僕と彼女の事情
〜オンナゴコロってなに?〜






当時、僕の彼女はまだ高校生だった。

いわゆる『天下の女子高生』だったのだ。

その頃、僕が放課後に学校まで迎えに行って、ウチで軽くパスタでも食べながらレンタルしてきたビデオを観るのが習慣になっていた。

パスタはペペロンチーノか辛子明太子パスタ。

たしかに外で女のコが食べるモノとしてはニンニクがきついものではある。

だから彼女は僕のところに来て食べるのだ。

彼女「ガーリックオイル、多めに入れてね♪」

ベッドの上で寝転がった彼女はマンガを読みながらキッチンに立つ僕にそう言った。

「え〜、いいの? でもそんなんすると口がニンニクくさくなって…」

彼女「いいの! ●ーくんはあたしの言うことを聞いてればいいの!」

現在、アメリカには多くの黒人がいる。

21世紀にも入ろうかという時期ではあるが、いまだに白人と黒人の争いは絶えることがない。

その黒人であるが、もともとアメリカにルーツを持っているわけではなく、それは南北戦争以前の古い時代にアフリカから連行されてきたところに根源がある。

強制的に奴隷として使用されてきた黒人たち。

僕は百数年の時を経て、彼らが虐げられてきた苦しみを理解することができた。

なにゆえ無条件に隷属しなくてはならないのか!

「ハイ、できたよ。多めにガーリック入れておいたし」

・・・・・。

パスタを食べ終わる頃、1本目のビデオがエンディングを迎えた。

彼女が好きな映画はやはり恋愛モノ。

僕が好きなSFアクションは却下されるのはこの身分では当然だろう。

そのエンディングテーマが流れ、ハッピーエンドの余韻に浸っているとき、僕は彼女の肩を寄せ、そして口元に僕の唇を寄せる。

ゆっくり、ゆっくり。

僕と彼女が、付き合っているということを確認する行為。

彼女「ダメ!」

ガツン

彼女が思いっきり僕を突き飛ばしたため、僕は後頭部をしたたかに壁に打ち付けてしまった。

彼女「今はガーリックのパスタ食べたからそういうことはしたくないの! もう〜、ホントにオンナゴコロわかってないんだから〜」

だからニンニクは入れたくなかったのだ。

彼女は続けた。

彼女「●ーくん、最近優しくないもん。オンナゴコロ全然わかってないもん」

彼女の学校が終わる時間を見計らってクルマで迎えに行き、そしてウチでは彼女のリクエスト通りにパスタを作り、そして彼女の肩や背中や腰をマッサージする。

休日には大好きなウィンドサーフィンをしないでお弁当を作って公園に行く。

僕はそこでローソンのお弁当を食べる。

彼女がドラマを観れなかったからという理由で高島屋にネックレスを買いに行く。

夜中の3時に呼び出されて彼女とその友達を彼女の家まで送りに行く。

これ以上どう優しくしろというのか。

彼女「このあいだオセロやったときだって手加減全然してくれないし」

「オセロやりたいって言ったのはそっちじゃん(心の中:泣)・・・」

彼女「手加減くらいしてくれたっていいじゃない」

「だから二回目からは負けたじゃん(心の中:号泣)・・・」

彼女「負け方がワザとらしいんだもん!」

そんな高等なことできるかい!

彼女「それに最近『好きだよ』の一言もいってくれないし・・・」

「毎日言われると言葉の価値が下がるから言わないほうがいいって言ったのはそっちじゃん(心の中:ちょっとノイローゼ)」

彼女「口ではそういってもオンナゴコロはそういうのは言って欲しいの!」

もう何言ってんだかわかんないよ・・・

日本には独自の文化がある。

その独特な部分が顕著に現れるものとしての一つに、国会などの政治の分野が挙げられる。

そこでは、時には自分の思っていることや正しいこと、そして真実などをストレートに表現することがしばしばタブーになることがある。

もちろん政治家には常に真実や正直さなどが求められる資質なのであるが、ひとつの言葉が劇薬となって自らのクビを締める結果にもつながりかねないのである。

モノゴトをストレートに表現することが大事なことではあるのだが、それを口にできる環境というのはあったりなかったりするのが日本の文化なのではないだろうか。

そのオンナゴコロって単なるワガママじゃないの?

僕は重く口を開いた。

決心はもうできている。

「・・・ごめんね」


 
教訓「オンナゴコロは難しい」



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