僕は普通の恋がしたかった。 胸がときめくような恋。 相手のことを想うだけで胸がはちきれそうになる恋。 吐き気がするような恋じゃないんだ! その当時、ある女のコが僕を気に入っていたようだった。 顔がとてもダダ星人に似ていた。 残念ながら僕はこれっぽっちの好意も持ち合わせていなかったのだが、そのコは「恋愛は格闘技」であることを知っていたかのようだった。 圧倒的なパワーで有無を言わさずに攻撃を繰り返すそのスタイルは、今から思うに、ボブ・サップに近かった。 ガードがあろうとなかろうとそれは問題ではないのだ。 勝てば官軍なのである。 僕はその猛攻を防ぐのに精一杯だった。 ***** 梅雨の始まったその年の6月のとある日。 その日は僕の誕生日だった。 ダダ星人がちょっと高価なプレゼント攻撃を仕掛けてくる可能性が少しばかりあった。 それならそれで、「こんな高いの受け取れないよ。気持ちだけもらっておくね」と断れる。 しかし、その時僕はとても困惑していた。 ポストに何かが入っていると思ったら、ダダ星人から僕宛ての手紙だった。 開けてみるとバースデーカードだった。 しかしそれだけではなかったのだ。 5枚の厚紙も一緒に入っていた。 それらは、カラーペンで女のコらしく装飾されていた。(下記、イメージ図参照) いったいどうしろというのか えーと。 いろんな意味で間違ってるよ!と取り合えずツッコんでおこう。 デートに誘っておきながらワリカンかよ!とかひみつ♪って何だよ!とか細かいツッコミ所はあるのだが、ありすぎるので省略する。 ただ一つ言えるのは、 全然お得じゃないんだけど。という点だ。 とにかく、これに対してどうリアクションを取ればいいのかがわからなかったのだ。 ダダ星人はたまに人智を超えた行動をとる。 僕は小学校低学年の頃はよくケンカをした。 クラスでも悪ガキだったのだ。 そしてその度に当時のクラス担任だった神崎先生にこんなふうに叱られたものだった。 神崎先生: 「いいか、ケンカするのは悪いことじゃない。でもな、相手の言い分を100%理解したか?その上でケンカするならいい。けど、相手の言い分をわかろうともしないでケンカなんかしちゃダメだ」 先生、本当にわからないこともあるんです! 通常、プレゼントをもらったときのお礼の仕方は、金額に換算すればある程度推測できる。 数百円のお菓子なら、次に会ったときにでもついでの「さんきゅ」で済むが、数万円の時計とかだった場合には相応の対応が必要だ。すぐに電話するとか。 この5枚の券の価値はいくらだ? それがわからなかったのだ。 ・・・。 数日後。 電話があった。 ダダからだった。 ダダ: 「手紙届いた?」 僕: 「・・・。ああ。カードね。ありがと」 ダダ: 「その日のうちに返事とかくれなきゃヤダ〜。」 僕: 「・・・。すまん」 ダダ: 「すっごく価値あるんだからね!」 そうなの? ダダ: 「ねえ、ひみつ券の中身何か知りたくない?」 いや、別に。 僕: 「う〜ん・・・まあ、教えてくれるなら・・・」 ダダ: 「残念でしたー。あれは他の4枚のカードを使い切ったあとじゃないと教えてあげないんです〜(笑)」 つまり肩たたきとか食事とか映画とか泊まりでディズニーランドとかをつきあえ、と? ゴルゴ13が実在したらきっとこの瞬間に雇っていたと思う。 僕: 「そうなんだ。へー。」 ダダ: 「もうちょっと感動してよー。感謝とかしてほしいなあ」 なんか、どうでもいいや。 僕: 「ハイハイ。感謝してます感謝してます」 ダダ: 「じゃあダーリンとハニーになってもいい?」 人間の耳とは不思議なものだ。 どんなに騒がしい場所でも、小声で会話することができるのは、意図的に雑音をシャットアウトする機能が備わっているからである。 タージンとハニワ?
僕には本当にそう聞こえたのだ。だから、 僕: 「何それ?」 ダダ: 「何でもない、もういい」 きっと僕は相当に冷たい男だと思われただろう。 気付いていなかったからこその、そっけない返事だった。 その時に気付いていたら、失神している。 ダダ: 「それじゃあ、一枚目の券、いつ使う?明日とか?」 使う予定はずっとない。 →後編へ続く |