風俗産業と経済


はじめに断っておくが、僕は風俗愛好者でもなければ売春擁護者でもない。今回の目的はあくまで売春行為などに代表される風俗産業を経済学的に分析することである。僕がいつも女性よりも下位にいることは別コーナーで明らかではないか(苦笑)。

売春、援助交際、ソープ、ファッションヘルス、キャバクラ、イメクラ、ピンクサロン。いろいろと名称分類があるが、そこに通じる原理は一つである。すなわち、性欲充足を経済的な手段=カネで求めるのである。

このテの産業にはいくつか産業的な特性がある。

  • 追加的費用がかからない

たとえば自動車の販売を考える。仲介業者や中古のディーラーが一台のベンツを売ったとすると、その引き換えにベンツを手許から一台失うことになる。当たり前の話だ。だってそのベンツは買主のところにあるんだから。したがって、新たなベンツを製造もしくは入手しなくては、次の販売が不可能になる。このとき、新たなベンツを買う費用を「追加的費用」という。

しかし、風俗産業は主に女性がそのカラダを用いて、買主の欲求を満足するのであって、物理的に何かを失うということはない。簡単な話、何も減らないのである。したがって、元手さえかければあとはかかる費用がない、ということになる。元手といっても、それもあまりないか…?。

  • 市場の飽和がない

普通、どんな市場にも飽和というものがある。例えば古い例では、アメリカ・フォード社の

T型自動車がアメリカ中の市場を席捲した際、存在したと思えるほとんどの需要をそれでまかなったのである。つまり、T型フォードだけでその市場を飽和させてしまったのだ。一度需要が飽和されると、次には代替的需要しかない。現在の日本などそうだろう。すでにあるそのクルマを買いかえるところにしかもはや需要はない。給料が増えたからといってクルマを一台増やす、なんてことはあまりないのだ。

しかし、風俗産業の場合、対象となる市場は性的な欲望であって、これは生物学的にも欲望を飽和させることは不可能である。あるいは、男女の組み合わせが合致して「性的欲求を満足させてくれるパートナーをすべての男性が確保する」という解決法もあるが、それも現実には不可能である。従って、生物学的な欲求に基づいた風俗産業には市場の飽和がない、ということになる。

  • 技術革新がない

ハーバードビジネススクールのマイケル・ポーターは、その著書「国の競争優位」のなかで、すべての国において一番重要な成長要因は「産業のイノベーションとグレードアップ」だといっている。すなわち、どの産業においても、もし国際的な競争力を得ようとするなら、技術革新と介在する商品のレベルアップが必要だというのである。事実、日本が高い競争力を誇る自動車産業では、他の国では考えられないような速さでモデルチェンジが行われている。二年に一度のマイナーチェンジ、四年に一度のフルモデルチェンジなど、フォードの7年という長さに比べたら驚異的である。また、アメリカが誇る

CPUのモデルチェンジも速い。66MhzDX4から500MhzPentium3までかかった年月はわずか6年かそこらである。

翻って風俗産業では技術進歩がない。そもそも生物学的な性的な欲求を対象にしているので、享受できる満足そのものに限界があるのである。簡単にいえば、脳内に分泌されるエンドルフィンの量がその満足を決定しているのであり、女性がそのカラダで与えられる満足にはおのずから限界があろう。従って、女性が行う行為自体には革新性がないのであり、これは先進国、途上国区別なくどこでも同じ、という結論になる。簡単にいえば、アフリカ人がする性行為もブラジル人がするのでも、日本人がする性行為と同じ、ということだ。これはつまり、性行為自体はもはやこれ以上の成長はないのであり、サルがしているのと同じレベルを今後も維持し続けるだろう、ということだ。同時に、革新性のなさは、産業として成長性がないということをも意味する。

  • 参入障壁が低い

これは上記の1

.と似たような内容だが、追加的費用に限らず、かかる初期費用も低いのである。参入障壁にはいくつか種類があって、代表的なものにはまず、規模の経済、製品差別化、巨額の投資、仕入れ先を変えるコスト、特許、政府の政策などがある。規模の経済とは例えば市場範囲が規定されていて、新規参入がすべての競争者にマイナスに働くようなケースである。例えば、すでにコンビニが10軒以上もある狭い街にこれ以上のコンビニ設立は破壊的な競争をもたらす。次に、製品差別化とはすでに確立された製品市場が新規の参入を拒むケースである。VAIOに始まる薄型ノート市場に分厚いタイプを投入することは危険であることからしても理解できよう。巨額の投資とは例えば下水道・電気・通信分野など初期投資が巨額な産業は、新規参入が難しいということである。第二電電などはすべて国有ケーブルを借りる形で解消しているが、それを自前で設立するのは不可能であろう。仕入れ先を変える、とはつまり新規製品を作るための流通上流を確保することが難しいということである。特許は医薬品を想定してもらえればよいだろう。特許に守られたバイアグラに対抗する同様の医薬品市場には同じレベルの開発を強いられることになり、バイアグラをベースとした研究は特許によって不可能にされているのだ。最後に、政府の政策が産業構造に影響を与えるのは当然である。

一方風俗産業のほとんどは、女性のカラダさえあれば成り立つ商売なので、初期投資もかからないし、仕入れ先もない。特許もないし、無限の欲求によって規模の経済制約もない。ただし二つだけ、政府の政策と製品の差別化である。政策的にはそもそも個別の風俗産業を取り締まるのではなく、風営法によってすべての風俗を取り締まるのであるから個別の競争には問題はない。また、製品の差別化というのも、おそらく20代前後の女性が最も高い需要を持つがそれは独占された製品ではない。つまり、参入障壁が他の産業にくらべて低いのであり、案外簡単に参入できるのである。

 

以上がおそらく風俗産業にあてはまる特性なのであるが、これが以下のような結論を導く。

  • 就職難には労働人口が増える

これは現在、就職にあぶれた若い女性が風俗産業に流れていることからも理解できよう。カラダが資本であるので、コンピュータのような特殊技術が必要なワケでもなく、誰にでも可能なのである。従って、労働市場においても需要が飽和することのない分野でもある。

  • マーケット戦略によって市場での地位を確保する

そもそも技術革新によって競争を乗り越えるのではなく、マーケティング活動によって市場を確保していく。つまり経営戦略においてもっとも重要なのは労働力であり資本である女性の確保と、広告活動である。

  • マクロ経済を活性化させる

ここが一番重要なのだが、この風俗産業に流れるおカネというのは、初期投資も追加費用もかけずに得たおカネである。つまり、まるまる付加価値なのであり、簡単にいってしまえば「奢侈的消費」なのである。別ページでいったとおり、経済の活性化には奢侈的消費が鍵を握る。これが『破綻しないレベル』で活性化することが重要なのだ。バブルはこの奢侈的消費が活性化しすぎて破綻したケースである。皆がそこそこのレベルでタクシーを使い、ホテルに泊まり、旅行をし、ちょっと高い買い物をする。これが現在国民が望む好景気なのであるが、その根底には奢侈的消費が存在するのである。現在の不景気の原因の一つである「サイフのひもの固い」状況は、奢侈的消費に対する抑制なのであって、これが解消されなければ、不景気のままということになる。

これらをまとめると、風俗産業には実は景気回復の鍵があるということになる。もちろんこれはあくまで経済学的な分析だけの結果だが。

社会学や人生論には明るくないから、あまりでしゃばったことは言えないのだが、『自尊心を削る行為』はたとえおカネを稼ぐためであってもするのは望ましくないと思う。もしその風俗という商売が『これがあたしのやりたかった仕事なんだ!本望なんだ!!』というなら話は別で、心行くまでその道を極めてもらいたいのだが、おそらくそういう人はごくわずかだろう。他人に自信をもって紹介できる商売。つまり、『自尊心を満足する職業』に就くのが一番であろう



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