新古典派経済学


現在米英で主流派といわれる考え方。この学派はその根源をアダムスミスにまでさかのぼることができる。競争によるパレート最適、およびそれに付随するウェルフェアマキシマムを強調する。市場原理に基づいた競争が、諸要素の適正配分を促し、かつ技術の発展をもたらすというもの。現在の世界銀行及びIMFもおおよそこの考え方に乗っている。イギリスではこの考え方が、サッチャリズム=新保守主義のもとでの規制撤廃・民営化をバックアップした。

開発経済にあてはめた場合、途上国の政府はその介入範囲の狭小化を迫られることになる。つまり、国家的支援や国営企業、地場産業育成のための各種補助金などを切り捨て、自由競争・自由市場をモットーとする「小さな政府」となることが要請されるのである。もちろん国際経済の中にあっては、輸出・輸入ともに開かれたものとなる。経済的側面において政府に与えられた役割は、Market Failure、いわゆる「市場機能の欠落」部分に関しての修正のみである。市場機能が欠落する分野というのは、教育・福祉などの公共財や、市場原理を取りこめない自然独占状態についてである。(独占という状態は基本的に許されないが。)また、市場原理が望ましくない結果をもたらす場合(下記郵政行為を参照)や市場原理とは関係のない外部要因(環境汚染など)について管理・規制することが認められるのみである。

ここで想定される開発経路は、外資企業による直接海外投資によってである。安い労働力はそのまま比較優位となって、外資企業を誘致する。直接海外投資は資金のみならず、技術やR&D施設、ノウハウなども包括するので、これにしたがって開発がすすむ。ただし、これは企業行為の現地化が必要事項となる。現地経済と切り離された外資企業の経済活動は、ローカル企業に技術の移転を及ぼさず、現地経済を刺激することもないからである。

この考え方を、わかりやすく説明すると下のようになる。

八百屋の主人のぼやき

「まいったね、向かいのスーパーが安売りを始めたってさ。客がとられちゃたまらん。こっちも安売り始めなきゃ。ますます利益がさがっちまう*1。こりゃ経営を見なおして、ムダを省いて*2、新たに仕入先を見つけなきゃいかんな。新たなサービスも始めるか…。こうも競争が激しいと、いつつぶれるかわからんしな*3。隣町の魚屋はスーパーに負けて店をたたんじまったっていうし。」

おばさんのつぶやき

「スーパーが安売りを始めたおかげで、八百屋さんのお野菜も安くなったわ。やっぱり競争がないとダメなのよね。八百屋さんも新鮮なものをそろえるようになったし、種類も増えたわ。もし、郵便局が民営化されたら、宅急便と競争するようになって、郵便料金も安くなるのかしら*4」

先進国企業の戦略

「まいったな〜。この国では最近、パートですらも高い給料あげなくちゃいけないから、人件費が高くついちまう。このさい、どっか給料安くすむところに工場を移すか。*5」

途上国の政府の希望

「どっかおかね持ってる外国の企業さんがうちの国に来てくれないかな。そしたら、うちの国民働かせて給料がっぽりもらうのに。ついでに機械の扱い方とか教えてくれたらいいな。だって、うちの国民まだそういうの慣れてないし。もしそれで教育してくれたら、今度はもっと高い給料もらえるようになって、また別の企業が“安くて質のいい労働力”を求めてこの国に入ってくるに違いない。*6」

*1 市場競争は売主の不当搾取を不可能にする。つまり、価格競争があるところでは下手に高い値段をつけるとほされてしまうのだ。

*2 市場競争は、恒久的に技術革新を要請する。経営の合理化と新規戦略の提案は競争力を維持するための基本的要素である。

*3 市場競争においては、つねに破産および赤字のリスクが伴う。これと対照的なのが国営企業である。例えば、林野庁の膨れ上がった赤字は有名であろう。このように赤字のリスクが破産に直結しないところでは、放漫な経営になりがちである。

*4 一時期話題になったのが郵政省の民営化である。ここでのポイントは、郵政省が黒字運営であること。および、離島・山岳奥地地帯への配達義務である。まず、黒字運営の状態ならば当面民営化の緊急性は薄い。ほとんどの場合、民営化はその放漫経営が問題化されてから議題にあがる。次に、経済的視点からすると離島・山岳奥地地帯への配達は理に適うものではない。50円のハガキ一枚のために郵便ボートを走らせたり、山奥に入っていくのは大幅な赤字原因となる。現在郵便行為が国営に限られているのも大きくはその理由による。

*5   比較優位とは、もともとリカルドが考えたもの。経済をやった人なら一度はワインと布の話を聞いたことがあると思う。

*6   政府の役割は制限的なものになるので、ここでの政府は全部希望を愚痴るだけということになる。積極的な外資企業誘致は、政府の恣意的価値観が介入するので好ましくないとされる。



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