鳥がさえずる初秋の京都。 サンマがうまい。 窓を開け放って心地よいそよ風を感じながら食べる秋のサンマ定食はなぜにこうも格別なのだろうか。 そして秋はすぐ冬へと変わり、カキのうまい季節になる。 その日の昼休み、僕が優雅にサンマをつまんでいるとデスクの上の電話が鳴った。 液晶のディスプレイには「"インドのツルッパゲ野郎"JD」と映しだされていた。 関東支社で女子社員研修室で悪の限りを尽くす彼はしかし、過去の恋人を思い出してはセンチメンタルな文章を書いたりもする哀しみの吟遊詩人でもあったりする。 珍しいな、と思いながら受話器を取る。 僕「ハイ。森辰之進です」 JD「ども。JDです。久しぶりだね。先週一緒にイカ釣り漁船に乗ったとき以来だね。ディア・アミーゴゥ!! シュビドゥバ!!」 釣ってねえ。 しかも最後のフレーズ、よくわかりません。 僕「はあ、僕は行ってませんが・・・」 JD「そうそう、そんなことより、今度会社で慰安旅行でも行こうかっていう話になってるんだけど、まだ行く先も決まってなくてさー。まあとにかくそんな話だけでもあるってことを教えておこうと思って。そんで、もしどっか行きたいところがあるんなら聞いておくよ。どっかある?」 僕「そうだなあ。特に僕は希望ないけど。強いて言えば、シドニーにオリンピック観に行きたいな〜」 JD「もう終わったし!」 僕「じゃあジオン公国に行ってギレン・ザビの握手会に参加するとか。"あえていおう、カスであると!"とか言いながら。合言葉は"ジークジオン"」 JD「ムリ!!」 僕「じゃあ僕は不参加ということで」 JD「現実的なおしゃべり、しようよ・・・。もう大人なんだしさ」 僕「まあ僕だけの意見だけ言うのもアレだし、ウチの"黒い三連星"にも聞いてみるよ」 JD「あいよ、それじゃ、また。ジークジオン!」 僕「ジークジオン」 ***** その日の午後、会議室にて。 正面に飾られている肖像画は社長の「呉"チワワ野郎"エイジ」だ。 僕「・・・そういうわけでキミたち“黒い三連星”の意見も聞きたいのだが。なんかリクエストある?」 ダイスケ「ジオン公国行きたいです。ギレン・ザビの握手会に参加して"あえていおう、カスであると!"とか叫んだり」 僕「現実的なおしゃべり、しようよ・・・。もう大人なんだしさ」 すいこみ「おれ、シドニー行って日本人選手応援したいっス!」 僕「もう終わったし!!」 葵「ところで支社長、予算はどれくらいなんですかぁ〜? やっぱりそれに合わせて行けるところも決まると思うんですぅ」 僕「そうだね。それはそのとおりだ。しかしなんせ、財政的に苦しい社員もいるわけだから、ギリギリのラインのところまで費用は下げることにしたそうだ。僕もそれには賛成した」 ダイスケ「飲尿プレイとかはアリですか?!」 すいこみ「で、一人いくらですか?」 僕「一人980円」 葵「ハイ?」 僕「一人1000円かからないということだ」 ダイスケ「放尿プレイとかはダメですか?」 すいこみ「でも980円じゃ新幹線はおろか青春18キップも買えませんが・・・」 葵「フカフカのベッドで寝たいですぅ〜。ホテルにも泊まれませんよ〜」 ダイスケ「そう、僕は変態です。これから変態野郎・ダイスケと呼んでください。いや、むしろそれが私の幸せ・・・」 すいこみ「移動はどうするんですか?」 僕「それなんだが、そうだな。すいこみ君、キミはほふく前進はできるか? 旅行先までキミ、ほふく前進決定」 すいこみ「ほふく前進ですか・・・?」 僕「そうだ。這って行くのだ。そのときライフルは頭上に掲げて絶対に土をつけないことだ」 葵「あ、あの、アタシは・・・?」 ダイスケ「ほ〜ら、脱いじゃうぞ〜」 僕「葵ちゃんは牛車だ。馬車はチト高いからな」 葵「牛車はイヤですぅ〜」 僕「つべこべ文句言うんじゃない! 今この時間にだって何人の人がアフリカで飢餓で苦しんでると思ってるんだ!! ・・・よし、わかった、牛車がイヤだというなら、葵ちゃん、キミはスキップだ」 葵「・・・スキップですか?」 僕「スキップでもイヤだというならスコップだ」 すいこみ「スコップでどうやって進むのですか?」 僕「進めないね・・・。スコップだけにストップ、とか(苦笑)。ハハハハハ」 すいこみ「黙れ。」 僕「まあ移動に関しては心配するな。僕がクルマを出すから」 ダイスケ「ほ〜ら、出しちゃうぞ〜」 葵「泊まるところはどうするんですかぁ〜」 僕「そこが問題なんだ。でもミルキー戦隊の長官が引越しして最近部屋が広くなったとかいう話だしな」 すいこみ「じゃあ慰安旅行の先はワラビさんの家ということですか?」 ダイスケ「はう、はう、はう〜ん♪」 葵「めっちゃ近いですぅ〜。それじゃ慰安旅行にならないですぅ〜」 僕「いいんだよ、軟弱トリオでマージャンして鍋食べることができれば」 すいこみ「それって支社長とJDさんとワラビさんだけが楽しむ旅行になっちゃうじゃないですかー?」 ダイスケ「もっと、もっと僕の恥ずかしいところ見て〜」 葵「そうですよ〜、もっと従業員のことを考えて旅行先を考えてくださいよ〜」 僕「・・・イヤ、しかし、今回の件はむしろ初めっから仕組まれていたというか・・・」 すいこみ「僕は行きませんからねー」 葵「でも、アタシは行っちゃおうかな〜♪」 ダイスケ「イク、イク、イクゥ〜」 僕「じゃあ、もう一回練り直し、ということで・・・」 そして会議室には夕陽が差し、その日の業務はすべて完了した。 会議室には床でもだえるハダカの変態野郎が一人残された。 ヒマな一日だった。 |