ナイトビジネス京都会議




まだ5月だというのに、照りつける日差しは真夏のそれと同様かそれを上回るほどに強い。

この分だと今年の7〜8月はどうなってしまうんだろうか。

しかしこんな天候でも司法試験の短答式試験を突破した人は筆記試験に向けて猛勉強をしているはずだし、それこそ試験当日だってこれ以上の暑さかもしれない。

来年の1回目の試験に向けて僕も今、刑法各論の勉強をしているところだ。

つい最近の土曜の夜のこと。

僕の携帯電話が鳴った。

「31歳の呉エイジ」

液晶画面にはそう記されていた。

イギリス「はい、イギリス紳士です。」

「ワタシだ」

最近更新状況が芳しくない僕としては、うしろめたいことこの上ない。

きっとお叱りの内容なのだろう。

そういえば、心なしか声にもドスが効いている。

「やあ、久しぶりだね。先週一緒にカバディの国際選手権inカルカッタに行った以来じゃないか」

行ってません。

っていうかインドの国技なんて誰も知らないし。しかも国際選手権なんてないし。

カバディ、カバディ、カバディ、カバディ・・・、って叫び続けたいんか?

イギリス「私は行っておりませんが・・・(汗)」

「ところで、だ。なあ、イギリス君。ワタシは先日で31歳になったのだが・・・、誕生日プレゼントにCPUカード買うて!!」

お叱りの電話かと思ったのだが、どうやら違ったようだ。

しかし、別の汗をかかねばならない結果となった。

数秒のあいだ、僕は沈黙し、そして苦渋の選択を強いられた。

その結果が次のセリフである。

イギリス「フフフ、社長。そんなものよりももっといいプレゼントがありますよ」

僕はうしろめたい思いにさいなまれながら、

イギリス「葵ちゃんの携帯番号でどうです?」

葵ちゃん、ごめん。

保身のために部下を売った上司を許してくれ!

僕が教えた数字の羅列を独り言のように確認した呉社長は満足そうだった。

イギリス「ところで社長、このあいだの品川会議、僕出席できなかったじゃないですか。代わりにナイトビジネスの代表として葵ちゃんが行きましたけど。

その報告も兼ねてこのあいだ京都でナイトビジネスの会議をしたんです」

「そうか。で? どのようになったのだ?」

そこまで話したあと、僕の口は極端に重くなった。

イギリス「・・・ええ、ちょっと説明申し上げにくいのですが、、、」

*****

5月の初旬。

ホテル稼業に転業したダイスケ君。ドラえもん業に精を出すすいこみ君。そして新宿のキャバクラからは葵ちゃんがやってきた。

僕は思いもよらなかったのだが、親友であるワラビ氏の部下であるごろう君もやってきた。

僕はこの会議で非常に肩身の狭い思いをすることになったのだ。

中間管理職というのはこのような辛さなのだと思う。

お酒の入った会議では、皆が饒舌になることは仕方のないことだ。

ダイスケ「思うんですが、ピーのところのコンテンツって全然面白くないですよね」

すいこみ「うん、それは前から僕も思ってた。ピーって面白くないのに自分で面白いって浮かれてるから困るよね(笑)」

(笑)じゃない! それ、全然笑えないよ。

キミら怖すぎだ。バイオハザードだってここまで怖くなかった!!

「でもさあ、ピーピーってあまりにも下らなすぎてたま〜に行ったりしちゃうけどね(笑)」

だから(笑)じゃないだろ!?

君らの毒舌はもう書けないよ。

僕のウサギのようにかよわい精神はもう破壊される寸前で、逃げ出したい気分だった。

イギリス「あ、あの、そんなに強く言っちゃダメなんじゃないかな・・・」

その発言からである。

ダイスケ「そういう支社長こそ最近全然怠けちゃってダメじゃないですか」

すいこみ「もしかして隠れてこそこそヒメとか葵ちゃんとかとデートしてるんじゃないですか?」

「そうそう、あたしはともかくとしてもヒメの番号がリダイヤルに残ってたりしますもんね?」

僕はそのとき貝のように口を閉ざし、自分の精神世界に逃避していた。

そしてそれからしばらくのあいだのことはよく覚えていないのだ。

ただ、ダイスケ君がタバコを吸っていたことだけは記憶の断片に残っている。

*****

「ごくろうだったな」

呉さんのやさしい言葉が僕の枯れた心に水を与えるようだった。

イギリス「・・・ハイ」

「ところでそのとき、えっと、ワラビ君の部下のミルキーの、、、えっとサブロー君?

文字数あってないし。それとも太平シローと組んで漫才でもやれってのか?

そりゃ確かに漫才顔してるけどさ。

イギリス「ごろうです、ご・ろ・う」

シロー?」

それともなにか? 栗田ゆう子と結婚して海原雄山と対決しろってのか?

そりゃ確かに貧乏くさいけどさ。

イギリス「ごろうですよ、ご・ろ・う」

ロクロウ?」

もういいし

しっかり飛ばしてるし。それ、絶対ワザと飛ばしてる。

イギリス「そうです、ロクロウ君。で、彼が何か?」

彼、五男なのかな?

イギリス「知りません」

六郎とかって言っておきながら五男ってどないやねん。

その電話を切ってからもうすでに数週間経っているのだが、いまだに呉社長からの電話はない。

もしかして僕はクビになったのだろうか。





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