僕と彼女の事情
〜たった一度の過ち〜








当時僕が付き合っていた彼女は女子高生だった。

わがまま放題で、言ってることがたまにわからなかったり。

それも含めて、とても大好きだったよ。

僕は本当に好きだったから、たとえ100%の冗談だったとしても「別れてやる」と言ったことはないし、キミのわがままもできるだけきこうとした。

ささいなことでケンカになりかけても、いつも仲良くしていたかったから、必ず僕はケンカになる前に謝って機嫌をとったりしていた。

たった一回のことだけど、僕とキミはケンカしたよね。

原因は、本当に小さなことだった。

むしろ印象に強く残ってるのは、その時のケンカで「なんで折れてあげなかったんだろう」っていう罪悪感のほうなんだ。

その罪悪感は今でも僕の中に残ってる。

もちろん僕とキミが別れることになったのはそのケンカじゃないし、すぐに仲直りしたし、もしかしたらキミはもう忘れちゃったのかもしれない。

付き合うときに、宣言したよね、

絶対に泣かせたりしない。いつも笑ってるオマエが好きだよ」って。

だからかな、自分の中での罪悪感なのかもしれない。

そう。だから、エスカレートしていくケンカの様子は今でも確かに覚えてる。

*****

いつものように、平日の夕方、僕らはテレビを見ながらケーキを食べていた。

夕方のバラエティ番組だっただろうか。

芸能人の人気ランキングだったかをひとつのコーナーで取り上げていた。

その中にはもちろん、男女それぞれの付き合いたい芸能人ランキングというのもあった。

彼女: 「ねえ、●ーくん。付き合うとしたら、どういうランキング?」

僕: 「ん?1位はオマエ。当然だろ。チュ♪

彼女: 「ありがと♪チュ♪ 知ってたけど(笑)」

人間とはいかに身勝手な生き物であるかということを思い知る瞬間がある。

例えば刑事事件の被害者の人権が注目されるようになったのは21世紀になってからであろう。

2002年の今でも加害者が未成年であれば、おおよその場合、家庭裁判所の審理は被害者側には伝えられない。

戦争の被害を受けた地域の人々がどんな苦難を強いられているか、「タイヘンだ」と口にするのは簡単でもそれを意識の深いレベルで理解するのは困難なことなのかもしれない。

表層レベルで、「他人の行為を許す」と口にすることはできても、深層レベルで真に他人の行為を許すことは難しいのである。

普段、いかに「彼氏彼女なんだから、ま、何しようと好きにすれば?」と口で言っていたとしても、目の前で繰り広げられれば深層レベルでムカツクこともあるのだ。

当時の自分たちがしていたことであっても、目の前で他人がしていれば間違いなく刺している。

チュ♪って何?

彼女: 「じゃあ、2位は?」

僕: 「んー、もちろん2位もオマエだよ、チュ♪

彼女: 「(照)。チュ♪ わかってるって♪」

だからチュ♪って何? どういう流れで?

とりあえずその時の自分は今の自分とは違う、他人であるとして、一応つっこんでおこう。

彼女: 「じゃあ3位は?」

僕: 「んー、もちろん3位も(以下略)」





(めんどくさいので略。つっこみもめんどくさいので略)





彼女: 「じゃあ100位は?」

僕: 「んー、もちろん100位もオマエだよ、チュ♪」

しかし、差し出したタコのようなクチビルには、代わりに、

彼女: 「あんた、いい加減バカじゃないの? あたしが100人もいるはずないやん」

今の僕からすれば、それは当然の言葉であった。

しかし、当時の僕はそれを理解するほど大人になりきっていなかった。

僕: 「う゛…。」

彼女: 「会話っていうのはキャッチボールやろ? ●ーくんのは投げっぱなしやん。受け取れ」

僕: 「じゃあ、101番目は、榎本加奈子で」

彼女: 「榎本? なんで榎本加奈子なの?どこがいいの?あんなAカップのどこが???

ほら、怒るじゃん!!

僕: 「あ、ウソウソ・・・。101番目もオマエだよ・・・」

空気は、一瞬悪くなった。

いい空気に戻さないといけない。

もう一度、チュ♪の関係に・・・。

僕: 「じゃあオマエのランキングは???」

流れからいって、僕以外はないはずだ。

が・・・。

彼女: 「ん〜と、1位が木村拓哉で、2位が竹之内豊、3位が・・・」

僕: 「おれじゃないのかよ?!」

その言葉で、険悪なムードに度が加わってしまったのだった。

その後は、お互いに榎本加奈子と木村拓哉をけなしあう結果となり、最終的にふくれっつらのままの彼女を家まで送っていったのだった。

後日、好きな芸能人の話は一切出なくなった。

そのケンカのあと、密かにジャニーズ事務所の応募規定をチェックしてみた。

はるかに年齢オーバーだった。





 
教訓「木村拓哉には勝てない」




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