千手観音は千手千眼観自在菩薩といって頂上に11面の化仏と千の手を持ち、それぞれの手に目を持ち自在な力を発揮するといわれている。 京都市内のあるところに、古くから人々の信仰を受けてきた古い寺院がある。 その寺院の本尊は千手観音菩薩であり、平安の昔から今日に至るまで穏やかな微笑みをたたえてずっと人々の平穏と幸せを見守り続けている。 そして今日もまた、千手観音にお願いごとを言いに、参拝客が後を絶たない…。 メガネをかけた、ちょっと陰鬱な感じのする青年。 髪はボサボサで目の下にクマを作っていた。 襟がくたびれたシャツを着て、ジーンズもボロボロ。 「こ、今年でダメだったら来年は4浪なんです。今年こそ、今年こそ京都大学に入学したい。絶対合格しますように!!」 青年はお賽銭箱に小銭を投げ入れ、そして手を合わせた。 中学生と思しき少年が一人で自転車に乗ってやってきた。 カゴの中にはサッカーボールが入っている。 サッカー部の部活の帰りだろうか、顔も手も汗とほこりで汚くよごれている。 「一生懸命練習しますので、将来はサッカー選手になって中田選手みたいに世界で活躍したいです。神様、僕の願いを聞いてください」 少年は100円玉を賽銭箱に投げると手を叩いて、静かに頭を垂れた。 子供をベビーカーに乗せた若いオンナのコ。 銀色の髪に色黒の肌。 ピンクのルージュに厚底のサンダル。 いわゆるママギャルというのだろうか。 「あたしとまーくんの愛の結晶のタクヤが木村拓哉みたいにカッコよくなってジャニーズに入ってたくさん儲けていっぱいいっぱい稼いでくれますように。」 高校生の女のコ。 ルーズソックスははいているものの、髪は黒いままだし、きちんと制服を着ているところを見ると、普通の女子高生なのだろう。 「クラスの田中君が好きなんですが、告白する勇気がありません。明日、思いきって『好き』って言おうと思います。あたしに勇気をください」 少女は手を合わせて、しばらくの間そこで目を閉じて頭を下げた。 おばあちゃんがやってきた。 目が悪いのか、少し足元がおぼつかない。 あたりをキョロキョロと見まわしたあと、賽銭箱に小銭を投げ入れて、手を合わせた。 「アタシは今年で78になります。子供が3人いて孫も5人おります。ですが、千手観音菩薩さまの御力でアタシを17歳の女子高生に生まれ変わらせてくだしゃい。おねげーします」 |