こちら第3報道局!







僕はコーヒーを片手に、山積みされた新聞・雑誌を格闘していた。

パソコンのディスプレイには画面一杯に文字が並んでいる。

すべて僕が打ち込んだモノだ。

株式会社アミーゴ京都支社がリストラの憂き目にあって解散したあと、僕はしばらく次の事業について思案を重ねていた。

その結果、従来から抱いていたある願望を果たすことに決定した。

それが今回立ち上げた会社の内容だ。

混沌とした世の中に起きるあらゆる出来事・事件の本質に迫った報道をインターネットを通じて世に伝え、21世紀の始まりにふさわしい情報チャンネルとして活躍していきたい、という願望。

21世紀の最初の年、現在の世の中は非常に混沌としていて何が起こるかわかったものではない。

確かにその状況を背景として日常さまざまなメディアで情報が氾濫している。

その中から常にモノゴトの本質を捉えた必要な情報というのを選別していくことはむしろムダとも思えるくらい根気のいる作業だ。

僕は考えた。

今の世の中に必要なのは、モノゴトの本質を正しく捉えた情報であって、脚色された、もしくは装飾された情報は有害なのではないか。

今回の第3報道局の設立趣旨はまさにそこにあった。

そして設立初日目。

*****

コンコン。

広いオフィスには僕しかいない。

ドアをノックしているのはきっと今日付けで採用になったAちゃんだろう。

以前京都支社の解散時にこういうメールをもらったのだ。

「京都支社の解散は非常に残念です。以前からそちらの業務ぶりには感動していて、今後の活躍も非常に期待していました。これからイギリス紳士さまはどうなされるのでしょう? もし心機一転別会社を立ち上げる際には是非一声お掛けください。微力ながら協力できれば、と思います。美人女子大生より

0.5秒後には返事を出していた。

そして、めでたく採用ということになったのだ。

当面の彼女の仕事は世界情勢からご近所のニュースまであらゆるニュースの中から必要だと思うものをピックアップすることになろう。

*****


イギリス: 「・・・ということで今日から忙しくなると思うがよろしく頼む。ちなみに昨今の男女同権の流れからいって、ウチの会社では男女差別は一切しないから覚悟しておくこと。女性だからといって特別悪い待遇もしないし、特別イイ扱いもしない。あくまで一社員として扱う。今はキミと私の2人しかいないから、トイレも2人で一つだ。

A: 「それは軽くセクハラです」

イギリス: 「・・・まあとにかく、仕事に励んでくれたまえ」

業務説明をしたあと彼女を資料室に案内すると、携帯電話が鳴る音が聞こえた。

ディスプレイを見ると、「呉エイジ」と出ていた。

イギリス: 「はい、もしもし」

呉: 「ミッニモッニ、テレフォンだリンリンリン♪

プチ。

20世紀前半は戦争の歴史だった。

そして20世紀後半は後世には経済の好況と不景気で象徴されることとなろう。

21世紀はどういう表現を受ける歴史になるのか、それはわからない。

しかし一つ確実に言えるのはそれはまったく似てない、ということだ。

プルルル、プルルル

ディスプレイにはやはり「呉エイジ」。

イギリス: 「はい、もしもし」

呉: 「呉ちゃんでっす♪

世相を反映してか、2001年はますます暗い事件が多発している。

アメリカ陸軍・海兵隊の大規模なアフガン上陸作戦、銀行強盗、誘拐事件・・・。

あるいは紛糾する国会、進まない改革、一向に回復しない日本経済・・・。

これから近い将来の世の中にどんな明るい未来の材料があるのか。何もわからない。

ただ、一つだけ確実に言えるのは、なんかムカツク、ということだ。

低い地鳴りのような声でかわいらしさを表現されても、無理なことはやはり無理なのだ。

呉: 「久しぶりだね。で、そっちは相変わらずロマンティックが止まらないのか?」

イギリス: 「はあ・・・」

むしろ呉師匠は暴走が止まっていなかった。

呉: 「なんでも今回、新しい会社を立ち上げるんだって?」

イギリス: 「ええ、“こちら第3報道局!”っていう企画なんですけどね。ホラ、最近は情報の氾濫とかって言われてるじゃないですか。だから人に本当に必要な、そして本質的なニュースをネット配信していこうかな、と思いまして」

呉: 「ほう?」

イギリス: 「コンセプトは『闇の中』です」

呉: 「コンセントは鍋の中?

イギリス: 「違います、コンセントは鍋の中にはないです。っていうか違います、コンセプトは『闇の中』です。混沌とした世相の中で一体なにが必要で不必要な情報なのかを選り分けて、充分な解説を加えて本質的部分について情報発信することです」

呉: 「確かに“闇鍋”の中にコンセントとかあったらイヤだなあ」

そういう選り分けじゃないから。



イギリス: 「時代は今混沌としています。冷戦後にはそういうコンセプトが必要なんです」



呉: 「確かに冷蔵庫にはコンセントは必要だ。なかったら動かないし、野菜とか傷んじゃうよね。これがホントの野菜傷め。なんちゃって(笑)」

イギリス:「・・・」

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あんたの脳ミソはビー玉サイズか?

イギリス: 「・・・そうですね」

僕は静かに電話を切り、そして電源を切った。

外では夕暮れを知らせる鐘の音が鳴っていた。

人類の将来に向けた警鐘のように聞こえた。

これから、我々はどこに向かうのだろうか。






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