Q氏は今日付けで株式会社アミーゴの京都支社に転属することになった。 やる気にあふれる闊達とした青年だ。 女子社員の研修は神奈川の女子社員研修室で行なわれるのだが、男子社員は持ち回りで研修を行なうことになっているらしい。 ワケがわからない。 が、とにかく、Q氏は夢と希望を胸に京都支社の門をくぐった。 ***** 〜Q氏の業務日誌より〜 僕は今日から一週間、この京都支社で研修をお願いすることになったQです。 今日一日の業務を日誌につけるよう言われました。 まず午前。 僕が葵さんにいわれて書類をクローゼットルームに取りにいったときのこと。 支社長もそこにいて、熱心に書類か何かを捜していました。 Q「僕も手伝いましょうか?」 イギリス「ありがとう。でも、これは自分で見つけねばならんのだ。」 しばらくした後、社員の皆さん(っていっても僕含めて4人だけど)にお茶でも淹れようと思って給湯室に行ったときのこと。 支社長はポットのフタをあけてみたり、ヤカンのフタをあけたりしてやはり何かを探していた。 Q「あの〜、何を捜しているんですか?」 後ろを振り返った支社長は白い歯をキラリと輝かせ、なぜかダンディーだった。 イギリス「愛だよ」 多分ヤカンの中にはないと思います。 僕は自分のデスクに戻って葵さんからの指示に従って書類を作った。 支社長が入ってきた。 やはり何かを探しているようだった。 気になって仕方ないので、やむにやまれず訊くことにした。 Q「愛がまだ見つからないんですか?」 イギリス「いや、『愛』はもういいんだ。」 Q「あ、見つかったんですか。じゃあ今度は何を?」 支社長は僕に流し目を送り白い歯をキラリを輝かせて、 イギリス「夢だよ」 少なくともゴミ箱の中にもないと思いますが。 ・・・・・。 お昼休みになったときのこと。 僕は支社長室に呼ばれた。 イギリス「コレでも観ながら一緒にお昼でも食べようじゃないか」 支社長はカキフライ定食を食べていた。 そしてデスクに据えられたテレビデオには、ガンダムが映っていた。 Q「・・・。」 イギリス「ほら、キミもやるんだ、ジークジオン、ジークジオン」 母さん、僕、生き方間違えたよ。 右手を挙げた僕はきっと涙を流していたに違いない。 ・・・・・。 そして午後。 僕は得意先まわりにつきあうようにいわれ、支社長とクルマに乗った。 地図によれば片道15分くらいの距離だったし、大通り沿いに面したわかりやすい場所にあった。 挨拶も含めて一時間もあれば帰ってこれるハズだった。 …2時間後。 支社長と僕はどこかわからない草原にいた。 こんなとこ日本にあったっけ? Q「・・・やっぱり、迷子ですか?」 遠い目をして支社長は言った。遠い宇宙の果てを眺めているような視線だ。 イギリス「我々はいつも愛の迷い子さ」 このうすらバカ何言ってんだ? Q「そうじゃなくて…」 イギリス「我々がどこからきてどこへ向かうのか、神の摂理のみが知る、といったところか…」 Q「会社でてすぐのところを左に曲がったところから間違ったんじゃないですかねえ」 イギリス「しかしすべては『死海文書』に書かれているとおりだ」 エヴァ混ざってるし。 しかも死海文書に得意先の住所書いてないし。 そして夕方。 なんとか無事に得意先にまわり、会社に戻ってきたときにはもう誰もいなかった。 支社長室に書類を置きに入ったとき、デスクの上のディスプレイには何も映っていなかった。 イギリス「ああ、Q君ごくろうさん。もう帰ってもいいよ。…しっかし最近このPC不調でね、一昨日あたりから全然立ち上がってくれないんだ。仕事できないよ。やっぱりWINはダメだね」 Q「はあ…」 壁を見るとコンセントが抜けていた。 僕はそのまま何も言わず、自分のデスクに戻り、これを書いている。 最後に一言だけ書くとするなら、 精神の大切な部分を病んでいるのではないか? ***** 次の日、Q氏は辞職届を出し、その足で『しょうから商事』へと向かった。 そこには夢も希望もあるような気がしたからだった。 |