その年の11月、僕には彼女がいなかった。 京都で初めて迎えるクリスマス。 大学生活始まって最初のクリスマス。 一人暮らしを始めて最初のクリスマス。 精神科の医者に一度診てもらったほうがよいのではないか、 というくらいまで妄想が膨らむのは仕方のないことだった。 彼女と二人で・・・(以下自粛) しかし肝心の彼女がいなければそんな妄想も現実になることはない。 ふと見ると同じクラスの男友達にも彼女のいないヤツばかりだった。 ウチの大学はほとんど男子校なのである。 そこで、地元の共学校を卒業したヤツに頼んで合コンをセッティングしてもらったのである。 いわゆる駆け込み合コン。 熾烈な大学入試を超えて、大学生になったというのに、 やってることは高校のときとまったく同じだったのは可哀想なことなのだろうか。 ***** そして12月の初旬。 3対3でセットされたその合コンが行われる当日になった。 僕「で、向こうはカワイイのか?」 友人A「そういうふうに頼んでおいた。友達一人と高校生の妹連れてくるってさ」 僕「え?高校生?」 が、男の見る「カワイイ」と女の子のいう「カワイイ」の基準は似て非なるもの、 キャビアと鹿のフンくらいの違いがあるというのはもはや世間では常識であろう。 かといって僕にも相応の期待がなかったワケではない。 待ち合わせ場所に現れるであろう女子高生の内田有紀をどう攻め落とそうか、そればかり考えていた。 しかしそれは数分後、ものの見事に打ち崩された。 思えば何度こういう悲しい思いをしたのだろうか。 その点について僕にはまったく学習能力がなかった。 「ごめ〜ん、遅れちゃった。待った?」 そう声をかけてきた少し太めの女のコは・・・、 ダダ? 地球を侵略しに来たのですか? もう一人のコはどう見てもパワード・ダダだった。 ダダ姉妹。 まったく勝てそうな気がしなかった。 もしこの集まりがケンカや他星侵略のための会議などであれば僕も少しは納得がいったであろう。 が、この日はクリスマスをいかに充実させるかというキーポイントなのである。 僕のハラワタは煮え繰り返っていたが、しかしそれを表に出す勇気もなかった。 僕「あれ?二人なの?もう一人は?」 もう一人は30分くらい遅れてくるのだった。 ***** 現在の日本にも、旧ソ連KGBのエージェントやCIAのエージェントとなっている日本人が相当数いるという。 当然、外国人なら怪しまれるものの、血統的に日本人であればその情報収集活動が目立つことはない。 彼らは日本人であるにも関わらず、日本を裏切る行為をし、有事の際には日本を敵にするのだろう。 友人Bは地球を侵略しにきたパワード・ダダ星人(妹)と親密になることに成功したようだった。 彼は高校生というステイタスに魂を売ってしまったのだろうか。 この地球の裏切り者めがッ! ついでに言うと、僕と一緒にトイレに立ったとき、友人Bは僕にこう言った。 B「あの姉妹、二人ともなかなかカワイイよな。石田ゆり子と石田ひかりみたい」 何か特別悪い病気でも患っていらっしゃるのですか? テーブルで僕の隣には友人Aの高校時代の友人、ダダ星人(姉)がいた。 ダダ「○くんって一人暮らしなんでしょ?いいな〜」 僕「そう_?」 ダダ「ねえねえ、今度何か作りにいってあげようか?こう見えても料理は得意なんだ」 僕「へー・・・」 人間、やはり気の進まない会話というのには力が入らないものだ。 そのときの僕は丸出ダメオくらい無気力になっていた。 ダダ「クルマも持ってるんや?ええなあ。今度ドライブにでも行きたいな〜」 知ってるか?ガソリンって1リットルで100円もするんだぞ? そのときだった。 バーのドアを開けて入ってきたコがいた。 「遅れてごめんな〜」 内田有紀ではなかったが、そこにいたのは中山忍だった。 ママ、僕はこのコと結婚するよ! 僕「どうもはじめまして。・・・ホラ、ここ空いてるよ」 僕は右に寄ってベンチシートにスペースを空け、ダダ星人とのあいだに忍ちゃん(仮名)を入れようとした。 が。ダダ星人も右に寄り、忍ちゃんはダダ姉妹の間にはさまれるカタチになった。 殺されたいのか? もはや合コンの鉄則その1、交互に座るべし、に違反していた。 僕は身を乗り出すようにダダの向こう側に話し掛けるしかなかった。 僕「・・・へ〜、忍ちゃんって今一人暮らしなの?」 忍「でも料理とか洗濯とかしないんよね〜。ケーキとか・・・」 ダダ「ケーキとかお菓子はよく作るよね?ねえ○くん、今度あたしが作りにいってあげるよ。遠慮しないでよ〜」 遠慮はまったくしていない。 僕「でもそのうち慣れるよ。忍ちゃん、実家って大阪のどこ?」 ダダ「あたしはずっと京都やで」 聞いてねえ。 忍「南の・・・」 ダダ「関空の近くなんよね」 おまえは少し黙っとれ。 ***** 夜の11時半。電車がなくなるという彼女たちの意向を受け、その日はそれで解散することになった。 かくして戦いは終わったかのように見えた。 僕の戦果はといえば、忍ちゃんのポケベルの番号と、そしてダダ星人の家の電話番号だった。 前者は自ら進んでもらったのだが、後者は押し付けられたものである。 翌々日。 プルルル、プルルル、プルルル 電話に出てみると、それはダダ星人だった。 怒っている様子だった。 僕「ねえ、なんでウチの番号知ってるの?」 ダダ「忍から聞いたの。ねえ、一つ聞きたいことあるんだけど?」 僕「ハイ?」 ダダ「なんで昨日の夜電話くれなかったの?ずっと待ってたのに。そんで○くん、忍のポケベルにはメッセージ入れてたでしょ?ねえ、アタシと忍と一体どっちとるの?アタシはどうなるのよ、両天秤にかけてそんなに楽しいワケ? そういうフタマタみたいなことしてたらいつか痛い目にあうよ?」 フタマタなんてしてません。 いつから僕はダダ星人の彼氏になったのだろうか。 ここは断じて男として強いところを見せなくてはならない。 昭和の男の心意気というのを見せる必要がある。 僕「どっちかっていうと・・・忍ちゃんかなあ」 次の瞬間、思わぬセリフを僕は耳にすることになる。 ダダ「忍?あのコ、彼氏いるよ」 僕はショックでその後の会話はロクに覚えていない。 ひとつ覚えているのは電話口から聞こえてくる雄叫びのような声だけだった。 しかし泣きたいのはどっちかっていうと僕のほうだったのは間違いのないことなのだ。 |