僕と彼女の事情

〜映画編〜


僕は『ターミネーター2』を10回以上観てるくらいのジェームズキャメロン監督のファンである。

あの特撮技術とストーリー展開は、それぞれだけを取れば一番ではないのかもしれないが、それでも総合力においては個人的にハナマルをあげたい。

だから当然あの『タイタニック』も封切り直後に見に行った。

ストーリー展開、そしてディカプリオへの評価はかなり高かったが、残念ながら特撮技術に関してはT2やジョージルーカスのスターウォーズ・エピソード1ほどの前評判はなかった。

彼女はディカプリオを観に、そして僕はジェームズキャメロンの技術力以外の部分を楽しみに、その日の午後、タイタニックを観に行ったのだった。

映画のあと。カプリチョーザでパスタをたべながらの会話。

彼女「大の男がボロボロボロボロ泣かんときーよー。っていうか、他人に言われたくなかったら今度指輪買ってな?」

「男だって泣くときは泣くんだよ。それにそういうとこでいちいちモノをねだるなっちゅうねん」

彼女「始まる前はあんなに『でもジェームズキャメロンは特撮で食ってるような監督だからね』とか言ってたやんか。」

やはり人間、余計なことはいわないほうがいいのかもしれない。

「あの話で感動せぇへんの?」

彼女「そりゃ、エエ話やったけど。それにしてもレオよかった〜。 なんで○ーくんレオとちゃうんやろ? 整形してきて♪」

「むかしは『この顔が好き』って言ってたやんか?!」

女の子というのはずいぶんと勝手なものである。

彼女「なぁなぁ、あの話、本当なのかな?」

「どうだろうなあ、冒頭の宝捜しの話なんかはかなり真実味あったけどね。ジャックとローズの話は・・・どうかなあ?」

彼女「じゃあ、あたし、あのブルーダイヤ欲しい。大西洋行って、拾ってきて♪

おれ、いじめられっこ? 

「そのうちね」

彼女そのうちっていつ?

「本気かい!?」

彼女「じゃあ、じゃあ、あの二人がやってたみたいに豪華客船の一番前に立って、おそら飛んでるみたいになりたい」

「はいはい。わかったよ。あとでな」

彼女はパスタをよそっていたフォークを止めた。

宇宙世紀、人類は宇宙で子を産み、育て、そして死んでいった。

宇宙世紀0079年の一年戦争時、一部の人間たちには、鋭い洞察力、すばやい勘のようなものが備わり始めており、広大な宇宙空間においてさえ、心が共振することも可能になった。

それは人類の革新であった。

ジオン・ズム・ダイクンはそれをこう呼んだ。

彼女「部屋に戻ってからベランダで両手広げる、なんていうアホなこと言わんといてな」


ニュ、ニュータイプ!!!


「・・・」

日本には古くから多くの伝承、昔話というのが存在する。

それらはすべて近代科学の視点からすれば非合理的なモノばかりで、特に技術の進んだ先進国である日本では存在意義が着実に失われつつあるものなのかもしれない。

しかし、どんなに非合理的であろうと、そういった口伝、民話が伝えられてきた背景にはそれなりの理由があるはずだ。

僕はそういった物語のすべてを信じるわけではないが、それらが言い伝えられてきたという事実の裏にはそれに値する何かがあるのではないか、そう思っている。

もちろん、そういった口伝・民話のなかには妖怪などの話も含まれる。

彼女「琵琶湖のビクトリア号もあかんよ」


妖怪サトリ!!


「・・・」

長年つきそった夫婦というのは、あうんの呼吸というか、意識がつながりあってるというか、ささいな表情の変化などで相手の行動が理解できるという。

関西人であればなおのこと理解できるかとおもうが、会話にも人によってクセというのがある。ツッコミにしろボケにしろ、得意分野の流れ、不得意分野の流れ、というのがあり、個人によって異なっているものだ。

そういう会話のクセをつかんでいたからこそ、そして彼氏彼女であったからこそ、こういう妖怪みたいなマネも可能だったのかもしれない。

それは裏を返せば、『ラブラブチュッチュ状態』であったということなのだろうか。

その瞬間にそこまでの考えが浮かんだかどうかは定かではないが、こうまで心理を読まれてしまったことについては、ある種うれしさも感じたのは確かであった。

しかしそれならそれで僕が抱えていた問題についてもわかってほしかった。

仕送りまでの残り1週間の食費5000円がさっき君に買ったピアス代に化けてしまったのだよ!

僕は、貧乏人になっていたのであった。

豪華客船に乗っても3等船室客で凍死は確実だっただろう。




教訓「他にもっと大切なことがあるだろ?」




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