天気のよい春の一日。 きっと布団でも干したらその晩はぐっすり眠れそうな、そんな天気のよい春の一日。 ぽかぽか、ぽかぽかとしていっそピクニックにでも出かけたくなるようなそんな天気のよい春の一日。 新緑美しい京都では、しかし、少し雰囲気が異なっていた。 ちょうどお昼休みが始まろうかとしていた時分に、デスクの上の電話が鳴った。 プルルル、プルルル、・・・ イギリス「ハイ、イギリス紳士ですが」 僕は少ししまった、という顔をしてしまったかもしれない。 受話器を取ったあとで、ナンバーディスプレイを確認したのだ。 『カナリヤ野郎・呉エイジ』と表示されていた。 イギリス「これはこれは社長、このあいだの業績100万、おめでとうございます」 呉「あ、こりゃどうも。久しぶりだね。先々週、一緒に『家具の大正堂』に買い物にいった時以来じゃないか」 行ってねっつの。 それともなにか? 一緒に暮らすのか? え? イギリス「私は行っておりませんが(汗)」 呉「ところで話は変わるんだが、キミんところの、えっと誰だっけ? 吸い出し君?」 イギリス「すいこみ君です」 吸い出してどうすんねん、吸い出して。 呉「え? よく聞こえない。スリコミ君?」 イギリス「す・い・こ・みです」 擦り込んでどうすんねん、擦り込んで。 呉「まあ、なんでもいいや、で、そのスリコギ君なんだが、・・・」 もう、いいや・・・。 しかもちょっと遠くなってるし。 イギリス「彼がなにか・・・?」 呉「最近、1行日記が多くなってきてる気がしないか?」 そういえば、彼も忙しいらしく、最近の業務日誌に残される記録は1行モノが多くなってきている気がする。 日記そのものをさぼってたりする僕には何もいう権利はないが。 イギリス「そうですねえ」 呉「ちょっとな、たしなめてくれないか?」 イギリス「はあ」 呉「南米に赤い花をつける1メートルくらいの木があるんだ。 その木の実は甘くてな、現地の人はその木の実をすりつぶしてお菓子を作るらしい。 日本でいうところのキャンディーみたいなもんだ。 で、その木の実の名前がタシっていってそのキャンディーも現地の人々にはタシって呼ばれてるらしい。 そのタシっていうお菓子をナメるのとはワケが違うぞ?」 あんた、何言ってんだ? イギリス「はあ」 呉「それからな、森辰之介よ」 だからそれ、誰? っていうかちょっと名前変わってるし。 イギリス「なんでしょうか?」 呉「キミんところのダイスケ君な、あれ、多分ワシのいとこのシゲゾウの友達ではないかと思うんだが、どう思う?」 オレはシゲゾウ君知らないし。 イギリス「はぁ、ちょっと違うと思いますが」 呉「イヤ、ワシは絶対にそう思う」 イギリス「え? ダイスケ君と会ったことありましたっけ? それとも業務日誌か何かで?」 呉「会ったことも読んだこともないッ!」 イギリス「じゃあ、根拠は・・・?」 呉「そんなものは、ないッ!」 僕は少しのあいだ、長いため息をついてしまったのだが、社長には聞こえてしまっただろうか。 イギリス「あの〜、用件はもうそれだけでしょうか?」 呉「あ、あとな、今度葵ちゃんが神戸に来るってほんと? なあなあ、携帯の電話番号知ってるんだろ? 教えてよ」 イギリス「い、いや、それはちょ、ちょっと・・・」 呉「クビにするぞ」 イギリス「それ、職権濫用じゃ・・・」 呉「カプチーノでドライブしたいのだ。」 イギリス「ヨ、ヨメさんに言っちゃうぞ・・・」 呉「そ、それはアカン」 …フェードアウト |