帰国してみると、自分のデスクの上には不在のあいだにかかってきた電話のメモや重ねられた書類でわずかに空いたスペースもすでになくなっていた。 この分だとメールボックスに何通のメールが来ているかもあらかたの想像はつく。 僕が自分のデスクで長期出張の片付けをしているとドアをノックする音が聞こえた。 僕「どうぞ」 ドアを抜けてきたのは慎重な面持ちをしたすいこみ君、ダイスケ君、そして葵ちゃんだった。 僕「どうした“黒い三連星”?」 すいこみ「僕たち黒くもないしジェットストリームアタックもかけられません!」 僕「わかったわかった。で、どうしたんだ、ガイア?」 ダイスケ「じゃあ僕はオルテガですかッ?!」 最近の若者はキレやすいという評価は果たして正しいのだろうか? 僕はG・アルマーニのブリーフケースを指差して言った。 僕「ところでこの中には出張で使った大切なものが入ってる。何だと思うね?」 すいこみ「・・・取引の、書類ですか?」 僕「違うね」 葵「ブリーフケースだから、・・・ブリーフ、ですか?」 僕「そのとおり!ハハハ」 すいこみ「あんたワラビさんとキャラかぶってるじゃないですか!」 僕「ハハハ、スマンモス、スマンモス」 ダイスケ「却下!!」 僕「ハハハハ、スマントラ島、スマントラ島」 ダイスケ「もっと却下!!」 僕「ハハハハハ、スマン漢全席、スマン漢全席」 ダイスケ「黙れ。」 すいこみ「ところで支社長、おみやげは? 僕はちゃんと買ってきましたよ」 ダイスケ「定番のマカダミアナッツだったけどね」 僕「おみやげは・・・ない」 すいこみ「違法改造のプレステとか買ってきてくれなかったんですかぁー?」 僕「だからそれは違法なんだってば」 葵「あたし、キーホルダーでもよかったのにぃ。マーライオンの」 僕「だからそれはシンガポールなんだよ」 葵「支社長、そんなことよりもちょっと話聞いてほしいんですぅー」 僕「何かな?」 ダイスケ「支社長、最近僕たちのことほったらかしじゃないですか。そのことについて文句言わせてくださいよ」 すいこみ「そうですよ、僕たちのことも日課業務もほったらかしにしてイギリスですか?タイですか?カンボジアですか?中国ですか? 旅行に行くなんてひどい!」 ダイスケ「すいこみ、あんたも同罪!」 葵「京都支社でマジメに働いてたのあたしとダイスケ君だけですよぉー」 僕「・・・ぅぅぅ」 ダイスケ「こっちは蒸し暑い日本でムシ入りのスナックとかパンとか食べてがんばってたのに、そっちはタイでカレーですか? いいですね?!」 僕「確かにタイでカレーは食べたが、鯛は入ってなかったぞッ!」 ダイスケ「訊いてねえよ」 僕「・・・ぅぅぅぅ」 すいこみ「僕はタイで鯛のカレー食べたぞッ!」 ダイスケ「だからおまえには訊いてない。っていうか、ハイ、君の場所は支社長の横」 こうして、吊るし上げを食らうのが僕とすいこみ君の二人になった。 ダイスケ「まったく・・・、業務日誌もつけずに海外なんて」 葵「でもそれをいうならダイスケ君もBBSのレスが数日おきになってるですぅー」 僕「なにっ!? それならダイスケ君、キミもこっちだ」 ダイスケ「葵ちゃんだって最近日記ばっかりで新しく開いたiroirとかyumeのコーナーだってまだ少ししかないじゃんか」 僕「じゃあ葵ちゃんもこっちだ」 こうして誰もいない空間を前にして僕ら4人は横一列に並んだ。 すいこみ「ところで、僕たちは誰に叱られたらいいんですかね?」 僕「・・・わからん」 葵「いつまでこうしてたらいいんですかぁー?」 僕「・・・わからん」 こうして無為な時間が刻々と過ぎ、その日の業務は終了した。 外では夕焼けの空を鳥が飛んでいた。 平和な一日だった。 |