その日、僕の机の上には一通の辞令があった。 これを渡さないといけない。 正直いってあまり気が進むコトではなかった。 株式会社アミーゴの京都支社ができてからおよそ半年。 設立当初から働いてきたメンバーである。 彼の今後のことを考えれば、今度の辞令で長期の海外赴任に行くことは明らかにプラスだし、出世コースに乗ることも間違いなかった。 だが、しかし。 寂しいではないか。 何とかまるく収めながらも彼をここに引き止める方法はないのだろうか。 コン、コン。 支社長室の分厚いドアをノックする音が聞こえた。 とうとうこの時がきてしまった。沈鬱な面持ちで僕は言った。 僕「入りたまえ」 ダイスケ「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ〜ン♪」 僕「消えろ。クビだ」 ダイスケ「呼び出したのは支社長じゃないっすか。で、何なんですか?」 僕「今ので忘れてしまった。とりあえずキミはクビだ」 ダイスケ「ところで大分以前から海外赴任の希望届出してたんですが、まだ人事のほうは何にも言ってなかったですか?」 僕「ああ、そうだった。キミに辞令だ。長期の海外赴任だそうだ」 ダイスケ「やった〜。で、どこなんですか?」 僕「詳しくはこれに書いてある。ホラ、よく読みたまえ」 ダイスケ「・・・ハイ。えっと、、、ジンバブエってなんですか?」 僕「ジンバブエも知らないのか? ダメダメだなあ。串に刺して焼いた肉のことだよ」 ダイスケ「それはシシカバブ」 僕「じゃあ、戦いの中で戦いを忘れた青い巨星の父親か?」 ダイスケ「それはジンバラル。ジンバラルに海外赴任ってワケ分かりません!!しかも知名度低すぎ。」 僕「ん? ジンバブエ・・・? ああ、わかった。よくバルサン焚いたあとで床に転がってるよね」 ダイスケ「『死んだハエ』じゃないですかッ。語感が似てればいいのか?え?あんた」 僕「・・・『死んだハブ』?」 ダイスケ「黙れ。」 僕「まあそんなにカッカするな。冗談だ。正直、キミには行ってほしくない、というのが僕の気持ちなんだ」 ダイスケ「はあ、どうも恐縮です」 僕「掃除が大変だな・・・」 ダイスケ「引越しもしなくちゃいけませんね・・・」 僕「『死んだハエ』を掃除するにはやっぱり掃除機か?」 ダイスケ「それは忘れろ。」 僕「ちょっとまってくれ。葵ちゃんとすいこみ君も呼ぶから」 僕は内線電話をとって、彼らを呼んだ。 ***** 葵「ええ〜〜、ダイスケ君、遠くに行っちゃうんですかぁ〜」 すいこみ「まいったなあ。そしたら支社長にツッコミ入れられるのがいなくなっちゃうじゃないか」 僕「ところでダイスケ君は野菜をツッコんだりしたことはあるのかね_?」 ダイスケ「ねえよ」 葵「ジンバブエって遠いんでしょ〜? やっぱり『死んだハエ』とか多いんですかぁ〜」 僕「ハエじゃない!ハブだ!!」 ダイスケ「いねえんだよ」 すいこみ「ランバラルに会えたらサインもらってきてね」 ダイスケ「だからいねえんだよ、ランバラルは!」 僕「で、おみやげはやっぱりマカダミアンナッツか?」 葵「マーライオンのキーホルダーが欲しいですぅ〜」 ダイスケ「それはシンガポールなんだよ!」 すいこみ「ああ、行くのはシシカバブだっけ?」 ダイスケ「それは焼き肉だろ」 僕「まあまあ、ちょっとみんな静かに。落ち着け、落ち着いて話そう。・・・もちつきはしないのか?」 葵&すいこみ&ダイスケ「おまえが黙れ」 こうして、ダイスケ君の京都支社での最後の仕事は終わった。 きっと長い出張になることだろう。 彼が帰国したときに、この京都支社があるのかどうかさえもわからない。 しかし、彼はきっと見事な企業戦士、いや、聖水戦士となって帰国してくるに違いない。 僕たちはキミの帰りを待っているよ。 いつまでも、いつまでも・・・。 僕「ああ、すいこみ君。ちょっと待って。そこにあるダイスケ君の机、捨てちゃっていいから。葵ちゃん、ダイスケ君のロッカーの中に何か残ってたら全部処分して」 |