ロックンロールだベイベ!



中学のときの話である。

やはり出会いは文化祭であった。

放送部はもはやホストクラブと化し、廊下を無防備に歩くカワイイ女子生徒は次々とその暗い大音量の空間に引きずり込まれたのであった。

マクーの魔空空間もびっくりであった。

中高一貫の男子校の文化祭だったので、お客さんも当然中学から高校までの女子生徒だったのである。

僕が中学のころといえば、今と同様、ヴィジュアル系ロックバンドが全盛だった。

ホストクラブではそういった音楽を大音量で流して、口元を寄せてしゃべるという姑息な手段を行っていたのである。

今ならセクハラで1000万の賠償金は間違いないだろう。

そんなオヤジ的行為を楽しんでいた文化祭が懐かしい。

さて、その年の文化祭、僕はなかなかカワイイ女の子を見つけた。

またも文化祭か?おまえには何回文化祭があんねん? と突っ込まないで欲しい。

当然ダブっている。

時間差攻撃のようなものだ。

人気ホストがぐるぐるとテーブルを巡回するがごとく、僕も一度に3つくらいのグループを担当して机を移動していたのである。

たしか、そのコたちが制服で来店していたので、あれは土曜日のことだったと思う。

僕はターゲットをロックオンして、廊下を歩いていたそのブレザー姿の3人に声を掛けたのであった。

ひとことめはもちろん、白い歯をキラリと輝かせて、少し斜めに構えながら人差し指を向けて。

「キミの瞳にフォーリンラブッ!

であった。

恐るべき中学生に違いない。

いま目の前にこんな中学生がいたら張ったおすのは必至である。

ところでそのかわいい女の子。率直に言おう。

僕は、こいつはイケルで! と直感で確信した。

向こうもこっちに興味がありそうな気配を感じたのだった。

一時間ほどの会話は終始音楽のことで盛り上がった。

放送部のイベントである。あたりまえといえばあたりまえだった。

ただ、ひとつ会話がかみ合わなかったのが、彼女がコテコテのヴィジュアル系バンドのファンだったことだ。

かまいたちってどんな歌だしてるの?

By Sexual ってなに?

とりあえず話がわかったのはX(現X Japan)とたまだけであった。

ちなみにシャ乱Qも当時のバンドブームの際、大阪の歩行者天国から生まれたバンドである。

僕は話の流れを止めないように必死だったのである。

見てないんだから「イカすバンド天国」(通称・イカ天)の話ふらないでくれよ!

***

彼女たちとはそれからお互い3人くらいで一ヶ月ほどのあいだに数回、放課後マックをした。

下北沢や渋谷、あるいは二子玉川のマックで待ち合わせをしておしゃべりをするだけのことなのだが。

1on1でのデートに誘うことができたのはほぼ二ヵ月後、もう初冬の時期に近かった。

グループならまだしも、ひとりでボケとツッコミをこなすにはまだ余裕のなかった時期である。

かなり緊張度の高いデートであった。

その日曜日、彼女はおそらく目一杯のおしゃれをしてきたのだろう。

どの努力は目に見えてわかった。

かなり細かいところまで念入りにおめかしされていたのだ。

服のコーディネーションも相当念入りに考えたんだろうね。

でも金のラメ入った紫のタイツで現れたときは見て驚いたよ。

そのときびびってちょっとおしっこちびっちゃったのは誰にも言えない秘密だ。

僕はとりあえず

「似合ってる・・・かな?」

としかホメようがなかった。

しばらく渋谷をぶらぶら歩いたあと、キミは歩行者天国を歩きたいって言ったんだよね。

竹の子族とか一世風靡セピアとか、そして当時はデビューを夢見るロックバンドがわしゃわしゃといた、あの原宿歩行者天国のことだ。

着いてみるとそこには、黄色や、といったカラフルな色彩。

どこの惑星からいらしたのですか? というような奇天烈な格好をした方々で一杯だった。

違和感を生じていたのはむしろ僕のほうであった。

彼女は、お目当てのバンドがあるようで、迷わずその人ごみをかき分けて歩いていく。

着いた先ではちょうどそのバンドが曲を始めようとしていたところだった。

キャ〜、キャ〜

バンドみんないくぜ〜、死ねよコラぁ〜、地獄まで一緒に行こうぜぇ〜

かなりコアなパンクであった。

地面に低い位置からボーカルがいまにもよだれをたらしそうな感じでしゃべっていた。

ドラムが速いビートを刻み、ベースが重低音を刻む。ギターが鳴りボーカルがシャウトして跳んだ。

周りを取り巻いていたファンはそのリズムにあわせて一緒に跳ね始めた。

ちらっと横を見ると、彼女もリズムに合わせて小さく跳んでいた。

シャウトする部分では一緒に叫んでいる。

あ、あうう・・・。おれはここで一緒に跳べばいいのか? 跳べるのか?

この理解しがたいコアパンクについていけるのか?

いや、おれにはわからない・・・

曲についていけずに跳べない僕は、この人ごみの原宿でこの上ない孤独を感じていた。

おれは今、一人だ。

ここって、地球だよね・・・?

目の前ではパンダのようなメイクをしたスキンヘッドが地面に近い位置でよだれをたらしながらシャウトしていた。

地球が銀河系外からの攻撃を受ける日もそう遠くないのではないか、ふとそんなことを思った一日だった。

あの日以来、電話してないけど元気にしてる?

ユカちゃん、いまでもパンクは好きなのかな。

あのときキミに薦められて買った500円のデモテープだけど結局聞かず終まいで、上からラジオの英会話教室を録音しちゃったんだ。ごめんね。


教訓「相手に合わせることも必要だ。しかし無理な場合もある」




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