第三章

:途上国開発の前提条件としての多国籍企業によるグローバル競争

 

 

第四章

:産業化の要素に対する新しいアプローチ

1) 何が経済発展の要素なのか?〜経済発展の原動力としては、静態的均衡状態で生み出されたパレート最適化やワルラス的資源配分などよりも、均衡を破り市場構造を変えていく動態的競争状態が前提として理解されなければならない。そしてその動態的な競争状態に経済発展の可能性があるとすれば、シュンペーターのいう「企業家による新結合」が動態的発展には欠かせない要素となる。つまり、下記の5つの「新しいモノ」が市場構造や市場競争をより高次なものに変えていくのである。

2) 何が国家的な経済発展において欠かせない要素なのか?〜ミクロレベルでは企業家の新結合(=イノベーション)が経済発展の要素であると理解したが、では国家的な経済発展においては何がそれらイノベーションを促進させるのか。それについてマイケル・ポーターは「国内市場における競争状態がもたらす市場競争のグレードアップ」が不可欠な要件だと考えている。すなわち、技術革新や新製品、新しいアイデアが生まれるのは、企業が安穏とした環境ではなく過酷で熾烈な競争の渦中にいるときであると主張するのである。「国の競争優位」の中でポーターはいくつかの国の事例を示した上で、政府の役割として、国内競争を高いレベルで維持することであると結論づけている。

3) 何が国内競争を刺激し、グレードアップさせるのか?〜国内競争の存在が国内市場とそれのプレイヤーである企業をグレードアップさせうるのであれば、どうやって政府は国内競争を高い次元で維持しうるのか問われなければならない。これは競争のプレイヤーが企業であることを考えれば、「何が企業を競争に駆りたてるのか」という質問に置きかえられる。高い次元の競争とは、企業が競争に駆りたてられる状況のことだからである。それはハーシュマンによって、「成長の見込み」として理解されている。つまり、企業が利益追求を前提とする組織であるならば、利益の存在が示されれば企業はそれに向かって努力をするという議論である。これはより具体的には利益の可能性として理解されよう。また、コルナイによって、「ハードな予算制約」が企業に危機感を与え、慎重かつ大胆な経営努力を企業に強いるとも主張されている。前者がポジティブな努力要因であるのに対し、後者がネガティブな努力要因であるということができよう。

4) では政府は、どうやって「利益可能性」と「ハードな予算制約」を国内の企業家に与えることができるのか?〜「ハードな予算制約」に関しては、もっとも単純な方法は財政的保護を与えないことである。資本がその企業独自の範囲であることを前提として行動すれば、温情主義に依存しない経営となるだろう。しかし途上国の多くではそれら自存の資本が未熟であることから政府援助は避けられないものでもある。この点については第7章において詳しく扱う。では利益可能性とはどうやって示すことができるのか。利益可能性とは、競争においていえば他企業に対する生産性の向上である。生産性を向上すれば、他の企業に対しては優位性を得ることになる。したがって、企業に対していかに「生産性向上の可能性」を示すかが企業を刺激する条件となる。ここで生産性の定義だが、それは「コストに対する生産量」と与えておく。そしてその「コストに対する生産量」は二つの要素によって分解される。一つは「技術革新による生産性の向上」と「生産量拡大による生産性の向上」である。前者は、「同じ生産量だが生産工程を工夫することで生産性を向上」することであり、後者は「同じ生産工程を使用するが生産量を増加させ規模の経済を達成することで生産性を向上させる」ことである。したがって、企業が競争に対して刺激を受けるのは「新しい生産工程」と「新しい市場」を示されたときであると理解できる。第5章では政府がいかにして「新しい生産工程」の可能性を示し、企業の新結合を促進させるかが扱われる。また、「新しい市場」の可能性を示すことについては第6章で説明される。

 

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