僕的論文の書き方


実は今回書き進めているマスター論文が、長編モノとしては初めての作品となる。これまでの論文は、長いとはいってもせいぜい原稿用紙にして20枚程度。この

HP上のほかのページのように一発書き殴りでもごまかせる範囲だったのである。原稿用紙100枚程度の論文は、もちろん書き殴りでは埋まらないし話にも破綻が生じてしまう。だから計画的な書き方が必要であり、何らかの合理的な書き方に従って書き進める必要がある。

今回は、その100枚という長編モノをいかに仕上げていくか、という方法を紹介しようと思う。もちろんこれは現在進行形の“試行”なので、うまくいくかどうかもわからないし、みなさんに勧められるものであるかどうかもわからない。

ただ、これから卒業論文もしくは修士論文を書き始める人には、何かの参考になるかもしれない。

 

 

  • 分野を決定する

僕の場合は、「途上国の産業開発に対する積極的な政府の役割を明らかにする」というところまではかなり以前の段階で決定していた。しかし逆にいえばこれだけである。どういう切り口で、どういう話の流れで、どういう学者を基盤に話を展開させていくか、という点は微塵も決まっていなかった。

 

  • 本を読む

この読み方にもコツがあると思われる。なぜなら、修士論文には最低で50以上の参考文献を読まなくてはいけないという暗黙の了解があるし、なおかつその分野で教科書・古典として扱われている文献に関しても当然触れる必要がある。それはつまり、論文中で当該文献の一部を引用したり批判の対象にしなくてはいけないということである。

しかし、50以上の文献について、使いたいフレーズがどこにあるのかなんていうのは記憶しきれるものではない。ポストイットを使ったところで、やはりいちいち本を開いて文章を探すのは一苦労だ。

だから僕は、関連すると思われるすべての文献、そして「開発経済」「産業政策」と名のつくすべての本を読むにあたり、必ずモバイルギアを手許に用意しておいた。これで、気になる文章を見つけたときは、作者、文献の名前とともに文章すべてを打ち込み、ついでにその時に思い浮かんだアイデアも打ち込んでおくのである。

一つのファイルに一つの本の中のすべての「気になる文章」を打ち込んでおけば、あとで本格的に書き始めるときにドラッグ&コピーしたらいいので、その意味でも二度手間を省くことになる。

「参考文献は一度読んだら二度と読まない」

というのが効率的だと思われる。だって50以上もあるんだし。

 

  • オチを考える

つまり、論文で言いたいことを決めるのである。「〜を明らかにする」というのは実はかなりいいかげんな言いかたで、その先に本文中で「

何が何であることが新たに明らかにされるのか」という点を考えなくてはいけない。

実はこのステップは本を読み進めるうちに問題意識として頭に浮かんできたのであり、いうなれば前段階と同時進行かもしれない。もちろんその意味では本を読み進めるうちに最初の分野すらも変更されることもあるのだが。

僕の場合は、マイケル・ポーターのシリーズ、特に「国の競争優位」を読み進めるうちに、「国内企業の競争が国の産業化を推し進める」から「政府はいくつかの手法を用いて競争状態を維持向上させる必要がある」ことを理論的に明らかにしようと思ったのである。

(このことは一見あたりまえのようだが、新古典派の世界では「政府が何もしないこと」が最良の産業政策だと思われている)

オチが決まったら、なおさら文献整理が簡単になる。なぜなら対象が狭まれば、使いたい文章の量も自ずと減るからである。

 

  • ストーリーを考える

論文はドラマだ。いくつかの章から成り立つその文章は、序論から結論に至るまで、寄り道せずに直進しなくてはいけない。

つまり、その内容、順序ともに必要かつ充分でなくてはならず、足りない内容があったり逆に不必要な内容があったりしたらいけないのだ。付け加えたい内容なんだけど、ドラマのなかに組み込めない!という場合には、論文最後に補論としてつけてもいいし、細かい文章であれば脚注にいれてもいい。

順序も、明解なルートを辿る必要がある。ドラマで、回想シーンが多かったり、一度死んだ人間がいつのまにか出てきたりしたらややこしくなるのと同じで、議論を繰り返さないこと、および後ろのほうででてくる結論を先で使わないことが重要になる。

そういったことを考えると、一つのモノゴトを最も明瞭に説明するには、ほとんど一通りのドラマ展開しかないのだ。それぞれの章は、「それ以上でもそれ以下でもダメ」という内容を含み、その位置も「そこ以外はダメ」という場所に置かれることになる。

僕の場合は今のところ、

序論→これまでの研究の流れ→産業化の定義付けと政府に期待される役割→その役割を具体的に分析→新古典派への対応として政府の失敗への対処→結論

というルートを考えている。

 

  • 紙切れを作る

3のステップで打ち込んだ文章は、ある意味スクラップである。本を読みながら打ち込んでいるので当然その順序はその本のドラマ通りだし、いまだにデータとしてファイルのなかに入っているだけなのだ。

そこで、これらを自分のドラマで使えるようにしなくちゃいけない。まず印刷。このとき、それぞれ文章単位で、著者名、文献名とページ番号を入れておく必要がある。なぜなら文献の引用には必ずそれらが必要だからである。

印刷が終ったら、今度はそれらの文章がドラマ中のどこで使用されるべきかを考える。

たとえば、“産業開発の定義”について触れているスクラップがあったとしたら、それは少なくとも結論にくる文章ではない。僕のケースでいえば、おそらく第三章である。そこでこの文章には第三章と印をつけておく。このようにして、打ち込んだ文章すべてに登場すべき章の番号をつける。つけ終わったら必要ならばハサミを使うなりして、章別に集めなおす。これでそれまでそれぞれの参考文献での順序だったものが、自分の順序に置き換わったワケだ。

 

  • スクラップをもとに章別に書き進める

ここでやっと書くことができる。とはいっても、もはやすることはあまりない(笑)。今度はまた、章別でドラマの展開を考えて、それに合わせてスクラップを並べなおせばいい。章別のドラマ展開もステップ4と同じことである。今度は字数が少ない分楽かもしれない。

それぞれの章で結論付けるべきことがら(=オチ)をもっともよく明解にしうる展開を考えればいいだけである。こうなるともうそれぞれの章の長さは、かなり短くなるし、使うべきスクラップも用意されているワケだから、進展はかなり速いと思われる(スクラップをテーブルの上に広げて、順序をあてるパズルをイメージするといいかもしれない)。

 

  • センセイに見せる

これは別に最後のステップというわけではなく、大きなドラマの展開が決定するなり、章別でいうべき結論を決めたらその都度相談するとよいだろう。なぜなら、その論文に点数をつけるその人を納得させることが最終目標なのだから。

 

もう一度おさらいすると、いくつかのコツは下のようになる。

  • 膨大な量の参考文献は一度しか読まない。しかもあとから引用部分を探さないで済むように、はじめから打ち込んでおく。
  • スクラップを作ることによって、パズルゲームのように章別のドラマ展開を考えることができる。

こんな感じだろうか。もちろん、繰り返しになるがこれは僕が進行形で試行している方法であって、万人に通用するとは保証できないし、まずうまくいくかどうかもまだ分からないのである。



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