甲の『根性焼き』を眺めながら、涙を流している自分に気がついた。 この会社、もうヤバイかもしれない。 |